不真面目に見える真面目な決闘
地面がむき出しになった、広いだけの場所。
青空の下、そこに設置されたもので目に付くものは、何番目かに比重が高く加工しにくいという金属で造られた、何代も前の騎士団長の像ぐらいか。
ローディオの技術を喧伝する為に制作された、等身大の像は、だが、芸術性がいまいちらしく、わざわざ見に来るものは大していない。
——そんな味気の無い訓練場は、何故か混沌状態に陥っていた。
ピコピコと気が抜ける音が響く時点で、なんだかもう緊迫感が行方不明である。
その音は、異国の青年が手にする、玩具にしか見えない鈍器から発生していた。
「ふはははは、俺を倒したければ、もっと性能が良いやつを持ってきなさ~いっ!!」
見るからにおかしな精神状態で高笑いしている青年は、その言動に似合わぬ素早くキレのある動きで、手にした鈍器を振るっていた。
鈍器が相対する剣と打ち合う度、ピッコン、ピッコン、と、ナニカをそぎ落としていく様な音が鳴り、訳の分からなさを助長していく。
「——ふっ!」
ふざけている様にしか見えない黒髪の青年に斬りかかるのは、金髪碧眼の青年だった。
こちらは、親の敵でも討ち取らんばかりの気魄と殺気に満ちていた。
使用している剣も、対魔物用の魔道器で、身体能力を増強させる魔法具を身に着けている。
勿論、人に向けていいものでも、人相手の訓練に使用していいものでもない。
……逆から言うと、実用性に疑問符が付く外見の鈍器が、魔物の強靭な皮膚を切り裂くことを前提とした魔道器と競り合うこと自体、イロイロとオカシイのだが。
一見して態度は真逆であるものの、真剣さのみは共有している二人の青年の激闘は、しばらく終わりそうにも無い。
「——お前はおっちゃんのお母さんかっ!」
「黙れっ! ——あんな女など、ぜぇったいに認めんっ!! 大凶星持ちの嫁に、将軍の癒しが務まるかっ!!!」
ピコッ、ピコッ、ピコッ、と、明らかに場違いな音を響かせながら、青年達の熾烈な剣戟(?)は続く。
「ねーちゃんだってな、ねーちゃんだってな! ちゃんといいところがあるんだぞっ!! ツンツンだけど、おっちゃんにはデレるんだぁっ!!!」
「意味が分からんわぁっ!!!」
拳を握って力説する黒髪の青年に、金髪の青年がキレ気味で斬りかかった。
「とぉっ!」
——が、振り下ろされた剣は、黒髪の青年に掠りもしない。
「それに、甘いものは好きだし、実はふわふわ好——ぐほぉうっ?!」
大声で『ねーちゃん』の良いことを言い連ねていた青年の言葉は、真横から飛んできた像により、強制的に中断された。
「騒ぎを起こすな、と言わなかったかしら?」
「……ひ、ひどい、ひどいぞ、ねーちゃん……」
当の『ねーちゃん』に投げつけられた像の下敷きになりながらも、黒髪の青年は元気に泣き真似をしつつ顔を覆った。
大の男の十倍以上の重量を有する、騎士団長像をぶん投げた娘の腕力も、その像が激突した上に下敷きなっても尚、けろりとしている青年の耐久性も、到底人族の枠では括ることが出来ない。
何が恐ろしいと言えば、その尋常ならざる身体能力が、魔法具に頼ることなく発揮されていることだ。
この二人がその気になれば、余りにも呆気なく、他者を素手で殺害できるのである。
「ファルケランツェ殿、私の遠縁が、失礼いたしました」
潔く頭を下げる娘に、平民将軍の副官はどう対応したものか、図りかねていた。
……娘の右足が、己の遠縁だと言う青年の頭を容赦なく踏み躙り、顔面を地面に押し付けていたので。
「ね~ちゃ~ん、……いひゃい、いひゃい……」
「クロード、貴方もファルケランツェ殿に謝りなさい」
娘が青年の頭から足を退かし、溜息交じりに命じる。
「って言うか、ねーちゃん、俺、これからフェリクスさんと仲良くなるところだったんだぞ」
そう言って、クロードは子供の様に頬を膨らませる。
通常の成人男性には全く似合わぬ振る舞いだが、クロードがやると、特に違和感がない。
「……どうやって、仲良くなるつもりだったの?」
娘の問いかけに、クロードは親指を立て、満面の笑みを浮かべた。
「殴り合った後に、夕日に向かって一緒に走ると仲良くなれるって、本に書いてたんだっ!」
あほー、あほー、と、遠くでカラスが間抜けな鳴き声を上げていた。
クロードとフェリクスは殴り合ってないし、まだ空は青い。
——そもそも、彼は一体何の本を読んでいたのだろうか……。
*『萌えよっ! 青☆春っ!!!』プリマベラ・アスル作*
白うったんのナカのヒトがクロードに貸した本。
青春の萌成分が、この一冊に凝縮されている。




