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5-1「やめろ! そのガチャガチャの排出率は……」

「えっ! 今日新しいエアコン来るの!?」


 いつものようにラジオ体操を終えて帰って来たワタルに、待望のニュースが舞い込んできた。


「言ってなかった? 注文してたのが電気屋さんに配送されたから、今日取り付けに来てくれるそうよ」


 ワタルの母が朝ごはんの用意をしながら話を続ける。


「だから、工事の邪魔にならないように部屋の片づけしておきなさいね」

「分かった! 片付ける!」


 そういうとワタルはすぐさま自室のある2階へ直行した。


 やっと、やっと新しいエアコンがやってくる。

 その事がとてもうれしかった。

 夏休みが始まった直後にうんともすんとも言わなくなった時は、どうしようかと思ったものだった。

 夜は風通しがよく涼しいとはいえ、扇風機と氷枕だけではどうにも寝苦しい。

 それにやっぱり、夏休みだというのに日中自分の部屋で遊べないというのは、とてもつらい。

 だからこそ、新しいエアコンが来る日をワタルは、首を長くして待ちわびていたのである。


「よし、こんなもんかな」


 部屋の片づけは、正味15分くらいで終わった。

 といっても、エアコンの下を片付ける程度だったが。

 それに元々物も少ないし、人に見られてまずいようなアニメのポスターなども無い。

 部屋を一通り見まわしてから、ワタルは朝ごはんを食べに階下へ降りて行った。


 その後、お腹を満たしてリビングで朝のバラエティ番組を見ていたワタル。

 しかし、エアコンの工事が終わるまで、こうしてリビングで母と過ごすというのもなんだか嫌だったので、当てもなく外に出かける事にした。

 多少の風が吹いているが、今日は快晴ということもあり、夏の日差しが容赦なくワタルに突き刺さる。

 外に出てみたはいいものの、流石にこの暑さはきつい。

 このまま、今日も図書館に行こうかと考えていると……。


「これで、これが……俺の最後の100円だぁーッ!」


 地域の子供たちがよくお菓子を買いに来る個人商店、その前で何やら叫んでいる子供の姿が目に入った。

 ワタルの友人のカッツである。

 カッツはガチャガチャの台に硬貨を入れると、勢いよくハンドルを回した。

 ガコン! と大きな音を立てて台からカプセルがころりと出る。

 そしてそれを空けて中身を見て……カッツはその場に崩れ落ちた。

 ハズれたようだった。


「……何してんの、カッツ」

「むぅ……その声は……我が友ワッちん……」


 呆れつつも心配してワタルが近寄ると、カッツは芝居じみたセリフで弱々しく反応した。


「ふっふっふ、見たまえワッちん……これだよこれ」

「えーと……ああ、新弾出たんだ」


 そう言ってカッツが指した先、ガチャガチャの台には「カイモン! デフォルメフィギュア第12弾」と印刷されたものが見える。

 ちなみに「カイモン」とは漫画やアニメにもなった、子供たちにも人気の有名ゲームタイトルである。

 古今東西の妖怪、怪物たちがバトルを繰り広げるアクションゲームなのだ。


 カッツの半ズボンのポッケは両方すでにガチャガチャのカプセルでいっぱいで、結構な数を回しているのが容易に想像できた。


「……カッツさあ、いくら使ったの?」


 カッツは無言のまま開いた両手をワタルに向けた。


「……何狙いだったの?」

「ご、ゴールデンべとべとさん……」


 これはガチャガチャの筐体に貼られた台紙にもデカデカと映っている目玉フィギュアのようだった。

 つまり、出る確率はきっと低いだろう……なんとなくワタルはそう思った。


 そうして、道端で半ば放心状態のカッツの側でワタルが手持ち無沙汰にしていると、急に電源が入ったロボットのように起き上がったカッツが訪ねて来た。


「ところでワッちん、今日って暇?」

「いや、特になんか予定あるわけでもないけども……」

「それじゃあもうウチに来るしかねえな!?」


 何がそれじゃあなのかワタルには分からなかったが、エアコンが効いてればどこだって良かった。

 というわけで、カッツの家に遊びに行く事になったのであった……。




「うおっ……またカイモングッズ増えた?」

「ふっふっふ……頑張ったかんね、色々と……色々と!」


 カッツの部屋に入ったワタルの目に飛び込んで来たのは、フィギュアやポスターなど様々なカイモングッズで埋め尽くされている光景だった。

 足の踏み場もないような所だったが、なんとか座るスペースを確保してから二人は一緒にカイモンのゲームを遊ぶことにした。


「いやしかし、こういうのって羨ましいな……」


 ゲームの最中に、ワタルはぽつりと呟いた。


「なに、欲しいのかい?」

「そうじゃなくて、僕にはカッツみたいに何かコレクションする趣味が無いから、いいなあって……」


 そう言いながら、ワタルは自分の部屋を頭に思い浮かべる。

 物も少なく、整頓されていて過ごしやすいけれど、こうしてカッツの混沌とした、でも賑やかな部屋と比べるとなんだか少し、寂しく思えてくるのだった。


「僕もなんかコレクションとかしてみようかな」


 そのワタルの一言に、カッツがきらりと目を光らせた。


「コレクションといえば、こないだえーちゃんが面白い話をしてたの聞いたんだぜ」

「……えーちゃんが?」


 なんだか嫌な予感がした。


「ねえカッツ、それってもしかして怖い話……?」

「確か石集めが趣味の人がいて……」

「カッツ? ねえカッツ?」

「ある日、珍しい石が手に入ったって言って……」

「カッツ!!?」


◇◇◇


 ある所に、石コレクターの男性がいたという。


