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こわい話を聞かされて怖がる男の子を見るのが大好きなお姉さん  作者: 黒山兄壱
第7話「ある田舎の屋敷の解体現場のアルバイト」 
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7-3「お金の使い道」

「……っていう話だったんだけど、どうだったかなァ?」


 そうお姉さんに聞かれるワタルであったが、どうにもモヤモヤとした気持ちで頭がいっぱいになっていて、それが上手く言葉に出来ずにいた。


「すっ……みません、なんかちょっとよく……分からないというか……」

「あらそう……それじゃあ、怖いところってあったァ……?」

「それなら、やっぱり屋敷から逃げ出すところですかね……」


 Gさんが逃げだすと決めて部屋の窓から抜け出すところや、バレて社長に捕まりそうになるところなど、ワタルは聞いてるだけでハラハラドキドキさせられた。

 また、近所のおばさんにこの部屋で人が亡くなっている事を聞かされた所も背筋がゾッとする気持ちにさせられていた。

 ただ……。


「……ごめんなさい、いろんな事が起こり過ぎてちょっと整理がつかないというか」


 それを聞いたお姉さんが一瞬だけ悲しそうな目をしたが、ワタルはそれに気づかず話を続ける。


「今の話って……怪異って出てきました?」


 たしかに振り返ってみると、幽霊や怪奇現象らしいものは出てこない。

 過去に色々あったようだが、Gさんが実際に体験した事ではない。

 彼が夜中に見たものだって、ただの夢だったと言えばそれまでの話で、体調を崩したのも普通に風邪だった可能性がある。


「ただのヒトコワ……いやヒトコワなのかな……なんだろう、ちょっとよく分からないような……」

「うん……そ、それじゃあ一旦話を整理してみよっかァ……!」


 お姉さんは若干焦ったような表情を見せながら、両手をワタルの前に出した。

 片方は人差し指を立て、もう片方は人差し指と中指を立てている。


「とりあえず話としては、2パターン考えられるわね?」

「2つ……ですか?」

「そう……まず1つめ、怪異も何も関係なかった場合のパターンよォ……」


 そう言って、お姉さんは人差し指一本の方の手をググっと前に出した。


「過去にあった話も、単にお爺さんが自殺してお婆さんはその所為で病んでしまい、最初に取り壊しに来た業者もただの事故にあっただけ。Gさんを連れて来た社長さんたちの言動も、特に裏が無くて、最後怒ってたのも普通にGさんが仕事放棄したから……ってことね?」

「まあ確かに、それでも成立はしますが……」


 ただ、それだとヒトコワですらない、ただのGさんが勘違いしただけの事である。

 単なる滑稽な話で終わってしまうものであるが……。


「でもそれだと……色々説明付かない事が多いですし、なんか納得いかないですよね」


 ワタルは腕を組んで首を傾げた。

 認めたくはないが、自分の中で怖い話であってほしいという気持ちがあるような気がする。


「そうねェ……それじゃあ2つ目のパターン、怪異が話に絡んでいる場合よ」


 お姉さんは指2本を立てた方の手を前に出した。


「その場合……キミは、この話の中心って何か分かる?」

「……やっぱり木の像ですか?」

「ふふっ、せいかァい……!」


 お姉さんは嬉しそうにワタルの頭をわしゃわしゃと撫でくり回した。

 ワタルは急なスキンシップで顔を真っ赤にしながら、無言でお姉さんの手を退かす。


「そっ……それで、結局その像ってなんだったんですか……?」


 そう訪ねるが、お姉さんは頬杖をついてニヤニヤと笑みを浮かべながらワタルを見つめるだけだった。

 ……これはいつもの自分で考えてみないとダメなやつだな、ワタルはそう察した。


「うーん……つまりこれは……」


 今まで話に出て来た要素を思い返しながら、1つの妄想を作り上げていく。

 その、頭の中で出来上がっていく恐ろしいストーリーにワタルは、たとえそれが自分で考えたものだったとしても、いやだからこそ氷水を掛けられたかのような冷たさを背中に感じさせられるのだった。


「……き、きっとその像は……危険な悪霊が取り憑いたものだったんじゃないでしょうか……」

「ふぅん……続けて?」

「たぶんその悪霊によって、その家に住んでいたお爺さんや最初にやって来た解体業者の人たちは……恐ろしい目にあったと思うんです」


 ワタルはだんだんと震える手を抑えて、そのまま話を続ける。


「今回出て来た解体業者の社長さんは、それまであった事を聞かされて、その上で相場以上の大金を出して解体を依頼されたんだと思います。ただ、このままでは前の業者と同じ末路を迎える……そこでGさんの出番というわけです」

「それはつまり、どういう事……?」

「あの部屋に、いえあの像の側に一人置いておけば、工事を進められるって事だったんじゃないでしょうか。像の呪いをずっと被ってくれる誰か……それを任されたのがGさんだったんですよ」


