和解
初めて、怪盗レイナの盗品が取り返された。札幌の美術館から盗み出された、エメラルドのネックレスである。ただ、レイナ本人は惜しくも取り逃したという。
北海道ローカル局のインタビューに、レイナを追い続けているという刑事は語る。
「今回は被害がなかったとはいえ、既にレイナの被害は甚大な額に及んでいます。……全ての盗品が取り返されること、そしてレイナを捕まえることが……」
最後まで聞き届けず、私はテレビを消した。
「楓さん、緊張しちゃってカチカチじゃん。あの人、地上波って初めてだっけ?」
ソファの横で我が物顔で寛いでいるのは、詩華奏那。一応、ここは怪盗レイナのアジトということになっている。当たり前のような顔をして上がり込むのは大概にして欲しい。
「いつだったかなあ。駅前でテレビ局の取材してるのにすれ違ったのが一回だけ。たぶん2秒くらい、見切れるくらいは映ってたと思う」
「何それ」
奏那はヘラヘラと笑っていた。
「レイナさん的にはさあ」
「うん」
「北海道のやつって、返しちゃって良かったの?」
「いいよ、別に。そんなに欲しかったわけじゃないし。それに、たまには楓にも花を持たせてあげないと。クビになっちゃうかも」
これは本当。怪盗レイナを逃し続けていた楓は、警視庁内では結構厳しい目を向けられていたらしい。楓の同僚の伊織さんから聞いた。だから、どちらにせよ、そろそろ楓の立場が上がるようなパフォーマンスはやるつもりだったのだ。それが千佳の登場で多少タイミングが前後したが、特別に大きな想定外でもない。
朔弥と合流したのは、北海道からの帰りの飛行機の機内だった。日本人でプライベートジェットを持っている奴を初めて見たかもしれない。
「初めてだよ、千佳のこんな幸せそうな寝顔を見るのは」
私の膝枕の上で静かに寝息を立てる千佳を見ながら、朔弥は呟いた。
「どうするの?」
「どうする、って?」
「私のこと。何か処罰でもしたいんじゃないの?」
言うと、朔弥は静かに笑う。千佳を起こさないよう気遣っているのか。
「別に、煮て食おうってつもりはないよ。僕らは、あくまでも千佳のことが最優先だ。その千佳が君に心を許しているんだ、君はもう、僕らの重要な客人だよ」
「極端なもんだね」
「そうさ、極端なもんだよ。変わった組織なんだ、僕らは」
「自覚してるのね」
「そりゃあね。僕だって、極端な変人じゃあない」
思わず酷い悪口が出そうになるのを耐える。朔弥は続けた。
「千佳は、いつか僕らから独り立ちすべきなんだ。今回、そのことを改めて認識したよ。だけど、残念ながら、僕らにはそういう機能がない。外からの刺激はいつか必要になることだった。そのタイミングが、今回は多少早まっただけだと思っているよ」
「何よ、私に子守り役でもしてもらおうっての?」
「むしろ逆だよ。君は、これからも千佳を引きずり回してほしい。千佳の健全な成長のためにね」
「怪盗なんて、健全なわけないけどなあ」
結局、事態は丸く収まったらしい。千佳が元気になって、私と千佳は和解して、それからレイナの知名度が上がった。
奏那は、私の肩に凭れながら言う。
「まさか、あの千佳すら落としちゃうなんて。とんでもない人たらしだよ」
なぜだか知らないが、奏那はどこか不満そうだった。それに、いつもより距離が近い気がする。暑苦しいからやめてほしい。
なんとなく奏那の頭を撫でてやると、猫みたいに嬉しそうに体をこすりつけてくる。可愛いやつだ。裸族でさえなければ。




