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こわい話を聞かされて怖がる男の子を見るのが大好きなお姉さん  作者: 黒山兄壱
第7話「ある田舎の屋敷の解体現場のアルバイト」 
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19/24

7-1「袋の中に津田さん」

「おぉ~! よく来たなあワタル!」


 駅を出ると、ロータリーに停まっている乗用車から見知った顔が出てきて声を掛けて来た。

 ワタルの父方の祖父だ。

 ワタル達家族はこの日、お盆を利用して父の実家に帰省しているのである。


「すっかり大きくなったなあ……わしゃ嬉しいよ」

「いやいや、正月にあったばかりでしょ爺ちゃん……」


 祖父……爺ちゃんと毎回お決まりの会話を済ませてから、ワタル達家族は車に乗り込んだ。

 山間にある田舎という事もあって、駅前は人もまばらで商店らしい建物も殆ど無く、なんだか寂しい雰囲気が漂っている。


「お義父さん、体の方は大丈夫ですか? なんか腰打ったとかってお母さんから聞いたけれど……」

「なぁに心配はいらねえよ、鍛えてるからな」

「あんま無理せんでくれよ、親父も歳なんだから」

「ケッ……おめえに心配されるようになったらお終ぇよ」


 両親と他愛もない会話をしてから、爺ちゃんは乗用車を発進させた。


 車は駅のロータリーを出ると、すぐに林に囲まれた道に入る。

 左側の林の間からは、太陽の光を反射してキラキラと輝く渓流が目に入った。

 駅から父の実家までの間の短い距離だが、ワタルはこの道を通るのがなんとなく好きだった。


 そうして、車はあっという間に爺ちゃんの家に到着した。

 玄関を潜ると、エプロンを付けた祖母……婆ちゃんが出迎えてくれた。

 どうやら夕飯の準備をしている最中だったらしい。

 台所の方から、ワタルの大好きな唐揚げの香ばしい匂いがしてくる。

 

