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怪盗レイナ  作者: あさねこ
怪盗レイナとイドラの黄金
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空を飛ぶ怪盗

 高層建築は、下から侵入する者に対してセキュリティが作られている。それじゃあ簡単なことで、上から侵入する方が楽というわけだ。しかしながら、ターゲットのタワマンは、周囲に高い建造物は存在しない。だから、私は考えた。もっと高いところに行けば良い。飛行機を使うのだ。いや、使わせてもらうという方が良い。

 航空機の、タイヤを収納する部分。そこに侵入する。それで、タイヤと一緒に上空まで運んでもらう。良いタイミングになったら収納する蓋が勝手に開くように仕込んでおいて、そのタイミングで飛び降りる。蓋が空きっぱなしだと良くないから、自動で閉まるような仕組みも仕込んでおいた。怪盗レイナはアフターケアも万全なのだ。

 だが、覚悟はしていたが、流石に死ぬかと思った。国内線の航空機が飛ぶ高度は、およそ地上10キロメートル。この高度では、気温は氷点下数十度まで低下する。それ以前に酸素がない。酸素ボンベだとか、耐寒装備だとか。万全の装備をしたものの、それでも気絶しそうになっていた。

 降下ポイントまで辿り着いて、蓋が開いたようだった。それで冷たい風が吹き込んできて、落ちそうになっていた意識が起き上がる。震える手でグライダーを展開する準備だけして、飛び降りた。地上一万メートルからのダイビングだ。

 まず、機体の周辺にできる気流に吹き飛ばされる。落下しながらの錐揉み回転。三半規管がどうにかなりそう。目を回さないようぎゅっと目を瞑って、航空機のジェットの音が離れていくのに耳を澄ませる。ある程度離れたところで、グライダーを展開した。

 目を瞑ったままだと、果たして自分が上を向いているのか下を向いているのか分からない。感じるのは、上空の寒気と鼓膜に吹き付ける風の音。暫くして、グライダーの姿勢が安定してきたようで、恐る恐る目を開ける。目に入ったのは、壮大な東京の夜景だった。

 レイナのマスクに備え付けられたヘッド(H)アップ(U)ディスプレイ(D)を起動する。HUDで地図を見ながら、グライダーの進行方向を調整。目的となるタワマンの屋上をHUDのAR機能でライトアップさせる。私が作ったシステムだけど、我ながらカッコ良くてぞくぞくする。

 こないだも都内上空をグライダーで滑空したけれど、それと今回とは高度が違う。以前は見上げていたビル群を、今は見下ろす形だ。上野、秋葉原の上空を通過し、警視庁を見下ろす。少しずつ高度を落とし、グライダーの角度を最終調整。

 案の定、誰にも気付かれることなくマンションの屋上に降り立つことに成功する。勿体なかったかな、東京の上空を飛ぶレイナの姿をオタクたちに見せつけてやりたかったかも。

 そんなことを思いながら、グライダーの翼を収納し、屋上からターゲットの部屋のベランダに音もなく降り立った。ベランダのドアには鍵が掛かっていて、しかし、簡単に開く。カーテンをそっと開いて、暗い部屋の中に侵入した。

 タワマンの一室で、部屋のつくりこそ豪勢なものだったが、しかし、家具の一つ一つは質素なものだった。部屋の広さを全く活かせていない。広いキッチンの隅の方に市販品の調味料が並べられており、3口あるIHコンロは汚れ一つないのに対して、冷蔵庫と電子レンジだけ使いこまれている。楓が押し掛ける前の私の部屋みたいだ。コンビニ弁当を温めるために電子レンジを使うくらいしか、キッチンなんて使わない。テレビの向こうの芸能人だと思って遠い存在のように思っていたけど、案外人間くさいものであるようだ。

