気になるあの子
目覚まし時計の音で目が覚めた。うるさいな、楓に叩き起こされるまでもう少しだけ……。いや、今は駄目だ。
重たい瞼を渾身の気力で持ち上げ、スマートフォンで時刻を確認する。午前6時。いつもなら、全然寝ている時間だ。しかし、今は起きなければならない。学校に遅刻してしまうからだ。
ここは、朔弥が用意してくれた仮の住まい。新しめのマンションの一室で、広いし綺麗だ。しかし、一人で暮らすには広すぎる。楓との生活もそれなりに長くなってきて、一人きりになってみるとあまりの静けさに驚いてしまう。ずっと一人暮らししていたはずなのにな。
眠い目を擦りながら朝ごはんを食べて、歯磨きして、昨晩鞄に入れた教科書類をチェック。それをやりながら制服を着る。この辺は普通の高校生と変わらない。昨日の夜は出された課題もやった。高校生の宿題なんてチョチョイのチョイ……と舐めてかかってたら、案外忘れてることが多くてビビったけど。
高校生の偽装をしているだけとはいえ、この辺を手を抜くのはいけない。書類の上でこそ完璧に誤魔化せているが、教師陣とか、あとは生徒にも、私の正体はバレてはならない。
私が現役で高校に通っていたときから数年。ギリギリ、私を直接知っている教員はみんな異動していたので良かった。というか、それが分かったからこの作戦に踏み切ったのだけど。流石に岬玲奈の顔を知っている人の前で女子高生のフリを続けるのはキツい。バレるリスクが高いし、何より、バレたとき恥ずかしすぎる。いい年してJKの格好してるとか。
あとは、生徒にもバレてはならない。生徒……。昨日のことを思い出して、思わず制服を着る手を止めてしまう。
「三宅樹」
改めて、彼のことを振り返る。といっても、特別に彼との交流はなかったはずだ。偶然隣の席になって、軽く挨拶して。それくらい。
ぐるぐる悩んでいて、ふと時計に目を向けると家を出るまでに時間がないことに気付く。慌ててシャツのボタンを留めて、一つズレているのに気付いて一回外して付けなおしてからリボンを付けた。それから忘れてはならない、黒髪のウィッグを付ける。銀髪の高校生なんてあり得ない。すくなくとも、白河台高校の校則では、髪を染めるのは禁止されている。最後に太い縁のメガネ。度なしレンズだ。
鏡に向かってウィッグの具合を確かめながら考えていた。もしかしたら、三宅樹の行動にはあまり深い意味はないのかもしれない。自分が高校生のときのことはもうあまり覚えていない。でも、そこまで複雑なことを考えていたような記憶もない。もっと単純に、アニメとかを見てかっこいいなあとか、可愛いなあとか、それくらいのことを考えて生きていたような気がする。気にするだけ無駄なのかも。
しかし、尾行をしてくるのはあまり感心しない。朔弥が言ったとおり、三宅くんに接触してみて真意を問いただしてみるのも良いかもしれない。