 派遣会社を通さずに直接Gさんに仕事の誘いが行ったのも、死んでしまったとしてもフリーター一人どうとでも処理できると思ったからではないだろうか。

 そういった恐ろしい妄想が、ワタルの中で出来上がってしまったのだった。


「……って、僕は考えるんですけど……どうですか?」


 ワタルは恐る恐る尋ねるが、お姉さんは満面の笑みでポンポンと軽く手を叩いて見せた。

 結構喜んでいるように見えた。


「そうね、大体私も同じような感じかなァ……」


 ただ一点だけ……そう言って、お姉さんはワタルの考えたストーリーに自分なりの考えを付け加える。


「お金に困ってそうなフリーターの前で、この像には数億円の価値があるとか言って一人にさせたら、どうなるかしら?」

「そっ、それってどういう事ですか……?」

「それで言われた人が像を盗んでしまえば、もう家と像は関係を断ち切れるって思わない……?」


 たしかにそれでも、像の呪いは盗んだ相手に向かって、結果的に自分たちは無事に作業が出来るだろう。

 でも……。


「……山奥から車も無しに一人で大きな像を抱えて逃げようって、普通考えますかね」

「……考えないかしら?」

「難しくないですかね……」


 ワタルにそう言われて、お姉さんは気恥ずかしそうに頭を掻いた。




「……ところで、お姉さんが小学生の時のお盆のおこづかいってどれくらい貰ってました?」

「ええっ、お盆……?」


 ワタルはお金の話の流れで、お姉さんに質問をしてみた。

 やはりどうしても、他人がどれくらい貰っているのか気になるのである。

 お姉さんはしばらく思い出そうとする素ぶりを見せてから、顔を近づけて耳打ちをした。

 突然の事にワタルはびっくりして横に飛び退いてしまう。


「そっ……そんなに貰ってたんですか?」

「ふふーん、祖父が結構いい家柄だったりするのです……ん?」


 お姉さんの言葉を聞いて、ワタルはなんだかがっかりした様な、不貞腐れたような表情をしてしまった。

 それを見て色々察したお姉さんは慌てて取り繕った。


「あっ……ね? ほら、別にお金は量よりも何に使うかが大事よォ?」

「何に使うか……?」

「例えば1万円をゲームのガチャに使うよりも、1000円で本を買って読む方が有意義な使い方だと私は思うなぁー」


 そう言われワタルは、一体自分はこの貰ったお小遣いで、どんな有意義な使い方が出来るだろうと考え込んでしまう。

 その横で「そうだ、お金といえば……」と言いながら、お姉さんはバッグから財布を取り出した。


「この間キミがくれた怪談会の録音、すっごく良かったわァ」

「そっ、そんなに言われるほどでも無いですよ……」


 ワタルはお姉さんに頼まれた通り、夏合宿の怪談会での録音データをその後渡していたのである。


「まあだから、これはその感謝の気持ちということでね」


 そういってお姉さんは、財布から5桁の数字が描かれたお札を取り出して手渡そうとした。

 突然の事に、ワタルはびっくりしてしまう。


「おっ、お姉さん? これってなんですか……?」

「もうね、私これくらいしないと自分の気持ちを伝えられそうになくって」

「そうじゃなくって、さっきお金は有意義に使おうって言ってたじゃないですかぁ!」

「何を言っているの……これこそ有意義な使い方じゃない」


 お姉さんは手に持ったお札をぐぐいとワタルの前に押し出してくる。


「ダメですって! 受け取れません!」

「いいからいいから」

「何がいいんですかぁ!」

「いいからいいから」


 二人の頭上には、夜の闇が迫ろうとしていた……。




「た、ただいまぁ……」

「遅かったわねぇ、随分話が盛り上がっちゃったのかしら?」

「まあね……遅くなってごめん」


 ワタルが家の玄関を開けると、先に帰っていた母がワタルに嫌味交じりの問いかけをして来た。

 多少は心配させてしまったという罪悪感から、ワタルはそれを素直に受け取る。

 父はというと、すでに早めの晩酌に手を付けていた。


「こんなに遅くなるって、友達と何話してたんだぁ?」

「い、いろいろだよ!」


 父のウザ絡みから逃げるようにワタルは自分の部屋に駆け込んだ。

 数日閉めきっていたせいで、中の空気は大分どんよりと籠っているように感じられる。


「友達……か」


 確かに母へはメールで友達に会ったと送ったが、お姉さんは果たして友達なのだろうか、とワタルは考えてしまう。

 そもそも、彼女の名前を自分はまだ知らないでいる。


「お姉さんって、いったい何者なんだろう……」


 ワタルはポツリとそう呟いて、エアコンのスイッチを入れた。


(第7話、了)



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