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眠り猫は抱き枕を離さない  作者: しんら
26/30

25.

 

「なんだ、やっとくっついたのか」


 同僚に淡々と言われ動揺する。


「え...っ、なん、知って」

「いや、知らない奴いないから」

「...は?」

「ほんと死ぬほど鈍感だよな、おまえ」



 * * *




 淡白な性格だと思ってたけど、恋を知って、さらにそれを受け入れてもらったわたしは独占欲の塊だった。


 クラウドのそばにいたい。いてほしい。

 わたしだけを見て欲しい。

 他の誰かに笑いかけないで。

 わたしのクラウドに触らないで。

 話しかけないで。見ないで。


 ああ、どこかに閉じ込めてしまいたい。


 仕事中にそんなことを考えてしまう。


 引く。これは引く。

 我ながらドン引きだ。


 そして、クラウドは他人の感情の機微に敏感だ。

 わたしの内心の動揺を察したように、「どうかしました?」と詰め寄られた。


 思いきって自分の心の内をさらけ出すと、


「そんなのぼくだっていつも思ってます」


 さらりと肯定された。


「...あ、そう、なの?」

「そうですよ」


 戸惑っているわたしの方がおかしいのかな、とさえ思えてくる。


「...いやじゃない?」

「嬉しいですけど」


 嬉しいんだ。

 そうなんだ。


「ぼくの方がもっと重症なので」

「...ん?」

「あなたの嫉妬や独占欲は嬉しいだけです。もっと見せて」


 わたしの番は、幸せそうに笑っている。


「愛されてるなぁって思います」



 あれ?なんか思ってたんと違う。

 クラウドは心から喜んでいるように見える。


「...わたしが思ってることはただの我儘で、クラウドに押し付けたら円滑に仕事もできないよね。でもね、わたしだけのものだったらいいのにって思ってしまう」


「リディアさんだけのものです」


 ふわりと抱き寄せられる。

 クラウドの腕の中にいるだけで不安が霧散するから不思議だ。


「...冒険者としての依頼が来たら...何日もどこかへ行ってしまうの?」

「行きませんよ」

「うそ」

「嘘じゃありません。依頼を受けることはあると思います。でも毎日あなたの所へ帰ります」

「...そんなことできないでしょ」


 物理的な距離は埋められない。


「できないと嫌だから練習したんです。転移術」


「...は?」


 腕の中からクラウドを見上げる。


「ぼく魔力量だけはバカみたいに多いので、頑張って出来るようにしました」


 クラウドは剣士だ。

 魔法も使うが、加減が難しいから苦手だと言っていた。

 転移術は高位の魔術師でも習得が難しいと聞く。魔力量だけでどうこうできる話でもない。


 ああ、でも...クラウドだしな。


「世界中のどこにいても一瞬であなたのいる場所に帰ります」


 クラウドはいつも、わたしを帰る場所に選んでくれる。何をおいても1番に。


「ぼくね、リディアさんがいれば他はどうでもいいんです。守りたいものも大切なものもたくさんあります。でもそれは、この世界にリディアさんがいるからです。あなたが大切にしているものを守りたいだけです。あなたがいるから世界に意味がある」


 なんだか怖いことを言い出した。


「リディアさんこそ覚悟してくださいね」


 重いと思う。

 でもその重さがわたしには必要だ。




 * * *





 クラウドは、ありがとうって言う。


 産まれてきてくれてありがとう。

 生きていてくれてありがとう。

 ぼくを見つけてくれてありがとう。

 ひとりで頑張ってくれてありがとう。

 ぼくの手を取ってくれてありがとう。



 そのたびに鼻の奥がつんとなる。

 泣きたくなる。

 それは、わたしが言いたいことだ。


 存在を認めてくれる人がいる。

 無条件で愛してくれる人がいる。


 わたしには特効薬だった。


 長年患っていた嗅覚障害も不眠も、クラウドが傍にいてくれるだけで自然と改善していった。

 愛おしいと思うのは自然なことで、やがて機能をきちんと取り戻した鼻が芳しい香りを拾う。

 そしてようやく、クラウドが自分の番であることを知った。


 どんな気持ちで見守ってくれていたんだろう。わたしに何も告げず、そっと寄り添ってくれていた彼の深い想いに溺れてしまいそうだ。




「あ...クラウドの匂い」


 不意に鼻をくすぐった香りに思わず反応すると、


「え!?」


 クラウドが過剰に反応した。


「もっとかいでください」

「...言い方」

「ぼくもかいでいいですか」

「え」

「...だめ?」


 なんなのこの子。

 頼れる男の人の時もあれば、かわいい男の子な時もあるから困る。

 いい意味で困る。


「いいけど...っ...ちょ、耳ぃ!」




 愛してる。あなたの為に生きていたい。

 ずっとずっと離さない。



 眠り猫は

 きょうも愛しい番を抱きしめて眠る。


お付き合いいただき、ありがとうございました。

こちらで完結とさせていただきます。


思いつきで別視点や後日談を投稿するかもしれません。

気が向いたら読んでやってくださいませ。

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