いつだって想定外のアイツ
「アイツ、今度は何やらかしたんだ?」
田沼伊織は、昼を過ぎても返信のないメールを確認して愚痴を零した。
今朝、樫本楓は警視庁に登庁してこなかった。それで遅刻の確認をするメールを伊織は出したのだが、未だにその返信がない。事実を述べるならば、楓は基本的にメールの返信等は速い方である。その楓が、これほどまでに返信が遅れているのはおかしなことだ。
しかし、伊織にとってはこのような事態は半ば懸念していたところでもあった。この二、三日の楓の様子が明らかにおかしかったからだ。話しかけても反応が鈍い。あまり寝ていないのか、朝からぼんやりとしている。そのことについて、楓に直接訊ねてみたりもした。しかし、適当にはぐらかすばかりで本当のところを話そうとしない。挙句の果てに、連絡もなくどこかに消えてしまった。
もちろん、楓がどこに行ったのかなんて、伊織には心当たりはない。まあどうせ、そのうち戻ってくるだろう。戻ってきたらこってり絞ってやろう。一人でそう結論して、伊織は溜息を吐いた。
「……ふぇ!?いや、そんなんじゃなくて……」
なんとか言い訳を試みる私。興味津々という顔で見つめる女子たち。
「あ……はは、隣の席だったからさ、他の人よりたくさん話してるってくらい?」
この感じ、もう逃げるのは無理だ。思春期の学生というのは凄まじくパワーに満ち溢れているもので、彼ら彼女ら自身ですら制御できているのか分からないそのパワーは、一度勢いに乗ると簡単には止めさせてくれない。これが嫌だから、学生時代の私は人間関係から逃げ続けていたというのに。できるだけ注目を受けずに居た方が動きやすいと思って、孤立を避ける方向で立ち回ったばかりに。
どうやら、私は三宅くんとの距離の詰め方を見誤ったらしい。三宅くん自身は特に反応を示していないが、問題は周りの子だ。多感な年頃の子たちのことだ。女子が、急に男子と距離を詰めているところを見て何も思わないわけがなかった。
その場は適当にはぐらかして逃げたのだが、しかし、これからやろうという活動のためには、この状況は具合が悪い。
「どうしたもんかねえ」
放課後。迎えに来た朔弥の車の中で、私はぼそりと零した。
「それは困りものだねえ。まあ僕としても、君の青春を邪魔するつもりはないんだけどさ、」
「私だって好き好んでやってるわけじゃ……!」
「ないんだけど、でも、時間もないというのを伝えてもいいかい?」
「時間、というと?」
「楓さんのことだよ」
思わず私は後部座席で寝転んでいた上半身を持ち上げて、しかし同時に信号で車が止まったので、慣性に押された私は座席からずり落ちてしまった。そんな私をミラー越しに確認した朔弥はシートベルトを締めろと付け加えて、それから続ける。
「君が帰宅しないものだから、楓さんがもう動き始めている。なんなら、この高校まで来ようとしていたよ」
「マジ?アイツ、思ってたより行動が早いな……。というか、もうここまで来てたの?どうしよう」
「ちょっと緊急だと思ったからね。少しだけ……手荒なことをさせてもらった」
「楓を傷つけたりはしてないだろうね?」
「殺しはしてないよ。ただ、ほんの少し寝てもらっただけさ。あとは君に任せる」
「任せる?何それ、どういうこと?」
「部屋に戻れば分かるよ。さあ、そろそろ到着だ」




