朝
知らない天井だ。……いや、嘘を吐いた。私はこの天井を知っている。詩華奏那の寝室の天井だ。そうだ、私は結局、この部屋で寝たのだった。
しかし、一晩眠ったというのにまだ体の疲れが取れない。高度一万メートルからのダイビングなんて大立ち回りをしたのはあるが、それにしたって全身が疲れてたまらない。そういえば、昨晩どうやって寝たのか記憶が曖昧だ。何かの薬でもやられたのだろうか?今は疲れている以外は体調に変化はなさそうだが。
というか、奏那はどこに行ったんだ?ベッドの私の横には人一人がギリギリ収まるくらいの空間が空いている。セミダブルのベッドは成人女性二人が寝るにはちょっと狭いのだが、奏那の居ないベッドはやたらと広く感じた。
そうだ、奏那が居ないなら、なんとかしてここを抜け出す手段を探さないと。そう思ってベッドから出て、それで気付いた。
「……ない」
何も、ない。怪盗レイナのマスクがない。マントも、スーツも。レイナの衣装がどこにもない。下着もない。私は、丸裸で奏那の寝室に閉じ込められていた。
慌てて部屋の中を調べる。窓は開かない、ドアは鍵が……かかっていない?この部屋のドアは、外側から鍵を掛けることのできる構造になっているようだ。しかし、今は鍵は空いている。寝室の中に閉じ込められたわけではなさそうだ。
寝室から出て、部屋の中を調べて回る。配信部屋、キッチン、ベランダ。しかし、怪盗レイナの衣装はどこにも見つけられなかった。奏那がどこかに持ち去ったのか?だとしたら大問題だ。着る服がなくて女子の尊厳的なモノの危機であるし、それ以前に怪盗レイナの正体が漏洩することに繋がる。何よりも、それが一番マズい。怪盗レイナ、大ピンチ。
その日の朝、樫本楓はあまりよく眠れないまま目を覚ました。昨日、特に何も言わないまま出て行ったきり、結局玲奈はまだ帰宅していない。恐らく怪盗レイナの活動で何かがあったと推察はできるが、それ以上の情報はない。一人で寝るには広すぎるダブルベッドで横になっているまま、怪盗レイナ、もとい岬玲奈の行方についてぐるぐると思考していた。しかし、それを考えるには手元にある情報が不足しすぎているのは自明なことだ。
楓は、うじうじ悩んでいるよりも行動する性分である。彼女の元来の性格がどうかは分からないが、少なくとも、今の樫本楓はそのような思考回路を持ち合わせている。
「うあーーーー、もう!」
楓はベッドから飛び出した。寝間着を脱ぎ捨て、顔を洗う。鏡に映る自分の顔を見て、楓は呟いた。
「こんなの、らしくない」
水を一杯だけ飲んで、スーツを着る。楓はそのまま部屋を飛び出した。
……と、その前に。楓のお腹が大きく音を立てた。
「朝ご飯、忘れてた……」




