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怪盗レイナ  作者: あさねこ
怪盗レイナと美術館の秘密
3/10

大怪盗と家賃滞納

 布団の中でグッスリ眠っていた私は、スマホの喧しい叫び声で起こされた。電話の着信音だ。面倒くさいので、向こうが諦めて電話を切ってくれるのを待つ。……しかし、なかなか着信は止まってくれない。ようやく止まったかと思ったら、また鳴り出す始末だ。

 それに対して、こちらも頑として頭から布団を被って粘っていた。昨夜は遅くまで起きていたから、もう少し寝ていたいのだ。しかし、こうもうるさいとなかなか寝付けないのでむしろ非効率だろう。それは分かるのだが、しかし、それでこちらが折れるのはなんだか癪なので頑張っていた。

 まあ、結果から言うと私が折れたのだが。

「……ふわぁ、はい、もしもぉし?」

『なんだその声は!また真っ昼間っから寝てたのか?』

「……ッ、パパ!?」

 一気に目が覚めて、スマホの画面を見てみた。画面には、確かに私が設定した「加齢臭おじさん」という文字がある。パパで間違いない。というか、まだ10時だ。「真っ昼間」というほどではないだろ。

『単刀直入に聞くぞ。バイト先は見つかったのか?』

「…………あー。えっとねー。そのぉ……頑張って探してみてたんだけどねえ。なんていうか……そう、時間が……足りなくってぇ……」

『バイト、まだ見つかってないんだな。前も言ったよな?バイト頑張るっていうなら、安定するまでは仕送り続けてやるって。お前にやる気がないっていうなら、来月の仕送りはナシだ』

「ちょっ……待ってよ、それはダメ!家賃払えないよ、死んじゃうよ!」

『一人暮らししたいって言いだしたのは誰だったか忘れたのか?お前も一回死ぬ気で頑張ってみろ。どうせまた、ゲームや寝てばっかなんだろ?何が時間が足りないだ。大学卒業してもう3年経った、十分に時間はあっただろう』

「でも……でも、その……なんていうか……忙しくてェ……」

『言い訳はもう聞かん。お前の人生、お前で責任取ってみせろ』

「やだやだやだぁ!パパ助けてよぉ!……ねえ待って、切らないで!……聞こえてる!?」

 静寂。通話を切られた。スマホの通話履歴には、3日前、1週間前、2週間前……のパパとの履歴が残っている。そして、それらの1番上に新しくパパとの通話履歴が追加された。

 私は、その履歴をタップして電話を掛けてみる。パパは、すぐに出てくれた。

「あっ、パパ、あのね、今度こそ真面目にやるから……」

 しかし、私が言い終わる前に電話は切られてしまった。「言い訳はもう聞かん」というわけだ。

 スマホを掴んだまま、布団の上に倒れ込んだ。人間、やるべきことに追われると、逆に何もしたくなくなるものなのだ。

「やっばいなあ。……家賃滞納って、何ヶ月まで大丈夫だっけ」

 大丈夫ではない。家賃滞納しても数ヶ月はギリ追い出されずに済む場合もあるが、これは滞納しても良いことを示しているわけではない。良い子のみんなは滞納せずに家賃を払おう。

 しかし、本当にマズいことになった。貯金もないし、働く気もない。社会の歯車になるなんてダサいこと、できるわけない!

 ……真面目なことを言うと、時間が足りない。確かに、今の(みさき)玲奈(れな)は無職の引きこもりに過ぎない。だけど、時間は足りていない。なぜなら、怪盗レイナが居るから。

 先に言っておくが、怪盗レイナと岬玲奈は別人だ。偶然、怪盗レイナの活動時間に岬玲奈がどこかに消えてしまうだけで。だから、怪盗レイナが活動するのに用いる潤沢な資金は、岬玲奈とは関係ない。岬玲奈がいくら生活に困窮していても、怪盗レイナは助けてはくれない。その上、怪盗レイナが活動する時間に岬玲奈は活動できない。怪盗レイナの活動はこれから派手になっていくところだ。そんなときに、岬玲奈をバイトで拘束なんてできやしない。

「流石に無理なのかなあ」

 ポツリと呟いてみたが、いやいや、今更諦めることなんてできない。岬玲奈がどうかは置いておいて、しかし、怪盗レイナは怪盗レイナのために全てを捧げてきたのだ。もう「やっぱやめた」で辞められるような段階は過ぎている。

 一つだけ、レイナに専念する方法は思いついていた。ただ、その方法はあまりにも過激だ。ロマンとかいう前に、過激すぎる。岬玲奈を殺すのだ。

 岬玲奈が死ねば、怪盗レイナはフルタイムで活動できる。そうしたら問題は全て解決する。そして、怪盗レイナにはそれを実現するだけの能力がある。一人の人間の死を偽造するなんて、造作もない。

 ただ、今の私にはその決断は重たすぎるものに思えて仕方がなかった。それは、岬玲奈の全てを捨てることを意味する。パパもママも、おじいちゃんも。家族はもちろん、友達だってそうだ。例えば……樫本楓とか。

 樫本楓。彼女の顔を、改めて思い出していた。

 楓とは幼馴染で、高校を卒業するまではずっと一緒にいた。高校を卒業して、楓は法学部に進み、一方で私は理工系の学部に進んだ。そこで大学も別になり、完全に別れてそれっきりだ。

 スマホのメッセージアプリを開く。下へ下へとスクロールしていって、暫くしてようやく楓とのトーク履歴を発見した。それは、私の『奴はとんでもないものを盗んでいきました』で終わっていた。このメッセージから6年くらい経ったけど、楓はいまだに既読無視を貫いている。何か返答をもらえたら『それはあなたの心です』とか返すつもりだったのに、いまだに実現できていない。元ネタ知らなかったのかな。

 私は、何の気なしにメッセージを打ち込んでみた。

『いつ空いてる?』

 しかし、送信ボタンを押す勇気が出ない。数年音信不通だったのに、急に連絡するのはなんだか躊躇われる。一分間くらい、画面をじっと睨んでいた。それで、結局。

 結局、私はメッセージを消してしまった。だって、レイナは怪盗で、楓は今は警察らしい。……岬玲奈は、レイナとは違うけど!でも、私が楓を頼るのは、それは絶対にダメだろう。

 スマホの画面を眺めているままうだうだとベッドの上でクネクネしていて、それで、気付けば私は二度寝していたのだった。

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