19.
「で?」
「で、とは」
久しぶりにフィーの家に遊びに来ている。
かわいいお子様ふたりはさっきまで散々遊び倒して、今はすやすや夢の中だ。
「クラウド・ハリスよ」
「...なに、急に」
「急じゃないし。いつ話してくれるのか待ってたけど、全然口を割らないじゃない。吐きなさい」
フィーさまの言うことは絶対。
洗いざらい包み隠さず吐いた。
いや、吐かされた。
恥じらう隙もなかった。
「...なるほどねぇ」
フィーって、何なんだろう。
こんなに見目麗しいのに、中身が熟練の刑事みたいで引く。完全に取り調べだった。
もっとこう、恋バナってきゃっきゃうふふ、するんじゃないの?
まぁ、わたしもそういうキャラではないけどさ。
「よかったわね」
「へ?」
「ほんとに...よかった」
聞こえてきた涙声に、呆然とした。
フィーが目を潤ませて唇を噛みしめている。
「なっ...ど、どうした」
美少女を泣かせてしまった。
実際は人妻で2児の母だけど。
いや、そうじゃない。
あの、フィーが泣いている。
幼い頃からお互いのことを知っている。
フィーは幼少期から可憐で、地元でも評判のふわふわ美少女だった。たくさんの大人が彼女をちやほやしていたし、同年代の子どもたちはこぞって憧れていた。
おしとやかで朗らかな、気立てのいいお嬢さん。
それがみんなが知ってるフィー。
でも彼女はただ、外面が死ぬほどいいだけなのだ。
フィーは自分の外見から押し付けられるイメージを心底嫌っていた。
人のことは言えないが、フィーの女らしい一面なんてわたしは見たことがない。なんなら男に生まれたかったと本気で言っていた。
あの頃の彼女は本能むき出しで、今よりもっと激しい性格をしていた。そのことを知っていたのは、身内とわたしぐらいだったろう。
ご両親は、ほとほと困り果てていた。
誤解しないでほしいのは、彼女の性格が悪いという話ではない。実際、自分の容姿がまわりに与える印象と内面のズレにフィーはとても苦しんでいた。両親の理想通りに生きられない自分を恥じていた。
だからせめて、敵を作らずに壁を作ることを選んだんだと思う。自分を押し殺して。
美形ゆえの処世術だったのかもしれないし、上辺しか見ない周囲への仕返しだったのかもしれない。
本来の彼女の内面は、辛辣、毒舌、冷淡に見せて苛烈。男らしく、竹を割ったように潔い。
懐に入れた相手には全力で愛情を注ぎ、たとえ裏切られても晴れやかに笑う。そんな女だ。
つまり、なかなか素直になれない不器用さんだということ。
そんなフィーが泣いている。
わたしのために、泣いている。
「...幸せになってよ」
こんなにも心配をかけていたんだ。
ずっと、何年も、同じ温度で見守ってくれた。
励ますでも叱るでもなく、そっと背中に手を添えていてくれた。
もどかしく思ったこともあったろう。
いつまでやってんだと、早く前を向けと、そう思っていたはずだ。
それでも、バカなわたしを笑い飛ばすことはあっても、決して頑張れとは言わなかった。
わたしはそれに甘えて、感謝もおざなりだったね。
ごめん。最低だ。
「フィー」
「...なによ」
「わたし、幸せだよ」
「...」
「フィーが居てくれて、幸せ者だよ」
「...ばか」
可愛いうさぎさんから、涙目で頬染め『ばか』をいただきました。
溺愛が過ぎる旦那さんにバレたら恨まれそうだな。
でも今日だけは、貴重なデレを独り占めして堪能させもらおう。




