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怪盗レイナ  作者: あさねこ
怪盗レイナの青春逃避行
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校長室の秘密

 校長室は、校舎二階の端の場所に位置している。職員室の隣で、しかし、直接部屋が繋がっているわけではない。従って、校長室に異変があっても職員室に詰めている職員たちは気付きづらい。

 私は三階の校長室の真上の部屋の中にいた。今は四限の途中だが、腹痛と言って教室を抜け出している。校長が戻ってくる時間もそうだが、乙女のプライド的なもののためにも、さっさと終わらせて帰りたいところである。大きい方だと思われるのは仕方なかろうが、せめてお腹が詰まってるという疑惑は免れたい。最近は楓の管理のおかげで快便なのだ。

 愛用している革の手袋を装着する。窓を開けて、上下左右を確認。人の目はない。校長室は人通りの少ない裏路地に面しているおかげで、そっちの人目も気にせずに済む。ありがたい。

 スカートのポケットから懐中時計を取り出して、時間を確認。そろそろ校長は席を外す頃合いだ。

 窓から乗り出し、そのまま窓枠を掴んでいる手元を軸に体を大きく回転。体を180度捻り、校長室の窓の横の壁の配管に掴まる。この間、掴まった外壁の配管が小さく軋んだ以外、音は立てていない。

 部屋の中の音に耳を澄ませる。ガチャガチャと何か音が聞こえた。恐らく、机の上の整理とかでもしているのだろう。やっぱりお偉いさんが来るとなると、部屋は小奇麗に片づけたくなるものなのだろうか。それで暫く待っていると、椅子から立ち上がる音、ドアが開く音、そして閉じる。

 これを確認して、窓から顔だけ覗いてみる。部屋の中には誰もいなかった。さらにもう少しだけ待ってみて、すぐ戻ってくることがないことを確認。太腿にセロハンテープで張り付けていた開錠ツールを外して、窓の突破を試みる。蓋を留められるポケットが制服にはないため、見えづらい場所に張り付けるしかなかったのだ。

 窓の鍵は簡単に開けられた。所詮は、ただの高校の窓の鍵だ。そこまで特殊なことはされていない。音を立てないようにそっと窓を開けて、中に飛び込む。呆気なく侵入できてしまった。

 校長室の中には、そこそこ値が張りそうなカーペットが敷いてある。他の教室は固いフローリングのままなのに。そのうえ、部屋の隅や棚の上には、それらしい雰囲気のある花瓶やオブジェが並べられている。侵入してきた窓の上の方には歴代の校長と思われる写真が並べられていて、左側の数人は白黒の写真だった。それなりの歴史があるのだな。私のころの校長はどれだろう。校長の顔なんて覚えてないや。

 ゆっくり見学している時間はない。あまり入ったことのない校長室の雰囲気を楽しむのはそれくらいにして、部屋の中を調べ始める。

 やっぱり、隠し部屋とかがあるとかっこいい。でも、当たり前だが、現実にそんなものが存在するわけがないのだ。私はまず、机の上にあったノートパソコンを調べてみた。不用心にも閉じられていただけで、パソコンを開けると既にログイン状態であった。簡単なパスワードが掛かっていたところで、突破するのはそこまで難しいことではないから良かったのだけど。手間が省けて助かる。

 ファイルを調べてみる。しかし、中に入っていたのは事務手続き用の書類ばかり。一昔前はこういうのは回りくどい手書きで処理していたイメージだったが、流石に最近はデジタル化が進んでいるようだ。ワードとかエクセルとかで理不尽かつ不便な仕様と戦いながら役所仕事に勤しんでいるらしい。こんなことをしているからこの国は生産性が上がらないのだ。

 一通り調べてみたが、それらしいデータはなし。隠しファイルもなし。そもそもこのパソコンから眺められるデータはほとんどが職員用サーバーの共有ファイルで、このパソコン自体に入っているのはしょうもない書類ばかり。そりゃあパソコンのセキュリティもガバガバにするわけだ。

 これ以上調べても埒が明かないと判断し、全部調べ切らないうちにパソコンを閉じる。時間も限られているし、もっと有意義そうなことをしたい。

 とはいえ、残っているのは机やら棚やらの中を調べるくらいである。とりあえず、机の一番下の段、一番大きな引き出しを開ける。

「……はあ」

 そこには、引き出しにシンデレラフィットした金庫があった。黒光りする金属には、私のつまらなさそうな顔が映っていた。

 そりゃあそうじゃん、こんな簡単に見つかるとは思わなかったもんだから。テンションも下がる。

 ガチャガチャダイヤルを弄ってみる。シンプルなダイヤル式の錠で、これも呆気なく、ものの数秒で空いてしまった。しかし、ここで予想外のことがあった。

 金庫の中に入っていたのは、段ボール箱だった。金庫の中に段ボール?セキュリティを上げるつもりでもあるのだろうか。しかし、蓋は留められているわけでもない。簡単に開けられて、段ボールの中には……。

 思わず思考が停止していた。暫く硬直していて、ハッと気付いて蓋を閉じる。金庫の中に戻そうと思ったが、しかし、こんなガバガバのセキュリティのままだといつ中身が日の目を見てしまうかわからない。そのまま抱きかかえ、慌てて窓に向かう。しかし、少し時間をかけすぎたらしい。何人かが廊下を歩いている音が聞こえる。金庫を閉じ、元通り引き出しを閉じて窓から飛び出した。


 二十一代目白河台高等学校長である宮沼(みやぬま)偉三(いぞう)は、教育委員会のお偉いさんと共に校長室に戻ってきた。

「こちらです。どう……ぞ」

 軽く目を擦る。しかし、校長室の中には誰もいない。それはそうだ、ずっと席を外していたのだから。しかし、誰かが窓から飛び降りる姿を見たような。いや、

「どうか、したのですか?」

「ああ、いいえ。どうぞどうぞ」

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