5 王の間の罠
「結果は父上の前で発表してほしい。そうするのがいいと思うんだ」
兄の言葉にジータはうなずいた。
ーーあの二人のうちどちらかを選べと兄に進言したのは王である父上だ。ならばきちんと書類を作って提出しなければならない。オーレア王国の第一王子の婚約者を選ぶのだ。一部の隙も許されない。
ジータは自室に籠って、ローズとテレーザの報告書を作成した。夜遅くに完成した報告書を机の上に並べた。
いつの間にか窓の外がしらじらと明るくなっていた。スズメの鳴き声が聞こえた。
ジータは窓辺に近づいた。
ーー二人とも人格、実績は申し分のないS級。
容姿もS級。
愛国心もS級。
私はどちらを進言すればいいのだ?
こんな逸材を兄の婚約者という鳥かごに閉じ込めていいのだろうか?
それこそ、オーレア王国に対する大罪ではないのか。
ローズのことを思うと胸の奥がチクリとうずく。
テレーザの知性は、この国一国では収まらない。大陸レベルの視点を持っていた。
それでも、ジータは苦渋の決断を下さないといけない。
影の一族は、王族を守るのが使命なのだ。
日曜日。
紙袋に二人の報告書を入れて、ジータは王の間に入った。
王座の左右には閣僚たちや貴族院の議員たち、そして近衛騎士が並んでいた。
そしてジータ王女の前に二人がいた。
「やあ、お久しぶり」
ローズが振り返ってジータ王女にウインクした。
「相変わらず几帳面ね」
テレーザが、ジータ王女の手にした書類の束を見て言った。
「なぜ、お二人が?」
王と王妃、そして兄のレナートが並んだ椅子からジータ王女を見ている。みんな口元が緩んでいた。
ーーそうか。兄の婚約者が直接選ばれるところを見たいんだ。
ローズとテレーザ、どちらが選ばれるか、それは気になるわよね。
「父上様、母上様、兄上様、ご機嫌麗しゅうございます。父上の提案の兄上の婚約者のこと、詳しく調べてみました。詳細は報告書にまとめました」
「おう、できたか。こちらによこしなさい」
王が言った。
前に出たジータ王女は、王に報告書を手渡した。
受け取った王は報告書の中身を一瞥すると、サイドテーブルの上に置いた。
「まどろっこしいのはいかん。とりあえず結果をここで話しなさい」
ジータ王女が一瞬、横に立っているローズとテレーザを見た。
二人は超然としていた。
ーー断るつもりでここにやって来たのかしら。いや、それならば王に恥をかかせることになる。ならば兄との婚約者に選別されることを承知でやって来たに違いない。
ジータ王女が口を開こうとしたとき、ローズが先に口を開いた。
「王様、結果は合格です。レナート第一王子にふさわしいと思います!」
ーーえええー、自分で合格だと。何たる自信。でもそれがローズだわ。
「私も合格です。こんな大局観を持つ人材はいません。知力、胆力とも優れています。オーレア王国を支える柱になるのは間違いありません」
ーーテレーザも自分のことをそこまで評価しているのか? でも……何か変だ。
「二人とも意見は一致したか」
王が言った。
「はい。レナート第一王子の婚約者は、ジータ王女がふさわしいです!」
ローズとテレーザの口調が申し合わせたように反響した。
その言葉を聞いて閣僚と貴族院の重鎮たちは満足そうにうなずいた。
「えっ、どういうことです」
ジータ王女が周りを見渡した。
「ジータをレナート第一王子の婚約者に迎える。諸君、このことに異議はないな」
王の声が届くと、
「ありません!」
閣僚たちと貴族院のメンバーが一斉に叫んだ。
「……」
一瞬、言葉に詰まったジータ王女は、かぶりを振った。
「私なんて兄上の婚約者にふさわしくありません」
「ローズ、そうなのか?」
王がローズに聞いた。
「とんでもない。ジータ王女の戦場での働きぶりを見て感激しました。あの武芸は戦場よりも王族を守るために使うべきだと」
「それにオーレア王国の未来を見通す展望もありました。この国の行く末を憂えているようでしたね」
とテレーザが言った。
「なぜ二人がそんなことを……」
ジータは呟いた。
「気づかなかったのか? ジータが婚約者にふさわしいか“テスト”したんじゃよ、ローズとテレーザを使って」
王が言った。
「レナートが何としてもジータと結婚したいと言ってきたので、わしの相談を受けた宰相がテレーザに意見を求めたら、このような計画を勧められた。ローズとテレーザを使ってレナート第一王子の婚約者にふさわしいかを調査するのだと」
ーーうそ。そんなの信じられない。お兄様……
レナート第一王子は照れくさそうに頭を掻いた。




