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眠り猫は抱き枕を離さない  作者: しんら
12/30

11.

 

 将来きっと出世するだろうな。


 そう思ってた後輩が、すでに称号持ちのとんでもない実力者でした。出世どころじゃない。もうとっくに立派に身を立てている。


 今さらそのことに驚いているのはギルド内でこのわたしだけなので、平静を装って仕事をしています。


「先輩」

「なんでしょう」

「ん?」

「なんですか、クラウドさん」

「...どうして敬語なんですか?」


 あなたがSランク冒険者だからですけど。

 敬意を払ったまでですが、なにか。


「変なの」


 少し唇をとがらせて不思議そうにする姿は普通の男の子なんだけどな。




 さて、皆さん。

 冒険者には時に、二つ名や通称がつけられることがあります。注目度や実力に見合った通り名は市民には親しみやすく、ランクが高い者ほど尊敬の念を込めて命名されるのです。


 で。

 もちろん我らがクラウド君にも通り名があるわけです。


 彼の二つ名がこちらです。



あかつき双翼そうよく



 ...かっこよ。


 『暁』は瞳の色のことだよね。

 『双翼』はなんの比喩かな。

 どんな戦い方をするんだろう。

 ひとりを指す名称にしてはスケールが大きいというか。

 まるで小隊や師団の別称みたい。

 一騎当千、的なことだろうか。


 想像を掻き立てるわー。

 前世のわたしったら厨二病をわずらってたからね。

 大人になっても罹患りかんしてたからね。



「リディアさん?」


 小首を傾げる仕草が無性に似合う。


 なんだろう。クラウドにはなんの非もないのだけど、髪の毛をぐしゃぐしゃに掻き乱してやりたい。

 わたしは遠い目をしてその衝動をやり過ごす。

 いい加減、卑屈になるのはやめよう。


「ごめん、なに?」


 わたしが話を聞く気になった雰囲気を察してクラウドが切り出す。


「またごはん作ってください」


 幻聴かな。礼ならば返したはずだ。


「...なんで」

「リディアさんの手料理。お弁当だけじゃ足りません」

「えー...」

「次のお休みはいつですか?合わせます」

「いや...」

「せっかくだから買い物も一緒にしましょう」

「だからなんで」

「おうちまで迎えに行ってもいいですか?」



 クラウドはいつも機嫌がいい。

 今もにこにこ笑顔だ。作り笑顔には...見えない。

 整った顔は無表情だと冷たく見えるが、笑うとぐっと親しみやすくなる。


 そして自分の要望を笑顔でやんわり押し通すタイプだ。

 仕事中もときどき見かける。


 彼の笑顔の前では我ら愚民の抵抗など取るに足らない。




「...わざわざ迎えに来てもらうのは悪いから待ち合わせしよう」

「ぼくなら平気です」

「市場で待ち合わせがちょどいいと思うの」

「迎えに行っちゃだめですか?」


 上目遣いやめてくれるかな。

 わたしより上背があるのにどうして効果的なんだ。


「わたしの家、知らないでしょ」

「教えてください」

「いやだよ」


 なんで?って顔してる。

 こっちがなんで?


「...じゃあ待ち合わせでいいです」


 愚民のおもわぬ抵抗に少し拗ねておられる。

 しゅんとしている。


「食べたいもの、あるの?」


 ぱっと顔が輝く。


「ぼくも一緒に作ります」

「それお礼になる?」

「最高のごほうびです」


 部屋の片付けがんばるぞー、とクラウドが去っていく。




 あれ?断るつもりが、気づいたらクラウドの家で料理をする話がまとまっている。なんという交渉術。これもSランクのなせる技か。恐るべし。




「あんたがチョロいだけでしょ」


 フィーさんは容赦がない。


「まぁそうなんだけどね」

「いいんじゃない?」

「なにが」

「クラウド・ハリス」

「クラウドのこと知ってるの?」

「逆に知らない人なんているの?」

「...へへ」

「...察した」


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