世を経め民を済ふ
「うう……。うぐぐぐぐ……!」
楓は、家計簿アプリと睨めっこしながら呻いていた。
「だから、無理しなくていいよ。楓は自分の家に帰ったらいい話じゃん!」
「いいや、ここで逃げるわけには……。私は一家の大黒柱なんですから!」
「大黒柱を任せた気はないよ!っていうかここ私の部屋だよ!なんか勝手に住み着いてるけど、家族でもなんでもないよね!?」
しかし、楓は無視して相変わらずうんうん唸っている。
「何したいのよ、楓は」
思わず、ぼそりと呟く。勝手に私の部屋に押しかけて、勝手に住み着いて。家賃も食費も払ってくれるもんだから、甘えて放置していたけれど。流石に、新米の刑事の収入に甘え続けるのは私にも心苦しいところがある。豪勢なお宝を盗みたいのであって、貧乏人からお金をせびるのは美学に反する。
「どっかに行っちゃいそうって思ったの」
楓が洩らした。
「怪盗レイナさんがどんなもんかって見に来たら。そしたら、見たことないくらいゲッソリした玲奈がそこに居て。私、思ったんだ。怪盗レイナから玲奈を守らなきゃ、って」
なんだよ、それ。そんな、しょうもない理由だったなんて。
「もういい、分かった」
楓の手からスマホをひょいと奪ってみせる。そして、もう一方の手で自分のスマホを操作する。
「……はい、これでいいでしょ?」
楓は、返されたスマホの画面を見て仰天していた。
「えええ!何これ!こんなお金、どこからどうしたのよ!」
「舐めてもらっちゃあ困るなあ。株式やら暗号資産やら、やれることをやればこれくらいはね」
「それが、怪盗レイナの資金源ってこと?」
「ぎくっ!ま、まあ?その辺の規制が強くなったとて、怪盗なんだからいくらでも盗めばいいだけだし?」
楓は、突然増えた決済アプリの残高をじっと見つめていた。それと、私の顔を見比べている。
「許さないからね」
楓がぼそりと言った。
「怪盗レイナが岬玲奈を侵食するようなら、許さないから。絶対逮捕してやるんだから!」
正直、このときの気迫にちょっとだけ気圧されてしまったのは、楓にはナイショだ。
「ふん、捕まえられるものなら捕まえてみな?どこまでも逃げてみせるからさ」
「なんだとー?……えい!」
いきなり、楓が飛び掛かってくる。咄嗟に避けきれず、私は楓に押し倒されてしまった。
「痛ったいなあ。いきなり、危ないよ」
「許さない!絶対捕まえる!絶対……!」
楓は、私に抱き着いて、胸元にぐりぐり頭を擦り付けている。突き返そうと思ったけど、楓が私を抱きしめる力がいつになく強いのでやめた。
「重たいよ……」
「なぁに?聞こえなーい!」




