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眠り猫は抱き枕を離さない  作者: しんら
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side.とある同僚 1

 

 同期で同僚のリディアと、後輩のクラウドがくっついた。


 とりあえず自分の失恋が決定したわけだ。

 それはまぁ、置いておいて。

 よかったなと思う。本心から。



 リディアは、おかしな奴だ。

 パッと見はかわいいけど、中身が変わってる。

 仕事はできるし優秀なんだけど、それを差し引いても残念な中身をしている。


 可愛らしく大人しそうな見た目に反し、ガサツだし面倒くさがりだし、ズボラだし、鈍感だし鈍感だし鈍感だし。


 それなのに、他人の痛いところを突くのが絶妙にうまいから腹が立つ。無神経ではないけれど、うっとなる一言をそっと差し込んでくる。本人に悪気はない。


 常識はあるのに、それにとらわれず生きているため周囲からは変わり者として認知されている。独自の発想力は周りから一目置かれており、中身を知らない奴らからは尊敬されているらしい。


 甘えベタで、手先は不器用なのに頭はキレて、無自覚に人をたらし込むから目が離せない。


 ところどころ悪口に聞こえるかもしれないが、これはおれの好きな女の話だ。


 なんで好きなんだろう。

 何度、自問自答したか分からない。


 毒気を抜かれるくらい素直で、心配になるくらい素朴なあいつは敵を作ることは少ない。


 地味だけど一生懸命に生きていて、どこか放っておけない。むしろ年上のお姉さん方に気に入られ可愛がられている。羨ましい。


 まぁ、笑った顔はけっこうかわいい。



 あれこれ言ったが、悔しいことに出会ったその日に心を掴まれ、同僚として眺め続けること7年。


 自分がやばい奴だって自覚はある。

 7年も片思いって。

 でも思いを告げるつもりはないのだから、仕方ない。





 * * *




 クラウドはかわいい後輩だ。仕事ぶりも人柄も嫌いじゃない。リディアにご執心なのも知ってた。


「...先輩がいちばん危険です」


 仕事の休憩中。

 珍しく声をかけてきたクラウドと食堂へ。

 不穏な気配を隠さない後輩は、笑顔を消して切り出した。


「はぁ?おれほど安全な男はいないだろ」


 リディア絡みかよ。

 ていうか、危険ってどこが?

 7年も近くにいて、少しも行動を起こしていないおれに言う台詞か?

 胸を張れることじゃないが。


「他の女性と関係を持ちながら、本命には思いも告げず指一本触れてないなんて...本気過ぎて怖いです」


 あーそういうことね。

 まぁ、そう言われてみればそうかもしれないね。はは。


「それに先輩、彼女の欠点が好きでしょ」


 ん?


「見た目とか優しいところとかじゃなく、リディアさんのダメな部分が好きですよね」


 言われて、なるほどな、と思う。


「そういう人は、厄介です」


 すごく嫌そうに言われて、楽しくなってしまう。

 クラウドがこんな風に素の表情を晒すのは珍しい。


「あはは」

「笑いごとじゃありません」

「だって、お前。はは、確かにそうだわ」


 リディアのどこが好きって、どうしようもない所ばっかりだ。


「...努力してください」

「なにを?」

「他の人に目を向ける努力です」

「おいおい」


 俺の軽口とは対照的に、クラウドの顔は真剣だ。


「言い方を変えますね。仲良くされている女性たちのどなたかと真剣に向き合ってください」


 ...こいつ。

 本当におれが邪魔なんだな。


「ずいぶん余裕がねぇなぁ」

「っ...」

つがいなんだろ?その時点でおれが入り込む余地なんてない。放っておけばいい」

「...先輩だから」

「あ?」

「あなただからです。リディアさんが絶対的に信頼を置いてるあなただから、余裕なんてあるはずない」


 まさかの展開だ。

 あのクラウド・ハリスが、おれごときを眼中に入れて警戒してるとは。ていうか嫉妬だよな、これ。


 おれがリディアから信頼されてる?

 初耳なんだけど。


「リディアさんは、ぼくに仕事の相談なんかしてくれません」

「そりゃ、経験が違うんだから仕方ないだろ」



「先輩と話す時は、すごく気を抜いてて楽しそうです」

「これっぽっちも意識されてないって遠回しに言ってんのか?あ?」



「ぼくには、気安く嫌味なんて言ってくれません」

「それはさ...言われない方がよくない?」

「可愛く、この馬鹿って言われてましたよね」

「...え、あれ可愛かったか?鬼のようだったじゃねぇか」


 恋は盲目っていうけど、クラウドの目はおれとは違う景色を見ているようだ。


「でもおれさ、たぶん一生好きだよ」

「...」

「殺意込めてこっち見るのやめて」

「...」

「仕方ないじゃん」


 そろそろ視線で殺されそうだから、挑発するのはやめておこう。


「大丈夫だよ、クラウド」

「...なにがですか」

「おれ、お前のこともけっこう好きだから」

「...は?」


 かわいい後輩の幸せも願ってるから安心しろ。




 7年も手を出さずに見守ってきたんだ。

 ひとつくらい我儘いってもいいだろう。

 幸せになって欲しいと願い続けてきた。

 自分で幸せにしたいとは、ついに思わなかった。


 だから、恋をし続けた。


 もしも想いを告げて、万が一受け入れられてしまったら、おれはきっとリディアに失望するから。


 そんなの恋じゃないって言う奴もいるだろう。

 執着してるだけだ。わかってる。


 でもおれにとっては、大切な初恋だった。


 リディアはおれにとって不可侵領域で、神域で、身勝手な理想を押し付けてここまできた。その自覚はある。


 あいつは微塵も気づいてないだろうけど。


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