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怪盗レイナ  作者: あさねこ
怪盗レイナと秘密結社の陰謀
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秘密のゴスロリ少女

 真っ黒なゴスロリの少女。シックな内装の応接間で、上座の椅子にちょこんと腰かけている。それを形容するならば、月並みな言葉になってしまうけれど、人形のよう。よく見ると瞬きをしたり呼吸をしていたり、それで人間であると分かる。

 怪盗レイナの衣装に身を包んだ私は、ゴスロリ少女と大きなテーブルを挟んで立っていた。鮮やかな赤いテーブルクロスが掛けられ、その上に並べられた花瓶の間から少女の顔が覗いている。その背後に開いた大きな窓は広い中庭に向いており、青々とした植木が暑い日差しに焼かれていた。対照的に、部屋の中は薄暗い間接照明だけで照らされており、ガンガンに効いたエアコンが涼しい。

 私は柏木(かしわぎ)朔弥(さくや)に急に呼び出され、都内の豪邸に連れてこられたのだった。和洋折衷の屋敷の奥の部屋で、私一人だけが部屋の中に通された。そして今、何も分からないままの私はゴスロリ少女と二人きり、部屋の中に突っ立っている。

「あなたが、怪盗レイナ?」

 少女が口を開いた。問いかけられた私は、思わず背筋が伸びる。ちょっとだけ言葉を探してから答えた。

「いかにも」

 ゴスロリ少女は、私をじっと見つめていた。私は瞬きもできないまま、少女と目を合わせていた。

 すると少女は徐に椅子から立ち上がり、私に歩み寄る。かと思うと、衣装をまじまじと観察し始めた。マントを眺めてみたり、スーツの裾をつまんでみたり。果てには、私の顔を掴んで仮面を覗き込んできた。少女は背が低いようで、私は少し屈まねばならなかった。

 ベタベタとレイナのスーツを触っていた少女だったが、満足したのか手を放す。そしてこう言い放った。

「かっこいい!」

 私が呆然としていると、ホクホクした笑顔の少女は続ける。

「私、長宗我部(ちょうそかべ)千佳(ちか)。あなた、いくらで雇えるの?」

 千佳、と自己紹介した少女。それと、突然の雇用提案。思わず私はこう返した。

「いくら払っても雇われる気はない、私は自由に動きたいの」

 途端に、千佳の表情が曇る。

「朔弥!コイツをひっ捕らえなさい!」

 吠えると、即座に朔弥が部屋に入ってくる。困惑しているまま、私は後ろ手に拘束されてしまった。朔弥は耳元で「悪いね」と囁く。何が何だか分からないが、この謎のゴスロリ少女には逆らえないような、何か事情があるのだろう。実際、見た目はキツく締め上げられているようでも、痛みは全くなかった。手加減の技術に脱帽である。

「さあ、お姫様。こいつをどうしてやれば良い?」

「知らない!飽きた!」

 それだけ言い残して、千佳は部屋を出て行ってしまった。後ろ手に乱暴に閉じたドアは跳ね戻って、ちょっとだけ開いた状態で止まる。空いた隙間からは、廊下を走る足音が聞こえていた。

 朔弥はそのドアを優しく閉める。

「さて、これで用事は終わりだ。帰っていいよ」

「帰れって……流石になんか言うことあるでしょ?」

 問いかけると、朔弥はいつもの笑顔を貼り付けたままで、しかしちょっと困ったような表情が混ざっていて、私を宥める。

「ごめんよ、君の言い分はよく分かる。でも、そりゃあ難しい相談なんだ」

「あの子が何者で、あなたとどういう関係なのか。それだけでも言えないの?」

 朔弥は伏し目がちに思索していて、それから口を開く。

「怪盗レイナ。いや、岬玲奈。これは、君が知らない世界の話なんだ。君はこの世界を知るべきでないと、僕はそう思っている」

「何それ。陰謀論かなんか?」

 冗談めかして問いかけた。しかし、朔弥は至って真面目な表情のままで、問いには答えてくれない。

 まあ、確かに察していたところではあったけど。朔弥が何らかの組織に所属していることは知っていたけれど、その具体的な中身までは知らない。ただ、これまでの朔弥を見ていて、その組織が常識の通じる相手ではないだろうことだけは確信していた。それこそ、陰謀論みたいな荒唐無稽な存在だとしても信じてしまう。

「何よ、今更。一般人は巻き込みたくない、とか?オレたちの組織は水面下で動く秘密結社、知ってしまえば後戻りできない。そんなところね。でも、私は稀代の大怪盗、レイナなのよ。そんな秘密、隠したって意味ないんじゃないの?」

「はは、そうかもしれないね。そうだとしても。僕の口からは、君を知っている側にはしたくないんだ。どうか、理解してほしい」

 もう少し言い返してやろうかと思ったが、やめた。私は知っているのだ。この世界には、知らなくても良いことがある。……それはそれとして。

「飽きたって何よ」

 千佳の言葉。言いなりにならないからって私が気に食わないのは、それだけならいいけども。だけど、飽きたとまで言われる筋合いはない。

「まあ、千佳は見ての通りの性格なんだ。失礼は許してやってほしい」

「性格最悪のクソガキなのは分かったけどさあ。うーん……」

 なんだか、変な負けず嫌いを刺激された気がした。なんとかギャフンと言わせてやれないものか。

メインキャラがだいたい出揃ってきた頃合いですね。物語全体も中盤といった感じでしょうか。

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