 のんびり部屋を見回して、壁に掛けられた時計が目に入る。時計の短針は、ちょうど9時を示していた。慌てて、手元の懐中時計も確認する。間違いない、午後9時3分。奏那のライブは19時に開演して、21時には終わる予定である。今のライブの状況は分からないが、少なくとも、あまり余裕ぶっていられる時間でないのは確かだ。利用した航空機の出発が少し遅れたのと、グライダーでの滑空に予定より時間がかかったせいだろう。HUDに現在時刻の表示も入れておけば良かった。

 辺りを見回して、それらしい場所を探す。トイレ、風呂、寝室……。それと、これは配信部屋?複数のモニターとパソコンが置かれていて、防音室にグリーンバックまで置いてある。確か、元はネットで活動したりもしていたんだっけ。

 しかし、部屋の中を片っ端から調べてみてもそれらしいものは見当たらない。まさか、朔弥の奴、嘘を吐いたのか?もしそうだとしたら、嘘を吐くメリットは?いや、今はそれは重要じゃない。何もないようなら、さっさと撤退したほうが良い。

 ここまで来るのは苦心したけど、撤退するのは簡単だ。グライダーでベランダから飛び降りたら良い。であるならば、念のためもう少しだけ調べてから撤退でも良い。詩華奏那がどんな人間か知らないが、どうせ業界の人らとの打ち上げか何かあるもんだろう。それがなかったとしても、ライブ会場からここまで車で30分ほど。ライブ終了予定から考えて、午後9時30分まで調べてからでも良かろう。といっても、それまであと5分しかないのだが……。

 少し焦りながら、寝室と接続したウォークインクローゼットの奥を調べていた。すると、小さな箪笥があるのを見つける。普通の洋服箪笥のようで、流石にないだろうと思ったが、一番下の棚を開けるとノートパソコンが入っていた。適当にパスワードを入力すると、ヒントが出てくる。が、ヒントとは名ばかりの雑然とした文字列。ちょっと悩んだが、その文字列をそのままパスワードとして入力したら、案の定、サインインできた。その辺の意識は緩いらしい。

 せっかく中身を覗くことができたが、しかし、特に何かがあるわけでもない。パソコンにデフォルトでインストールされている初期ソフトと、各種事務用ソフトウェア。華々しい歌姫の外見のわりに、中身は案外地味なものなのだな。

 そう思って調べていたら、しかし、発見した。「仕事用」というフォルダの中には、文字通り仕事関連らしい書類のファイルが大量に入っていたのだが、ここに隠しフォルダが一つだけあった。その隠しフォルダの中にも大量にファイルが入っていたのだが、様相が違っていた。明らかに、芸能活動に関わるものではない。過去の新聞の切り抜きらしい画像に、大量の証明写真。もちろん、奏那のものではない。芸能界に関わっているとは思えないような冴えない人の写真が大量にあった。それと、テキストファイルが一つ。そのファイル名は、「sakuya_kashiwagi」であった。一旦深呼吸してから、ダブルクリックして中身を覗く。数百行に及ぶ走り書きがそこには書き留められていて、ゆっくりスクロールして読み込む。……これは、つまり……?

 最後まで読み切る前に、私は咄嗟にパソコンの電源を落とす。ドアが開いた音がしたのだ。まさか、もう奏那が帰ってきた?パソコンを元の箪笥の中に戻し、クローゼットの中で息を殺して縮こまり、懐中時計を確認する。時刻は、9時28分。打ち上げもせずに真っ直ぐ帰ってきたのだろうか。不味いな、抜け出すタイミングを完全に失ってしまった。疲れてるだろうし、このまま早く寝てくれることを祈ろう。

 暫く物音が続いて、少しすると静かになる。耳を澄ませると、浴室の方からシャワーの音が聞こえる。恐らく、今の奏那はシャワーを浴びていて、暫く出てこない。その間にこの部屋を抜け出せるだろうか。いや、悩んでいる時間はない。

 音を立てないよう、ゆっくりクローゼットから出て、ベランダに向かう。そして、グライダーを開こうとした瞬間だった。私は後ろから無音で迫って来ていた人間に気付いていなかった。

パソコンのファイルって整理できないがち

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