表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/88

残念生物達へのゴホウビ

 瀟洒(しょうしゃ)な客間の中には、甘ったるい匂いが充満し、何処からともなく美しい旋律が響いていた。


 艶々とした赤い果実がのり、真っ白なクリームで覆われたふわふわの菓子が、大きく開かれた口の中に消える。

「——こ、これは——」

 くわっと、糸目が見開かれ、最上級の紅玉に似た、硬質な輝きを有する瞳が真丸になる。

「——厳選したいちごの甘酸っぱさと、クリームの控えめな甘さが、絶妙なハーモニーを醸し出すんよ……! スポンジの食感もふんわりで、口の中で溶けちゃうねんっ! 流石は、大陸中央部でも屈指の老舗の味……!!」

「それは良かったな」

 フォークを片手に、感動に打ち震えるハムスターもどき。

 そんな残念生物に、書類を確認していたリアが、平坦な声で相槌を打った。

 リアの膝の上には、毛艶の無い黒猫が丸まっており、その黒猫は抱え込んだ蓄音機から流れる音楽を、快さげに聴いている。

 蓄音機の音色に合わせ、ピコピコと黒猫の尻尾が揺れ動く。

 そして、彼等の目の前にある十人掛けのテーブルの上には、盛り沢山の菓子がテーブルから溢れんばかりに置かれていた。

 ——ぶっちゃけ、甘味に関しては好きでも嫌いでもないヴォルケは、漂っている匂いだけで胸焼けがしてくる。

 ヴォルケは、故郷で食べた素朴な焼き菓子をリアに持ってきたのだが、当の彼女が滞在していた部屋では、超高級店の菓子がてんこ盛りになっていたのである。

「……いいのか、おい……」

「必要経費だ」

 王城の中で堂々と菓子を堪能している人外を見て、ヴォルケは余りの能天気っぷりに眩暈(めまい)を覚えたが、リアの返答はヴォルケの求めるものからずれていた。

 まあ、リアの事だから、相応の対策をとっているのだろう。

 ……それ一つで、ヴォルケの一日分の食費を軽く凌駕(りょうが)する超高級菓子達の総額については、何も考えないことにする。

『——いや~ん、萌え萌えですね~っ!』

 壁際で薄い本片手にごろごろ転がるウサギの着ぐるみなんて、ヴォルケには見えていない。

 そっちの趣味ではないヴォルケにとっての禁断の書なんて、見えないったら、見えないのだっ!

「それで、何の用だ?」

 書類から視線を上げたリアが、そう言って首を傾げる。

「いや……」

 何の用かと問われても、ヴォルケはただ、自分が美味しいと感じたものをリアに持ってきただけだった。

 だが、自分の手にある貧相な焼き菓子と、豪華な超高級菓子を比べて、躊躇(ちゅうちょ)してしまった。

「お菓子くれるん?」

「いや、お前に持ってきた訳じゃないからな」

 ハムスターもどきは、ヴォルケが持つ袋の中身に目ざとく目を付けたが、別にヘンなイキモノの為に買って来たのではない。

「ふうん?」

 リアは目を瞬かせた後、徐にヴォルケに向かって隻腕を差し出した。

 ——ヴォルケの菓子が欲しいと言う、意思表示だろうか?

「……これ、安物だぞ?」

「それがどうした。 利益があるなら、私は貰えるものは貰う主義だ」

 リアの物言いが可愛らしいと思うのは、ヴォルケが重症だからなのか。

「ウチも欲しいねん」

「自分で買って来い」

 超高級菓子を頬張りながらのハムスターもどきの要求を、リアはばっさりと切り捨てる。

 山盛りの超高級菓子を目の前にして尚、安物の菓子を欲しがるとは、ハムスターもどきはどんだけ食いしん坊なのか。

「リッちゃん、ずるいねん」

 恨めし気なハムスターもどきを無視し、リアは木の実を混ぜ込んだ菓子を口の中に放り込む。

 素朴が取り柄の菓子に、リアの表情が和らいだ。

 ハムスターもどきに比肩するかは不明だが、リアも甘いものが好きらしい。

 リアが常に小さな飴や砂糖菓子を懐に忍ばせているのを、ヴォルケは知っていた。

 下らないことで駄々を捏ねる、真竜(!)の化身に、彼女は面倒臭げに己の菓子を与えていたので。

 食いしん坊の残念生物が一発でやる気を出したので、相当良い品であることは間違いない。

「悪くはないな」

 上から目線の言葉と共に、リアがヴォルケの口の中に菓子を放り込んでくる。

 ヴォルケの下の上に、何処かほっとする甘さが広がった。


『——リッちゃん、その悪戯っぽい笑顔が最高だと思いますっ!! ありがとうございますっ!! ありがとうございますっ!! 大事なことだから、二度言いましたっ!!!』

「……白姫、いちいち煩い。 黙っていられないのか」

 ばんばんと床を叩きながら転がり回るウサギの着ぐるみに、リアは冷めきった目を向ける。

『マンネリ化はアカンのです。 わたしは、新たな萌えを開拓中なのですよっ!』

 腰に前脚をあて胸を張る着ぐるみに、ヴォルケはちょっと引いた。

 イロイロと幅が広すぎて、ウサギが変態に見えてきた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