22.
「無茶しないでください」
クラウドが、眉根を寄せて言う。
「頭にきて、つい」
「あんなの、言いたい奴には言わせておけばいいんです」
聞こえていたのか。
慣れてる、そんな風に受け流せるくらいには。
だけどわたしは見逃せない。
これからも、きっと。
「あなたはよくてもわたしは...わたし達は我慢ならない。対抗する力は持ってなくても、かわいい後輩が侮辱されているのを見過ごすようなことはできない」
でも、と遮るクラウドの言葉を無視して続ける。
「あなたの働き方を尊敬してる。仲間だと思ってる。ギルドは誰に対しても公平だけど、身内に不当に唾を吐く相手には容赦しないわ」
聞き逃すことは出来なかった。
クラウドのためでもあったけど、おそらく自分のために。
「よく言った!」
「リディアいいぞー」
周囲から声が掛かる。
手に頼りない武器(掃除道具)を握りしめたギルド職員たち。腰が引けているのはご愛嬌。決して荒事に慣れていないくせに加勢しようとしてくれていたのか。
「...それであなたが怪我をしたら、ぼくは自分を許せない」
「それは、...ごめんなさい」
素直に謝れたのは、クラウドが本当に辛そうな顔をしたから。
「あれ...?」
ほっとしたからか、今さら手や膝が震え出す。
いや、だって、めちゃくちゃ怖かった。
あんな大男に殴られてたら、と思うと恐ろしすぎる。
かくん、と膝から力が抜ける。
やば、と思ったら、クラウドに支えられていた。
「...もう、ほんと」
呆れられただろうか。
無鉄砲に突っ込んで、挑発して、助けてもらった末にこのザマだ。
偉そうなことを言ったけど、クラウドが来てくれなかったらどうなっていたか...。
ひょい、と抱き上げられて、クラウドの困ったような顔が間近に迫った。
「なっ...」
これは...お姫様抱っこ!?
「ちょ...っ、やだ」
これはかなり恥ずかしい。
手でクラウドの胸を押したり、足をバタつかせたりして抵抗を試みる。
「心臓が止まるかとおもいました」
え?
視線を上げると、泣き出しそうな夕焼け色の瞳とぶつかった。
「おとなしくしていてください」
静かに気圧され、...はい、と頷く。
そろそろと両手を胸の前に畳み、足をきゅっと閉じる。いたたまれなくて顔をうつむけると、クラウドの胸に隠れるみたいになった。
だめだな、わたし。
先輩として情けない。
クラウドだって、きっとそう思ってる。
街の人達に申し訳ない。
騒動を起こしてしまった。
もっと上手くやれたはずなのに。
いつもならあんな風には対応しないのに。
わたし、恋に振り回されて、みっともない。
おまえらもう帰っていいぞー、と同僚の声がするが顔を上げられない。
クラウドが礼を言って、わたしたちは、というかクラウドは歩き出した。
どこに向かってるとかどうでもいい。
このまま海まで運んで捨てて欲しい。
頭を冷やしたい。
森の端の方に置いてくれてもいい。
少し隠れていたい。
自己嫌悪で落ち込む。なのにクラウドの腕の中は世界で1番安心できる場所で、泣けてきた。
気づいていただろうに、彼は何も言わず歩き続けた。
そして、互いに無言のままわたしの家に到着した。




