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怪盗レイナ  作者: あさねこ
怪盗レイナと美術館の秘密
4/10

利害関係の紆余曲折

「……むにゃ。……ふがっ!?」

 正確に1秒に1回のリズムでインターホンが押されていて、私は甘い二度寝の夢の中から叩き起こされた。慌ててベッドから飛び出して、まだ眠い目を擦って玄関ドアの覗き窓を見てみる。……誰も居ない?

 今思えば、このときの私は完全に寝惚けていた。不審だと捉えてドアは閉じておくべきだった。つまり、結果から言うと、このときの寝惚け眼の私はドアを開けた。ちょっとだけ開けて、外の様子を見てみようとした。

「隙あり!」

 その掛け声と同時に、ドアの隙間に身を滑り込ませてきた人間が居た。ソイツの強引なタックルで、私は押し倒されてしまったのだった。言い訳しておくが、普段の私はこんなに腑抜けているわけじゃない!それなりに鍛えてるから、これくらいなら軽く押し返せた……と、思う。

 とりあえず、この時の私はまんまとソイツに部屋の中への侵入を許し、あまつさえ床に押し倒されてしまったが事実だった。ただ、ソイツは変なところで思いやりがあったらしく、私の後頭部は彼女の手で守られていて、脳震盪みたいなのは起きなくて済んでいた。

「……っ、何事……?」

 恐る恐る目を開いて、まず目に入ったのは柔らかそうな胸元だった。寝起きの私は、何故かその胸を揉むという選択肢を選ぶ。

「うわぁ……おっぱいだぁ……」

「どうも、おっぱいですよー」

 そう声を掛けられて、急に頭の中がクリアになった。それで全て気付いた。あまりにも遅かったけれど。この時の私の唯一のファインプレーを挙げるとすれば、「おっぱいが喋った!」という言葉をすんでのところで飲み込んだことだろう。

「……楓?」

「おや、覚えてくれてたんだ。有難いことだねえ」

 おっぱいの上の方で、楓はニヤニヤと笑って私を見下ろしていた。たぶんこの時、私は耳まで赤く染まっていた。

「いつぶり?6年ぶりくらい?それとも、昨日……」

「ちがっ……あれはそうじゃなくて……!」

「あれあれ?何が違うのかな?」

 これはもう無理なのだと悟った。今は、何を言っても私が負ける。こういうときの答えは……沈黙に限る。

「えへへ。会いに来ちゃった」

 楓は、ニタニタと笑いながら言う。

「……避けてよ、そろそろ」

「もうおっぱいは十分?」

「おっぱいおっぱい言うな!」

 楓は、のそのそと私の上から避けて立ち上がった。一方で、私は尻餅をついたまま上半身だけ持ち上げる。

「なんで……この部屋に?アンタに今の住所を教えた覚えはないんだけど」

「えへへ。玲奈のお父様にチョコッとね。ああ、()()()知らないかもしれないけど、私、警察やってるんだ。部署は全然違うんだけど、同じ警視庁勤めだからね」

 ご丁寧に玄関ドアを閉めてくれた楓は、ドアの前でクルっと回って見せる。パンツスタイルのラフなスーツ。いかにも刑事って感じがする。「似合ってる?」とか聞かれたけど、無視した。コイツは昔から美形だから何をしたって似合うのだ。

「話は聞いたよ。大層お困りなんだってね」

「そう、本当に困って……」

「お父様が」

「…………」

「なんて親不孝な子なんでしょうね。25にもなるのに働こうともせず……怪盗なんておかしなことを口走って」

「……まさか、パパにレイナをバラしたんじゃ!」

 慌てて尋ねると、楓は少し驚いた様子で私を見ていた。だが、すぐに目を細めて優しく言い渡す。

「安心して。玲奈のお父様には伝えてないし、上にも報告してない。……まだ、ね」

「どういうつもり?」

「どうもこうも、文字通りの意味ですよー。岬玲奈が怪盗レイナなんだったら、逮捕したいとこだけど。まだ、そんな根拠が得られてないんだもん」

 楓は、ポケットから写真を一枚取り出してみせた。

「今ある資料は、これだけ」

 写真に写っていたのは、怪盗レイナの予告状だった。しかし、汚れているし、クシャクシャに折れ曲がってしまっている。もうちょっと厚いタイプの紙を使うべきだったな。

「偶然、ゴミ箱の中に入ってるのを見つけたの。一夜にして消失したピンクダイヤの件は、怪盗レイナを探す方向で捜査が進んでいる」

 そう言う楓は、なんだかちょっと得意気だった。

「私、話の流れでこの事件の担当を任せられたんだ。ほら、ニュースになるくらいの事件だよ!すごくない?」

 そう言う楓は、スマホにニュースサイトを表示して見せつける。確かに、そこにはピンクダイヤが盗難に遭った旨が記載されていた。たった一行の記事だったけど。

「逃げられたくせに」

「……一応聞くけど、誤魔化す気ある?」

「バカバカしくなってきた」

「逮捕されてもいいの?」

「…………」

 私は、目を伏せて考える。まず前提として、岬玲奈が逮捕されるわけがないけど。しかし、ここまで来て改めて思案する。岬玲奈の生活を維持する必要はあるのだろうか。岬玲奈を殺して、完全に怪盗レイナになれば。そうすれば、岬玲奈との繋がりに苦心する必要もないし、岬玲奈としての生活の維持に時間をかける必要もなくなる。メリットばかりだ。

「警察官、楽しい?」

「……?楽しい、ってわけでもない気がするけど。やりがいはあると思うよ。怪盗レイナみたいな悪者を懲らしめるのとかね」

「そっか」

「困ってるなら話聞くよ?」

「犯罪者に加担するとしても?」

「それで犯罪をやめてくれるかもしれないじゃん」

 楓は、真面目な顔をして私の目を覗き込んでいた。思わず、そんな楓から目を逸らす。

「怪盗レイナは、岬玲奈を救ってくれないの。岬玲奈がお金に困っていても、怪盗レイナは助けてはくれない。だから、私は……」

 そこまで言って、口を噤んだ。ちょっと言い過ぎた。他人と話すのなんて久しぶりだったから、思わず口を滑らせてしまった。

「ごめん、変なこと言っちゃった。忘れて……ほしい」

 沈黙が場を支配する。

「どうしちゃったのよ、昨日と違って元気ないよ?」

「怪盗レイナは元気だった?」

「私は、岬玲奈に元気であってほしいの」

「はは、答えになってないじゃん」

 力なく笑って、楓と目が合った。楓は不機嫌そうな顔で私を睨んでいた。

「……絶対に」

「え?」

「絶対に、怪盗レイナを捕まえてみせるから!」

 そう言って、楓は部屋を出ていく。が、すぐに戻ってきてスマホを取り出す。

「連絡先、ちょうだい。スマホ変えたせいで前の連絡先使えなくなっちゃって」

 結局、楓に押されるがままに電話番号を交換してしまった。ついでに、メッセージアプリの一番上には新しい楓の連絡先が追加された。

「どう?なんか送ってみてよ」

 ちょっと悩んでから、私はこう送信した。

『それはあなたの心です』

「……どういう意味?」

 やっぱり、楓は元ネタを知らないようだった。

追記:何かバグってたのを修正しました

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同じ文章が書いてある。 なかなか面白い。 以降の話がどう転がっていくのか、注目しています。
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