「あらあらいらっしゃい、もうすぐでご馳走ができるからねえ」

「あっ手伝いますよ、お義母さん」


 そう言うと、ワタルの母は荷物もそのまま婆ちゃんと一緒に台所へと消えて行った。


「……それじゃ、荷物置いてこようか」

「そうだね」


 残されたワタルと父は、毎年使っている客間に持ってきた荷物を置きに行った。

 一通り荷物を出したりしてから、畳の上に腰を下ろして外を見る。

 もうそろそろ日が沈む時間だからか、縁側の向こうの空はだんだんとオレンジ色に染まり始めていた。

 その下に広がる田園地帯には、種類は分からないがトンボが元気そうに飛んでいる。


「……なんか、いいな」


 普段見られない風景を前に、ワタルはポツリと呟いた。


 それからしばらくして、夕飯の時間がやって来た。

 座敷の座卓の上にはこれでもかと料理が並んでおり、その大半はワタルの好きそうなものばかりだった。

 自分のために頑張って作ってくれたであろう事を察して、ワタルはなんだか嬉しくなった。


 その後、家族みんなでお互いの近況などの話題で盛り上がっている最中、爺ちゃんがワタルに小さい紙封筒を差し出してきた。


「ほうらワタル、お待ちかねのお小遣いだぞう?」

「へへっ……ありがとう爺ちゃん!」


 嬉しそうに受け取ったワタルは、本当は行儀が悪いという事は知りつつも、その場で封筒の中身を確認してしまう。

 お札が1枚、そこには女性の顔が印刷されていた。

 ワタルは一瞬顔を曇らせたが、それを悟られまいとすぐに爺ちゃんに「ありがとう!」とお礼を言った。

 しかしその違和感を目ざとく見つけた父が、酔っ払いながら鬱陶しく絡んで来る。


「どうしたワタルぅ~、あんまりもらえなかったのかぁ~?」

「えっ、全然? これだけあればゲームが1本買えるもん!」


 ……若干、嘘である。

 確かに5000円もあれば、ワタルが買いたいと思っているものの大半は買える。

 しかし、同級生たちがお盆のお小遣いにいくら貰ったかみたいな話を聞くと、自分の2倍以上は貰っているようで、それが少し不満ではあった。


「そ~うだ、お金といえば……親父! 久々にあの話してちょうだいよ、田吾作の……」

「ああ!? なんでテメエの催促聞かなきゃならねえんだ!? ……まあするけどよ」


 父の突然のリクエストをうけて、爺ちゃんが姿勢を正して何かを話そうとし始める。

 ……そういえば、この人も怖い話を話すのが好きだった。

 その事をワタルが思い出した時には、爺ちゃんは話を始めた後であった。


◇◇◇


 昔々、とある村のはずれに田吾作という男が住んでいた。

 田吾作はまったく仕事をしないのに博打をするのが大好きで、そのせいでいつも金に困っていた。

 どこからかお金が沸いてこないものか……そう考えているある日の夜遅く、家に一人の女が訪ねて来た。


「山道を歩いている途中で夜になってしまって……一晩泊めていただけないでしょうか」


 そう言われた田吾作の頭に、悪い考えが過ぎった。

 女を家に上げて晩飯をごちそうしようとするが、あろうことか田吾作はそこに、よく山に生えている毒草を煎じて入れてしまう。

 それを食べた女は死に、田吾作は彼女が持っていた金を全て頂いたのだった。

 そして、女の死体は適当に家の裏に穴を掘ってそこに埋めてしまったのである。


 それからしばらくすると家の裏に、見慣れない木が生えている事に田吾作は気づいた。

 最初は細かったそれは、異常な速度で日に日に太くなっていったのだが、その幹の部分がどんどん何かの像のように変化していった。


 田吾作はそれを見て、菩薩像のようだと思った。

 理屈は分からないがこのまま成長して立派な像になったら、木を切り倒して売ってしまおう。

 きっと高く売れるくらい美しい像が出来ると、なぜか田吾作は確信したのだった。


 そうして木が生えていることに気づいてから一年も経たない内に、菩薩像は人間くらいの高さにまで成長し、細部の造形も人が手で掘ったそれのように美しくなっていた。

 これは頃合いだと田吾作はのこぎりで木を切り倒そうとしたが、そこで菩薩像の顔を以前どこかで見たような気がした。


 しばらく考え込んで、田吾作はそれを思い出した。

 菩薩像の顔は以前殺した旅の女に瓜二つで、そもそもこの木が生えているのが死体を埋めた場所だったことを。

 田吾作がその事に気づいた瞬間、菩薩像はその閉じていた目をカッと見開いた。


 ……以上は、たまたま家の前を通りかかった村の者が、倒れている田吾作を発見して介抱した時に、うわ言のように呟いていた事から判明した事である。

 それが本当の事かは分からないが、確かに田吾作の家の裏手には幹が大層美しい菩薩像になっている木が生えているのを、何人かが目撃したのだった。

 そしてなんとか一命をとりとめた田吾作だったが、その後まるで何かから逃げるように自ら首を括って命を絶ち、菩薩像はいつの間にか消えてなくなっていたのだという……。


◇◇◇


「つまり何が言いたいかっつうとだな? 人間楽して大金を貰おうとするとバチが当たるっていう……」 


 そう言って爺ちゃんは怪談から教訓話に繋げようとしている。

 だが聞かされているワタルはもうなんだか怖くて、目の前にある茄子の揚げびたしのように萎びてしまっていた。

 なぜお小遣いを貰った上に怖い話を聞かせられるのか……ワタルにはそれがさっぱり分からなかった。


 ワタルたち家族はその後、2日ほど爺ちゃん婆ちゃんの家に泊まって近くの渓流まで行って遊んだり、畑仕事の手伝いなどをして楽しく過ごした。

 そうして、あっという間に帰る日になってしまう。


「うぅ……寂しくなるのう……」

「し、正月にはまた遊びに行くから……」


 ワタル達は涙目で送り出してくれる爺ちゃんを背にして、帰路につくのであった。




 新幹線と電車を乗り継ぎ、2時間ほどしてワタルは自宅の最寄り駅に到着する事が出来た。

 改札を抜けると見慣れた風景が目に飛び込んできて、たった数日離れていただけなのに懐かしさがこみあげて来る。


「ワタル、お母さんたち買い物してから帰るけど、アンタどうする?」

「んー……いいよ、一人で帰る」

「そう、あまり道草しないで帰るのよ?」


 そう言うと、両親はスーツケースをガラガラ引きながらスーパーのある方へ行ってしまった。

 駅前で一人残ったワタルは、着替えなどがぎっしりと詰まったリュックを背負ってどこか寄ってから帰ろうかと考えていた。

 すると……。



「あらァ……こんな所で奇遇ね、キミ……」



 横から聞き覚えのある声がして、ワタルはギョッとした。

 声のする方を振り向くと、木陰の中でメガネがギラリと光っている。


「お、お姉さん……どうしてここに……」

「フフッ……たまたま通りかかっただけよォ……」


 まるでヘビに睨まれたカエルのようにワタルが動けなくなっていると、お姉さんがゆっくりと近づいてきた。


「ふぅん……今帰省先から帰ってきたのかなァ……?」

「えっあの……はい……」


 どうして図書館ではなく駅前にお姉さんがいるのか。

 そしてどうして自分が駅から出た時にタイミングよく出くわせたのか。

 何かそこに妙な恐怖心を覚えて、ワタルは背中にぞわぞわとした悪寒を覚える。


「聞きたいなァ……キミがどんな事してきたのか……」




「へェ……家の近くに泳げる渓流が流れてるのは羨ましいわねェ……」

「毎年夏はあそこで遊んでますけど、魚とかもいて楽しいですよ」


 ちょうど近くだった事もあり、駅前から図書館前に移動したワタルは、ベンチに腰掛けて帰省中の思い出話をお姉さんに聞かせていた。

 お姉さんはお土産のご当地限定スナックを食べながらそれを聞いている。

 ちなみにワタルは「友達と会ったから少し駄弁ってから帰る」と母にメールを送っているので、多少は帰りが遅くなっても心配はない。


「でも羨ましいわねェ……田舎でお爺さんから聞かされる怪談だなんて、シチュエーション最高よォ……」

「最高よォ……じゃないですよ、古い家だから余計に怖い思いさせられただけですよ」

「それがいいんじゃない……でも、そうね……お金ねえ……」


 顔に手を充てて、お姉さんは何やら考え事を始める。

 最初は何かと思ったワタルだったが、これがいつものパターンだと気づいた時には、すでに逃げ出すタイミングを逃した後だった。



「ねぇ、怖い話……聞きたくない?」



「……聞きたくないです」

「ちょうどお金に……まあちょっとは関係するような……そんな話があるのよォ!」

「聞きたくないです」

「この話は、フリーターのGさんって人から聞いた話で……」

「聞きたくないって言ってるのにぃ……!」



 次回「ある田舎の屋敷の解体現場のアルバイト」 


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