7 溢れ出した心
ジータは十五歳になって貴族学校に通うようになった。
レナートはそれとなくジータの学園生活を探らせると、入学早々男子生徒から告白されたと知った。
そのときレナートは、自分の心にある嫉妬心を、はじめて感じた。ざわついた胸の奥が苦しい。
「駄目だ。ジータ、断ってくれ!」
その願いは叶えられた。
「告白? ことわりました。私には使命があるので恋は一生しません」
ジータの言葉にレナートはホッとしたが、同時に複雑な心境になった。
◇
レナート第一王子が椅子から降りてジータのもとにやって来た。
「ジータ、僕のお嫁さんは君しかいないよ。10年間見てきたんだ。楽しいときも悲しいときもいつもそばにいて支えてくれた。そんなジータを僕は愛してる」
──愛してる。
その言葉を聞いてジータは感極まった。
「僕の婚約者になってくれるね」
とてつもなく優しい声だった。
ジータは固まった。さまざまな思いが脳裏を駆け巡った。心の奥底に隠していた兄への《愛》が窮屈な箱から出ようとしていた。
出ようとする心と、押し戻す心の葛藤。
バキバキと、その箱にヒビが入って、割れた。
《愛》が飛び出した。
「はい」
ジータはこっくりとうなずいた。顔を上げたジータは、晴れやかな笑顔を見せた。
レナート第一王子がジータを抱きしめた。
目を閉じたジータの目尻から、涙がひとしずく流れた。
ジータは嬉しさと恥ずかしさでこの場を逃げたくなったけど、レナートが背中に回した手はこれまで以上に力強かった。
こうしてジータ王女はレナート第一王子の婚約者になった。
王の間の嵐が通り過ぎた。
メイドたちが掃除をしていると、王座のサイドテーブルには、ジータ王女が手渡した調査報告書が置かれたままだった。
それを新人のメイドが手にした。
(忘れ物だわ)
ふと中身が気になった。ジータ王女はローズとテレーザのどちらを選んだのだろうと。
周りをうかがいながら、そっとページを開いた。
「こら、何してる。さっさと掃除しなさい」
メイド長の叱責にメイドは背筋を伸ばした。
「はい、わかりました」
メイドは報告書をゴミ箱に捨てた。
慌てて掃除をし始めた。
最終ページがゴミ箱の中で開いた。そこに書いてある名前は、誰にも見られることがなかった。
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