12.
待ち合わせに選んだのは目的の市場にほど近い広場。
中央にある噴水周辺には、同じく待ち合わせ目的の人々が多い。
クラウドは先に来ていて、わたしを視界にとらえると微笑んで手を振った。
「早いね」
「楽しみで早起きしちゃって」
ああ。今日もクラウドは爽やか好青年だ。
噴水をバックにキラキラしている。
「デート日和ですね」
「デート?」
「デートです」
「...はじめて」
「えっ?...はじめて?デートが?ほんとにっ?」
「変かな」
「変じゃないです。ぼくも初めてです。一緒ですね」
...え。この容姿でデートしたことないっていうのは嘘だよね。先輩に恥をかかせないように合わせてくれたのかもしれない。気遣いのできる後輩め。
デート。
そんな淡く甘い場面が自分に訪れるとは。なんだか感慨深い。基本は家と職場を往復するだけの人生だし。休日に約束して出かけるのは、フィー以外で初めてだ。
自覚はあったけど改めてすごく寂しい私生活だな。
今日のクラウドは生成のシャツに黒いパンツとブーツ。かっちり制服を着こなしている姿しか見たことがなかったから新鮮。シンプルな格好だからこそスタイルの良さが際立ち、さっそく人目を引いている。
対するわたしは淡いグリーンの膝丈ワンピース。カーディガンを羽織って腰にベルトをしているのは寸胴であることをごまかすためだ。
「...かわいい」
出会い頭にぽつりと言われて反応できなかった。
とくん。
とくん、ってなんだ心臓。
行きましょう、と促されて並んで歩く。休日ということもあって、市場は活気に満ちていた。
ご機嫌なクラウドは世間話をしながらちょこちょこと気になる露店を覗いていく。表情がころころ変わって飽きない。賑やかな市場の雰囲気もあって正直、すごく楽しい。
わたしにも興味があるものを聞いてくれるが、いつも必要最低限なものをポツポツ買うだけなので欲しいものと言われてもぱっと思い浮かばない。これからクラウドの家にお邪魔するのに、雑多な日用品を買うわけにもいかないし。
あれなんか...やっぱり寂しい私生活。
こんなのと一緒で楽しいのだろうかと急に不安になりそっと隣を盗み見る。
タイミングよくクラウドと目が合った。片手に珍妙な木彫りの置物を持って乙女が恥じらうようにこっちをチラチラ窺っている。
「初デートの記念に買おうかな...って」
それはギョロっとした目と長いしっぽが特徴的な爬虫類の木彫り。肌のざらりとした感じも上手く表現されている。
なんでだ。
元の場所に戻しなさい。
「お肉が食べたいです」とのリクエストで、野菜や肉を買い揃えて家路に就く。
クラウドの家は木の温もりを感じる素朴な外観の集合住宅だった。小人さんのおうちみたい。
「わ...かわいい」
思わず漏らすと、似合わないでしょと照れるクラウド。いや、めちゃくちゃ似合いますけど。たしかに男の人が選ぶには少々かわいらしい物件だと思うけど、ほっこり暖かみのある風合いがクラウドの雰囲気にぴったりだ。
「すてきなお家」
「気に入りました?」
「うん」
「いつでも来ていいですよ」
そんなわけにはいかないでしょと思いつつ、クラウドが嬉しそうだから曖昧に笑っておく。
さぁ、いよいよ料理タイムだ。
どうしようか。




