6 絆の原点
ジータが王の養女になったのは、九歳のときだった。すでに影の一族の少年少女の中でひときわ優れた才能を示していた。
これならばと推薦されたジータを一目見て、レナート第一王子は歓喜した。
「君が妹? 兄弟がいないから嬉しいよー!」
といきなり手を握られた。
その無防備な笑顔にジータは決意した。この人を守るのが私の使命だと。
四歳年上のレナートは何をやってもジータに勝てなかった。
勉強はもちろん剣術も武芸もジータに完敗だった。
でも怒ったりしなかった。ヘラヘラ笑っていた。
ただし遊びは得意だった。ジータ相手にかくれんぼをしたけれど、すぐに見つかった。
それが悔しかったのか、馬車の御者に頼んで王宮の外に出た。
郊外の花畑にやって来た。菜の花畑の鮮やかさとツンとする匂いに目が釘付けになった。
レナートは走り回った。芝生の上で仰向けになって空を見上げた。
(この綺麗な花畑をジータにも見せてやりたかったな……)
「お兄様、そろそろ帰りましょう」
レナートが振り返るとジータがいた。
「なんでここが分かったの?」
「私も馬車に乗っていました」
「どこに隠れていたの?」
「秘密」
「ほんとだ。どこに隠れてやがったんだ」
御者のムーロが言った。右手にナイフを持っていた。
「すまないが二人とも死んでもらうぞ。安心しな、痛くないように即死させるからさ」
「逃げて!」
ジータはレナートの前に出てムーロと対峙した。
「早く!」
するとムーロがナイフをクルクル回転させて、ベルトの鞘に収めた。
「合格だ」
これは養女の最終試験だったのだ。どんなに訓練で成績が良くても、実戦で役に立たなければ困る。
ジータが身をもってレナート第一王子を庇えるかを試したのだ。
その日の夜、ベッドで肩を震わせてシクシク泣いていたジータ。
「ジータ、大丈夫?」
レナートが心配して顔を覗き込もうとした。
振り返ったジータは目が真っ赤になっていた。
「そんなに怖かったの?」
「怖かった。もしあれがテストじゃなくて、レナートお兄様に何かが起こったとしたら……私は生きていけない」
「何で? 君の使命だから?」
ジータは首を振った。
「お兄様のことが、誰よりも大好きだから」
それを聞いたレナートは、感激してジータを抱きしめた。
「大丈夫。僕は死なないよ。それに守られてばかりはいられない。僕は君を一生守る存在になりたいんだ」
「変なの、守るのは私よ」
レナートは苦笑いをした。




