ドレイク男爵令嬢①
ラスティ視点です。
今回は短めです。
中をゆっくり見ていたから、かなり時間が過ぎていて僕は大慌てでテントの方に急いだ。
王太子様がいるんで城にいる時と同じ感覚に陥っていた。
反省反省。
そろそろ昼食の準備を始める頃だ。
到着すると何だか騒がしい。
何だ?あの人だかりは?
複数人が集まって誰かを可愛いだとか何だかとか褒めている声がする。
遠巻きに他の生徒が呆れたような顔で自分の作業をしている。
「どうかしたのか?」
人だかりの脇に立っているセレスに声をかける。
騎士学科の数少ない女生徒だ。
女性で騎士を目指す者は少ない。僕の学年では10人で全員が同じクラス且つ僕のクラスメイトだ。
あとのクラスは男だけ!
「ドレイク男爵令嬢が……」
かなりの困惑気味だ。
何で今、その名前がでるかな!
学園や町中ならまだ分かる。
何でわざわざこの森に来るかな。
僕は顬を押さえた。
それにしても、騎士学科にも彼女に取り巻きがいたんだな。
普段、気にもとめていなかったから知らなかった。
僕は冷ややかに一団をみつめた。
こちら側からは表情はよく見えないが声が弾んでいる。
隙間からチラチラとピンクブロンドの髪が見えた。
面倒臭いから無視だな!
と、思ったのに
「まあ、ラス様!」
僕の存在に気がついたマリアが甲高い声で話しかけてきた。
「僕をそう呼ぶのはやめるように言ったはずだが」
「うふふふ。ラス様、皆様の目があるから照れていらっしゃるのね」
彼女は馬鹿なのか?
ウンザリとして話したくないが、受け入れたと思われては困る。
「エレノアならば兎も角、何故君に照れなくてはいけない?」
腕を組み眉を顰め、冷ややかに見下ろす。
「だって私は皆に愛されるヒロインですもの」
ふふんと聞こえそうな笑みで相変わらず訳の分からない理屈を胸を張ってる言い募る。
「で、何故ここにいる?」
僕は深い溜息をついて眉間を押さえた。
「男爵家の避暑地がこの近くで…。夏休みなのでこちらで過ごしていたのですが、ラス様が森に来られていると聞いて」
マリアは瞳を潤ませて言って俯く。
だからって供の1人も連れず森の奥に入るのは危険なはずだが……。
そこまで安全な森で護衛をたくさん連れている僕達は近隣住民から、さぞかし奇異な目で見られていることになる。
それとも彼女はかなりの魔法の使い手なのだろうか?
それにしてもまた、愛称で呼んだな。本当に学習能力が無い。
「森に遺跡があると聞いて是非私もと」
もう、本当に面倒臭い。
「関係者でもない者が入れるはずがないだろう?」
「ラス様が口添えくだされば可能ではありませんか」
何をおっしゃているのですか?と言わんばかりに不思議そうに首を傾げた。
「何故僕がそんなことしなくてはいけない?」
僕は必死に苛立つ気持ちを抑えた。
「だって私はヒロインですもの。殿方は私の事が愛しくてたまらないはずですわ。私のお願いを何でも叶えたいはずですわ。ラス様もそうでございましょう?」
本当にこの根拠の無い自信はどこから湧いてくるんだ?
周りもかなり引いている。
「僕が愛しているのはエレノアだ。君など眼中に無い。さっさと帰れ」
こんなのと話していたら頭がおかしくなりそうだ。
「ずいぶんイラついてるね」
その声に僕はホッとした気持ちになる。
ウィルは顔をあまり見られないようにフードを目深にかぶっている。
「まあ、ウィル様!」
マリアの歓喜に満ちた声に訝しんだ顔でウィルを見た。
顔がほとんど見えていないのだから声だけでウィルと分かったことになる。
それ程親しい関係なのだろうか。
ウィルはしばらく無言でマリアを見ている感じだ。
「会ったことも名乗った覚えもないはずだけど何か馴れ馴れしい子だね。ラスティの友達?」
僕がウィルの事を話すぐらい親しいと判断されたのだろうか?
もう、15歳を超えているから子供の頃の制約は無効になってはいるけど外の人間に話そうなんて思ったことも無い。
誤解しないでよ。
僕はウィルに伝わるように心に強く念じた。
「ウィル様は隠しキャラなのですわ!攻略対象全員を攻略してから遺跡イベントを発生させて漸くルートに入れるのですわ。ゲームと展開が違って心配だったのですけど攻略が上手くいっているということね?やはりラス様は私を愛してくださっているのですね」
感激!とばかりに胸の前で手を組んで潤んだ瞳で僕とウィルを見上げてくる。
訳が分からんぞコイツ!
「何か君、すっごい煩わしいね」
そう言ってウィルが指を鳴らすとマリアの姿が忽然と消えた。
周りが、ざわめき始める。取り巻きの数人がウィルに詰め寄ろうとする。
「面倒だから森の外に転移させたよ」
転移魔法はこの国で一握りの魔術師と魔道士にしか使えない。
高価な魔法アイテムを持っているならば別であるが、これを作れる人間も限られるからその値段はかなりのものだ。
マリアがいなくなったことで冷静な判断が戻ってきたのだろうか、逆らってはいけない相手だと悟ったらしく、取り巻き達は皆大人しく引き下がった。
「見たいものは見たし、先に帰るよ」
ウィルも忽然と姿を消した。
北の塔に転移したのだろう。
転移魔法ってどれくらいの距離まで可能なんだろう?
世界中どこでもなら一緒に行けたりしないかなー。
僕は夏休み前のことを思い出した。
「さっ、昼食の準備始めよう」
僕の言葉に周りがノロノロと動き始める。
どーでもいいが、先生はどうした!
周りを見てみれば居たよ。
人だかりが無くなっていくうちに見えたよ。
あんた、何してんだ?生徒を諌めろよ。
身分は上とか下とか言ってたら成り立たないぞ。
いや、そもそも取り巻きの身分はそんなに高くないし。
マリアも男爵令嬢で身分は高くない。
騎士学科の教師がそんな事なかれ主義でどーする!
僕は深く深く息を吐いた。
ま、我儘を言って遺跡見学をした僕が胸をはって言えるセリフでは無いけど、軍の規律の厳しさとかも教える良い機会じゃないのか?
とりあえず、疲れたぁー。




