25.
「なんだ、やっとくっついたのか」
同僚に淡々と言われ動揺する。
「え...っ、なん、知って」
「いや、知らない奴いないから」
「...は?」
「ほんと死ぬほど鈍感だよな、おまえ」
* * *
淡白な性格だと思ってたけど、恋を知って、さらにそれを受け入れてもらったわたしは独占欲の塊だった。
クラウドのそばにいたい。いてほしい。
わたしだけを見て欲しい。
他の誰かに笑いかけないで。
わたしのクラウドに触らないで。
話しかけないで。見ないで。
ああ、どこかに閉じ込めてしまいたい。
仕事中にそんなことを考えてしまう。
引く。これは引く。
我ながらドン引きだ。
そして、クラウドは他人の感情の機微に敏感だ。
わたしの内心の動揺を察したように、「どうかしました?」と詰め寄られた。
思いきって自分の心の内をさらけ出すと、
「そんなのぼくだっていつも思ってます」
さらりと肯定された。
「...あ、そう、なの?」
「そうですよ」
戸惑っているわたしの方がおかしいのかな、とさえ思えてくる。
「...いやじゃない?」
「嬉しいですけど」
嬉しいんだ。
そうなんだ。
「ぼくの方がもっと重症なので」
「...ん?」
「あなたの嫉妬や独占欲は嬉しいだけです。もっと見せて」
わたしの番は、幸せそうに笑っている。
「愛されてるなぁって思います」
あれ?なんか思ってたんと違う。
クラウドは心から喜んでいるように見える。
「...わたしが思ってることはただの我儘で、クラウドに押し付けたら円滑に仕事もできないよね。でもね、わたしだけのものだったらいいのにって思ってしまう」
「リディアさんだけのものです」
ふわりと抱き寄せられる。
クラウドの腕の中にいるだけで不安が霧散するから不思議だ。
「...冒険者としての依頼が来たら...何日もどこかへ行ってしまうの?」
「行きませんよ」
「うそ」
「嘘じゃありません。依頼を受けることはあると思います。でも毎日あなたの所へ帰ります」
「...そんなことできないでしょ」
物理的な距離は埋められない。
「できないと嫌だから練習したんです。転移術」
「...は?」
腕の中からクラウドを見上げる。
「ぼく魔力量だけはバカみたいに多いので、頑張って出来るようにしました」
クラウドは剣士だ。
魔法も使うが、加減が難しいから苦手だと言っていた。
転移術は高位の魔術師でも習得が難しいと聞く。魔力量だけでどうこうできる話でもない。
ああ、でも...クラウドだしな。
「世界中のどこにいても一瞬であなたのいる場所に帰ります」
クラウドはいつも、わたしを帰る場所に選んでくれる。何をおいても1番に。
「ぼくね、リディアさんがいれば他はどうでもいいんです。守りたいものも大切なものもたくさんあります。でもそれは、この世界にリディアさんがいるからです。あなたが大切にしているものを守りたいだけです。あなたがいるから世界に意味がある」
なんだか怖いことを言い出した。
「リディアさんこそ覚悟してくださいね」
重いと思う。
でもその重さがわたしには必要だ。
* * *
クラウドは、ありがとうって言う。
産まれてきてくれてありがとう。
生きていてくれてありがとう。
ぼくを見つけてくれてありがとう。
ひとりで頑張ってくれてありがとう。
ぼくの手を取ってくれてありがとう。
そのたびに鼻の奥がつんとなる。
泣きたくなる。
それは、わたしが言いたいことだ。
存在を認めてくれる人がいる。
無条件で愛してくれる人がいる。
わたしには特効薬だった。
長年患っていた嗅覚障害も不眠も、クラウドが傍にいてくれるだけで自然と改善していった。
愛おしいと思うのは自然なことで、やがて機能をきちんと取り戻した鼻が芳しい香りを拾う。
そしてようやく、クラウドが自分の番であることを知った。
どんな気持ちで見守ってくれていたんだろう。わたしに何も告げず、そっと寄り添ってくれていた彼の深い想いに溺れてしまいそうだ。
「あ...クラウドの匂い」
不意に鼻をくすぐった香りに思わず反応すると、
「え!?」
クラウドが過剰に反応した。
「もっとかいでください」
「...言い方」
「ぼくもかいでいいですか」
「え」
「...だめ?」
なんなのこの子。
頼れる男の人の時もあれば、かわいい男の子な時もあるから困る。
いい意味で困る。
「いいけど...っ...ちょ、耳ぃ!」
愛してる。あなたの為に生きていたい。
ずっとずっと離さない。
眠り猫は
きょうも愛しい番を抱きしめて眠る。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
こちらで完結とさせていただきます。
思いつきで別視点や後日談を投稿するかもしれません。
気が向いたら読んでやってくださいませ。