 石と一言で言っても、近所の河原で拾ったものから宝石の原石、果ては隕石のかけらなど、値段の付かない物から高額な物までありとあらゆる石をコレクションしていた。

 そうして集めたものを、仲間と見せ合ったり、ブログで世界中に発信したりなどしていたという。


 ある日、同じ趣味の友人の元へ男性から電話が掛かって来た。


「珍しい石が手に入った。これは凄い、早く君にも見せたい」


 概ねそのような内容だったというが、一体何を手に入れたのか、具体的な事は教えてくれなかったそうだ。

 後日、友人はその珍しい石を見せてもらいに男性の家を訪ねるが、呼んでも出てくる気配がない。

 電話をかけても一向に出てこないので、心配して外から窓を覗いてみると……男性が家の中で死んでいるのが発見された。


 警察の調査によると、何か硬い物で頭部を殴打した事が死因のようだったが、他に不審な事が無いとのことで事故死として処理されてしまった。

 しかし友人は見てしまったのだ。

 窓から覗いた時、倒れている友人の側に、何かの石を持った黒い影が立っていて、まるで煙のように消えてしまったのを。

 ちなみにこの事は警察にも話したが、なぜかまともに取り合ってはもらえなかったという。


 ……想像でしかないけれど、たぶん持ってきてはいけない石を拾ってきたのだろう。

 なぜか友人は、そう思ったのだそうだ。


◇◇◇


「……ってことだから、何かを集めるにしても気を付けなきゃいけない事が」


 そこまで語り終えてからカッツがワタルの方をちらりと見ると、見るからにテンションが落ちている風に見えた。


「カッツさあ……なんでそういう話急にするの……?」

「知ってもらいたかったんだよ、コレクションって命がけって事を……さ」

「嘘つけ絶対面白がってるだけでしょ」

「まあ……ね」


 そう言って拗ねてるワタルにカッツは、今日たくさん回したガチャガチャで2つ出たフィギュアの内の1つ、「座敷童の式太朗」を渡してきた。


「これあげるから機嫌直してよ、ほらコイツどことなくワッちんに似てるだろう?」

「似てるからなんだってんだよぉ……」




 その後ワタルは、お昼ご飯までごちそうになって午後まで遊んでからカッツの家を後にした。

 そろそろエアコンの工事も終わっているだろうか、そう思いながら自宅に向かって歩いていると、先ほどの個人商店の前に差し掛かる。

 すると、誰か大人の人がガチャガチャの台の前で何やら言っているのが目に入った。


「これが……これが最後の……100円だァ!」


 見慣れた黒いワンピースを着たメガネをかけた女性、お姉さんだった。


「あぁーっ……またダメだったァ……」

「……何してんのお姉さん」


 ワタルが声を掛けると、お姉さんは一瞬固まってから、今手に取ったガチャガチャのカプセルを即座にバッグに仕舞い、一呼吸置いていつもの怪しげな雰囲気で話しかけて来た。


「あら……こんなところで奇遇ねェ……キミ」

「お姉さんこそこんな所で何してたんですか」


 お姉さんは目線を上にあげて黙り込んでしまった。




 ちょうど近かったので、ワタルとお姉さんは商店の前から図書館の方へ移動することにした。

 空はまだよく晴れているが、日はいくらか傾いたおかげか朝ほどきつくはない。

 そうして図書館前のベンチに二人して座ると、ワタルは何気なしにカッツの事をお姉さんに話した。


「へえ、カイモンのコレクション! それはとても素晴らしいわね!」


 お姉さんはカイモンという単語に目を輝かせる。


「そもそもカイモンは原作がゲームなのだけれどアニメや漫画等の他メディアを含めて一貫しているのがキャラクターデザインが素晴らしいという事が挙げられるわね特に座敷童の式太朗くんや河童の四平くんみたいな少年キャラはみんな可愛ちがうかっこよくて素晴らしいわねそれだけでもこの作品に触れる価値はあるわねどうして私は式太朗くんのフィギュア引けなかったのかなああああああ」


 怖い。

 ワタルは初めてお姉さんに恐怖を覚えた。


「……お姉さん、お姉さーん?」


 恐る恐る声を掛けると、ハッと我に返ったお姉さんは一呼吸置いてからいつものミステリアスな表情で「何かしら……?」と言ってきた。


「……カイモン、好きなんですか?」

「一般的な認識を述べたまでよ?」


 そんなお姉さんの態度に若干呆れながらも、ワタルは今日抱いた自分の悩みについて聞いてみることにした。


「まあその、つまりですね? 僕もカッツみたいに何かコレクションとか、やってみたいなあって……」

「あら、キミもコレクションを……? いいわよ何か集めるって……私もね、海外のホラー小説を買い集めて、本棚に並べたりしてるのよォ……」

「海外の……すごいですね、英語の本が読めるだなんて」

「読めないわよ?」


 お姉さんが真顔で答えた。


「……でも、なんかこう表紙とかどれもおしゃれだし、置いてあるだけで雰囲気あってその、いい物なのよ?」

「そういうもんですか……」


 たしかにインテリアとしては結構いいのかもしれない、ワタルがそんな風に感心していると……。


「それにしてもコレクション……コレクションねェ……」

「ど、どうしたんですか……?」


 お姉さんはワタルの方にゆっくりと顔を向けると、目元をくしゃりと歪ませながら聞いてきた。


「ねぇ、怖い話……聞きたくない?」

「なっ……お姉さんもですかあ!?」

「ちょうどコレクションに纏わる話があるのよォ……!」


 どうして自分の周りには、怖い話ばかりする人たちが寄ってくるのだろう。

 ワタルはそう思いながらも、お姉さんの話を聞くことになってしまったのであった……。


 ──次回、「父の収集癖」

 

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