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眠り猫は抱き枕を離さない  作者: しんら
20/30

19.

 


「で?」

「で、とは」


 久しぶりにフィーの家に遊びに来ている。

 かわいいお子様ふたりはさっきまで散々遊び倒して、今はすやすや夢の中だ。


「クラウド・ハリスよ」

「...なに、急に」

「急じゃないし。いつ話してくれるのか待ってたけど、全然口を割らないじゃない。吐きなさい」


 フィーさまの言うことは絶対。


 洗いざらい包み隠さず吐いた。

 いや、吐かされた。

 恥じらう隙もなかった。


「...なるほどねぇ」


 フィーって、何なんだろう。


 こんなに見目麗しいのに、中身が熟練の刑事みたいで引く。完全に取り調べだった。


 もっとこう、恋バナってきゃっきゃうふふ、するんじゃないの?

 まぁ、わたしもそういうキャラではないけどさ。


「よかったわね」

「へ?」


「ほんとに...よかった」


 聞こえてきた涙声に、呆然とした。

 フィーが目を潤ませて唇を噛みしめている。


「なっ...ど、どうした」


 美少女を泣かせてしまった。

 実際は人妻で2児の母だけど。

 いや、そうじゃない。



 あの、フィーが泣いている。



 幼い頃からお互いのことを知っている。


 フィーは幼少期から可憐で、地元でも評判のふわふわ美少女だった。たくさんの大人が彼女をちやほやしていたし、同年代の子どもたちはこぞって憧れていた。


 おしとやかで朗らかな、気立てのいいお嬢さん。

 それがみんなが知ってるフィー。


 でも彼女はただ、外面そとづらが死ぬほどいいだけなのだ。


 フィーは自分の外見から押し付けられるイメージを心底嫌っていた。


 人のことは言えないが、フィーの女らしい一面なんてわたしは見たことがない。なんなら男に生まれたかったと本気で言っていた。

 あの頃の彼女は本能むき出しで、今よりもっと激しい性格をしていた。そのことを知っていたのは、身内とわたしぐらいだったろう。

 ご両親は、ほとほと困り果てていた。


 誤解しないでほしいのは、彼女の性格が悪いという話ではない。実際、自分の容姿がまわりに与える印象と内面のズレにフィーはとても苦しんでいた。両親の理想通りに生きられない自分を恥じていた。


 だからせめて、敵を作らずに壁を作ることを選んだんだと思う。自分を押し殺して。

 美形ゆえの処世術だったのかもしれないし、上辺しか見ない周囲への仕返しだったのかもしれない。


 本来の彼女の内面は、辛辣しんらつ、毒舌、冷淡に見せて苛烈かれつ。男らしく、竹を割ったように潔い。

 懐に入れた相手には全力で愛情を注ぎ、たとえ裏切られても晴れやかに笑う。そんな女だ。


 つまり、なかなか素直になれない不器用さんだということ。


 そんなフィーが泣いている。


 わたしのために、泣いている。





「...幸せになってよ」


 こんなにも心配をかけていたんだ。


 ずっと、何年も、同じ温度で見守ってくれた。

 励ますでも叱るでもなく、そっと背中に手を添えていてくれた。


 もどかしく思ったこともあったろう。

 いつまでやってんだと、早く前を向けと、そう思っていたはずだ。

 それでも、バカなわたしを笑い飛ばすことはあっても、決して頑張れとは言わなかった。


 わたしはそれに甘えて、感謝もおざなりだったね。

 ごめん。最低だ。


「フィー」

「...なによ」

「わたし、幸せだよ」

「...」

「フィーが居てくれて、幸せ者だよ」

「...ばか」


 可愛いうさぎさんから、涙目で頬染め『ばか』をいただきました。

 溺愛が過ぎる旦那さんにバレたら恨まれそうだな。


 でも今日だけは、貴重なデレを独り占めして堪能させもらおう。

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