怪盗レイナ現る?
「かなたん……!?」
田沼伊織は思わず零した。「やべ」と呟くのは怪盗レイナ……の衣装を着た、詩華奏那。
「かなたんが、レイナ?レイナがかなたん?えっ?はぁ??」
伊織は酷く動揺している様子で、手に持っていたスマートフォンを落としているのに、気付いていない様子で手はスマートフォンを持つ形を保っている。地面に落ちたスマートフォンは、何度も通知を受け取って震えている。
「あっ、ああっ、あの……っ!ファンです!新曲すごかったです!……じゃなくてぇ……ッ!えっと、その……」
奏那は、あまり慣れていないような手つきでマスクを装着して、それから言う。
「えーっと、まず、ありがとう!……レイナのこと、知ってるんだね。…………そう、実は、私が怪盗レイナなの」
伺うように、マスクの下の目が伊織の顔を覗き込んでいた。挙動不審気味に手遊びをしている伊織は、奏那の胸元のあたりを凝視している。
「その……。お願いなんだけど、今日のことはあなたと私だけの秘密にしてくれないかな?」
「エッ?それは……」
奏那は、伊織の両の手を優しく握る。手袋越しに奏那の温度を感じたのか、伊織の顔は真っ赤になる。恐らく熱力学に違反している。
そして、奏那は伊織の唇に自身の唇を重ねる。三秒。
「……秘密にしてくれる?」
伊織は目を丸くして奏那の顔を見つめていた。そして、ゆっくり首を縦に振った。
楓はメッセージをコピペして連投していた。
『どこに居るの?』
しかし、何度メッセージを送信しても伊織の返答が来る様子はない。
「もう、いおりんったら肝心なときに……!」
楓には伊織の居場所の心当たりも手掛かりも何もない。しかし、動かないより動いたほうが良い、と少なくとも楓は思っている。だから、楓は走る。
当てもなく走って、しかし、東京都内である。やがて信号に捕まり、大通りの信号というのは得てして切り替えが遅い。なかなか切り替わらない赤信号にイライラしていると、後ろから声が聞こえる。
「待ってよ……!楓さん!」
少し息を切らして走ってきたのは、柏木朔弥だった。
「ありゃ。朔弥くん。来なくてもよかったのに」
「僕が着いて行きたいから着いて行くんだよ。それで、レイナが現れたというのはどこに?」
「それがね、いおりんが……うちの同僚が見つけたって言ってるんだけど、どこに居るのか全然教えてくれなくて。だから適当に走り回ってみてる!そのうち見つかるでしょ!」
「ふむ。して楓さん、その……いおりん?さんの居場所に心当たりはあるので?」
「ない!だから勘で走り回ってるの」
「はは……それは良い作戦だ。23区に限っても600平方キロ以上あるのに目を瞑れば、ね」
「うーん……。あ、青なったよ!」
ようやく青に切り替わった信号機を確認し、楓は再び走り始める。追いかける形で朔弥も走る。
「ときに楓さん。僕が場所の心当たりがあると言ったらどうする?」
朔弥の言葉を聞き終わらないうちに、走っていた楓は急ブレーキをかけた。朔弥は、そんな楓を少し追い越してしまってから振り向く。
「教えて!今すぐ!」




