15.
目覚めて、いちばん。
気怠い体と軽い頭痛と共に、自分の気持ちを自覚した。
...好き。めちゃくちゃ好きだ。
さらさらの柔らかい髪は黄金色。
瞳の色は橙。夕暮れの深い空の色。
優しくて温かい色だ。
まるで包み込むようで眠くなる。
戦闘時にはその瞳の色が少し変わるらしい。
暁色。夜明けの色。人々の希望の色。
二つ名の由来だと控えめに教えてくれた。
容姿端麗なのは言うまでもなく、どんなケアをしているのか知らないが唇も肌も荒れもせずにつるつるぷるぷるだ。羨ましい。
細身の体は無駄なく引き締まり、肩はがっしりしっかり男の人だ。
手の指は長くて綺麗だけど節くれだってゴツゴツしてる。剣を握る人の手。
頭が小さく手足がすらりと長いから野暮ったいギルドの制服すら上級貴族のように着こなしてしまう。羨ましい。
寝転んだまま、クラウドのことばかり考える。
考えずにはいられない。
今までよく平気で接していたなと思う。
よく考えなくてもスーパーハイスペック男子だった。
クラウドに醜態を晒すのは2度目だ。
今回は前回のお弁当の時よりさらにひどい。
酔っ払い、くどくどと話し込み、感情のまま泣いて甘え倒し、よしよしと慰められながら眠った。
クラウドはわたしの話を静かに聞いてくれた。
ただそこに居て、情けないだけのわたしの話を。
否定も肯定もしない。
吐き出すだけ吐き出したらすっきりした。
もういいや。この人にはダメなところばかり見せているからもう何も取り繕わなくていい。
楽にしていい。大丈夫。
クラウドなら甘えさせてくれる。大丈夫。
そんな図々しいことを思ってしまった。
全て記憶にある。
何から何まで覚えている。
自分の醜態に血の気が引きつつ、クラウドの声や手や匂いを思い出して全身が沸騰しそうだ。
そう、匂い。
鼻の利かないはずのわたしが拾ったわずかな匂い。
果物のような若葉のような不思議な香り。
他の匂いはよく分からないのに。
どうしてクラウドだけ...?
「あ、起きました?」
びくぅっ。
お気づきでしょうか、みなさん。
昼前に待ち合わせ、家に乗り込み昼食を作り、勢いに任せてお酒を飲んだ挙句、他人様の家で夕方まで寝こけた。
そんなとんだ迷惑女がわたしです。
「はい、お水です」
寝ても覚めてもクラウドは優しい。
どうやらソファに寝かせてくれていたらしい。上半身を起こし、用意してくれていたグラスを受け取る。
冷たい水が喉を通っていくのが心地いい。
「...ありがとう」
「どういたしまして」
「...ご迷惑をおかけしました」
クラウドはきょとんとした後、目を細めた。
「役得でした」
っかぁーー。
この男、正面から心臓を鷲掴みに来てる。
「リディアさん、歩けそうですか?」
「...へ?あ、うん」
「もう少ししたら送っていきます」
「あ、ごめんっ。すぐ帰るね!」
慌ててソファから足を下ろす。
「ずっと居て欲しいんですけどね」
「は?」
「今日はちゃんと帰します」
「...」
どう返せと?
初恋を自覚したばかりのわたしには難問すぎました。
正解を叩き出せないまま、おそらく能面のような顔で固まったわたし。
能面って日本の文化だよなー...とかそんなことを考えて現実から逃避していた。
漂いかけていた甘い空気が霧散する。
失格。
「夜は冷えますから」
クラウドは能面にも優しい。
家を出る前に、クローゼットからジャケットを出して肩にそっと掛けてくれた。
わたしの体をすっぽり包むジャケット。
ときめきが止まらなかったけれど、能面ぶりも止まらなかった。
ぷっと噴き出す音。
「調子に乗ってごめんなさい。そんなに警戒しないで」
違うんだと慌てて首を振る。
「...あのっ、そうじゃなくて」
でもその後が続かない。
気の利いたことのひとつも言えない。
情けない。
「リディアさん。どの指がいいですか?」
ぱっと目の前に出された手のひら。
反射的に掴んだのは小指。
「お家までお散歩しましょう」
クラウドの左手の小指をきゅっと握って、ようやく家路についた。




