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眠り猫は抱き枕を離さない  作者: しんら
14/30

13.

 

 やはりきちんと伝えておこう。

 そう思い、切り出した。


「料理は苦手って、前に話したと思うんだけどさ」


 ソファ、ローテーブル、チェスト。

 必要最低限の家具があるだけの部屋はあまり生活感はない。けれどそっと置かれた雑貨や日用品にクラウドの気配が感じられる。

 初めて来るのに不思議と落ち着く空間だ。



「謙遜とか建前とかじゃなく本当なんだよね。わたし...食べ物の味がよく分からないの」



 フィー以外には話したことがない。

 それをクラウドに伝えるのはなかなか勇気がいった。



 どんな風に思うだろう。

 根掘り葉掘り聞かれるだろうか。

 話すのは構わないけど、変に同情されるのは嫌だな。

 治療の方法を押し付けられるのも嫌だ。

 大したことじゃないって励まされたらすごく悲しい。


 ああ、わたし、なんてワガママなんだろう。

 でも。



「...そうなんですね」



 クラウドの反応は予想のどれとも違った。


「...それだけ?」

「辛いでしょう?」


 労るような視線。ただ心配してくれている。

 それが強く伝わってきて泣きそうだ。



「...どうだろう。辛いと思わないようにしてたら慣れてきたよ」



 へらっと笑うと、クラウドは困ったように眉を下げた。ああ、失敗。そんな顔をさせたかった訳じゃない。



「何を食べても、ですか?」

「そうだね...塩味がわかる程度かな。匂いがしないの、だから」



 あなたに料理を作るのは今日で最後にする。

 そう続けようと思ってた。

 なのに



「今日はぼくがいますよ。作るのは苦手だけど、味見は得意ですから任せてください」



 胸を張って言うから、なんだか拍子抜けしてしまった。



 この人はどうして...


 いつもわたしを明るい方へ連れていってくれる。強引に手を引くわけじゃなく、扉の外からそっと声をかけて連れ出してくれる。

 日の当たらない部屋でまったり過ごしてきたわたしには外は少しまぶしすぎるけど、太陽の光があたたかいことを思い出させてくれる。



「...それは、心強いね」



 頑丈な鍵をかけて閉じていた場所からカチリと音がした気がした。



 二人で協力しながらする料理は面白かった。

 献立は単純に、ステーキと野菜スープとポテトサラダ。


 わたしが材料を切って調理して、クラウドが思いつくまま調味料を投入する。わたしが頭の中で味を想像して微調整をして、味見役のクラウドは首を傾げたり目を見開いたり大きく頷いたりしてようやく完成した。


「リディアさん、お酒は?」


 出来たての料理をテーブルに並べているとクラウドが言う。


 どうしても眠りたい日はお酒に頼ることもある。でも基本的には飲まない。あまり依存したら危険だと思うし、フィーから「人前で飲むな」と釘を刺されている。理由は教えてくれない。



「幼なじみに人前で飲むなって言われてるの」

「それは、どうして?」

「うーん、なんか危ないからって」

「...じゃ、やめておきましょうか」

「あ、クラウドは飲んでね」

「じゃあ少しだけ」

「弱いの?」

「いや。お酒は好きなんですけど、いくら飲んでも酔わないので」

「うわぁ...」



 料理の味はやっぱり分からなかった。

 だけど喉が詰まるような苦しさはなかった。

 目の前でおいしそうに食べるクラウド。

 それを見ているだけで幸せだ。胸がいっぱいになる。



 クラウドはたくさん話をしてくれた。

 冒険者として大陸中を旅していた話。

 一緒に旅をしていたお爺さんのこと。

 ご家族のこと。

 小さい頃の話。



 時々こちらをじっと見つめるから、なんだか落ち着かない気持ちにさせられた。

 勢いでクラウドのグラスに手を伸ばす。



「あ、それお酒...」

「飲みたいの。わたしも話したいの。聞いてくれるよね」

「...はい。もちろん」



 嬉しそうにクラウドが笑った。


 どきどきする。でも安心する。

 クラウドの声も笑顔も眼差しも。

 全部がわたしを包む。


 わたしの話を聞いて欲しい。


 幼い頃、父と母にその日の出来事を話すのが日課だった。いい事もいやな事も2人に話せば笑って眠れた。


 あの頃の気持ちを久しぶりに思い出した。


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