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怪盗レイナ  作者: あさねこ
怪盗レイナと秘密結社の陰謀
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逆だったかもしれねえ

 札幌某所、深夜の美術館。長宗我部千佳は、緊張したような面持ちで敷地の隅の木陰に立っていた。

 もちろん、既に美術館の営業終了の時刻は過ぎている。監視に見つかれば、少なくとも夜勤の警備のおじさんにめちゃくちゃ怒られて、親に連絡されるところだ。千佳には両親はいないのだが。

 千佳が立っているのはうまいこと監視の目から隠れられる場所で、しかし、少し動けばすぐ見つかってしまう。それで、飛んでくる虫を追い払いながら、縮こまって木の陰に突っ立っているのだった。

「クラリス」

 どこかから声が聞こえた。千佳はすぐに返答した。

「ジルベール」

 合言葉だ。アルセーヌルパンの作品に登場する人物名である。

 千佳の横にヌッと出てきた黒い人影。真っ暗でよく見えないが、黒いシルクハットと黒いマスクにこれまた黒いマントで身を隠している。そのせいで、銀色の髪の毛とマスクの下に見える口元が暗闇に浮いているように見えた。怪盗レイナである。

「やることは覚えてる?」

 問われた千佳は小さく頷く。

「じゃあやれるね。あっちが職員用通路、ターゲットはそれを抜けたさらに向こうのフロア。……大丈夫、千佳ならやれるよ」

 黒い手袋で、ポンと千佳の肩を叩く。直後、レイナはマントを翻して暗闇に消えてしまった。美術館の敷地の隅の木陰に、千佳は一人取り残される。レイナに続いて、柔らかい頬を軽く叩いてから、千佳は木陰からそっと足を踏み出した。

 監視システムは、百戦錬磨の怪盗レイナが無効化してくれている。あとは、こっちで小さくなっている初心者がおいしいところだけ取っていけば良い。ただし、定期的に巡回する警備員は残っている。ちょうど今は巡回が終わったタイミングであるが、万が一想定外の警備員が出てきたら、それをどうにかするのは千佳の責任である。それに対するほんの少しの緊張と、足を震わせるほどの胸の高鳴り。

 ぎゅっと拳を握りしめて、意を決して館内に侵入する。

 消灯後の館内は、目の前に翳した自分の掌も見えないほどの暗闇だった。そんな中で、手探りで前へと足を運ぶ。頭の中にだいたいの地図は入っていて、それを頼りに目的地を目指す。

 案外にも千佳の脳内マップは正確に機能しており、途中で迷うことはなかった。これは、千佳が趣味でやっているゲームで鍛えられた成果である。テレビゲームなんてのは人の時間を奪うだけの害悪でしかないが、たまには有益な成果を齎すこともあるようだ。

 レイナに教わったとおりにガラスのカバーを外し、中身のネックレスを手に取る。天窓から差し込む弱い月明りに照らすと、深い緑色のエメラルドが確認できた。千佳にとっては、この程度の宝石なんて好き放題に買い与えてもらえるものである。ただ、今の千佳にとって、このエメラルドが持つ価値はそれだけでないのは自明なことだろう。

 大事そうにぎゅっと抱きしめてから、千佳はその細い首にネックレスをかける。エメラルドの部分を首元に隠し、出口の方を目指して早足に歩き始める。

 今回脱出するのは、入って来た正面入り口とは異なる。入るのに適している場所は、一般に出るのに適した場所とは異なるのだ。それで、レイナが選定した脱出ポイントは、業者が出入りするための裏口。鍵を突破するにはほんの少し手がかかるが、警備員の巡回ルート的には後回しされやすい場所である上に、監視カメラの設置も少ない。初心者の練習には適当な場所というわけだ。

 レイナに言われたとおりにそこに向かった。狭く暗い職員用通路を駆け抜け、この角を曲がれば出口。そんなところだった。

「怪盗レイナ、覚悟!」

 声が聞こえて、千佳はガッシリと拘束された。思わず悲鳴を上げるが、しかし、すぐに拘束は解かれた。

「……あれ?レイナじゃない?」

 涙目の千佳が懐中電灯に照らされる。千佳を照らす懐中電灯の持ち主は、茶髪の女。樫本楓だった。

「逆だった、ってことだねー」

 ほんの少しの中国訛りがある日本語。こちらの声の主は、長い黒髪を腰のあたりまで垂らした女。

「深蘭……!」

 千佳は、その姿を見て安心したのか駆け寄って抱き着く。しかし、その後ろからヌッと出てきた黒い影にヒッと息を呑む。が、すぐにその影が怪盗レイナであることに気付いたようで、ほっと胸をなでおろしていた。

「ワタシが正面入り口、楓さんがこっち。楓さんはこっちにレイナが出ると踏んでたみたいだけど、結果は真逆。デッカイゴキブリが出たのは正面入り口の方だったねー」

「人をゴキブリ呼ばわりするんじゃないよ。まさか、楓がもう北海道に来てるなんて。行動力を甘く見すぎたか、行動力がありすぎたのか」

 楓は、レイナと深蘭、それから千佳の顔を見比べる。それでようやく気付いたようで、

「この子が千佳ちゃん?」

 名前を呼ばれて、千佳は深蘭の影からそっと顔を出す。楓は、千佳とは初対面だった。

「聞きたいことは色々あるけど……」

 楓は天上の隅にある監視カメラを覗き込む。

「どうせ細工してるんだろうけどね。でも、ここじゃできない話もあるだろうし、一旦場所でも変えますか」

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