特訓と嫉妬
ラスティの視点です。
ウィルのお願いを聞いて、凄い剣を作ってもらった。
大きさも形も変えられるし、たとえ刃こぼれしても元に戻るんだって!
魔法を込めると色が変わる。
それが、とても綺麗。
父上や兄上、王太子殿下、陛下まで羨ましそうに見てるので何だか特別になった気分!
なんだけど、まだ、僕だけの力では剣の形を変えることはできない。
でも、魔法は詠唱すれば込められるようになった。
とりあえずイメージトレーニングとこの剣に慣れることが今の目標!
せっかく色んな形になるんだから色んな武器が使えるようになりたいなー。
一応、王族ということで扱い方は前から少しずつ教えてもらってはいるんだ。
と言っても扱えるのは短剣だけ。
でも、今度は剣の扱い方も教えてもらえることになったんだ。
本当は、まだちょっと早いんだけどウィルに貰った剣は重さを殆ど感じないから、まだ小さい僕でも扱いやすいから大丈夫だろうって。
もう少し背が伸びて筋力がついたら普通の剣で鍛錬するとして、剣の型や技を今から覚えておいて損は無いって父上が言ってくれたから。
早く使いこなせるようになりたいな!
僕は体を動かすのが好きだから父上みたいな騎士になりたいと思っている。
できれば父上から教わりたいんだけど、忙しいから無理そう。
先生として来てくれたのがロムニという30代の男の人。
赤毛で茶色の瞳。
背が父上より大きくて、聞いたら2mあるんだって!
でも、5歳の僕に教えるには大き過ぎない?
まずはお手本を見せてもらって真似をするんだけど、普通より離れないと全体が見えないんだよね。話を聞く時見上げないといけないから首も痛い。
「あ、いや、そこは、こうです」
ロムニ先生が少し離れて動作する。
「こうですか?」
「あ、いや、こう」
また、さっきと同じ動きをする。
でも、何か微妙にさっきと違う気がするんだけど。
先生が大雑把なのか、僕が細すぎるのか。
それとも先生の思っているように先生自身が動けていないのに気がついていないのか……。
だとしたら
正解が分かんないよ!
それとも教えるのが苦手なのかな?
言われた通りにもう一度やってみるが渋い顔をしている。
短剣を教えてくれた先生の時はこんなこと無かったんだけど。
段々面白く無くなっていく気がする。
でも、せっかく良いもの貰ったのに投げ出すのもなんかね。
「あの、そろそろ時間だし、先生はお先にどうぞ。僕はもう少し今日のおさらいをしていきますので」
「そうですか?」
口調も表情も申し訳なさそうなのに、どこかホッとした顔に見えた。
気の所為?
何だか気落ちして先生を見送る。
『クスクス』
不意にウィルのわらいごえがした。
周りを見渡してみるけど、誰もいない。
空耳かと思ったら僕の体が動いて剣の型をとる。
僕、何もしてないのに!
何だか怖くなって泣きそうになっていると目の前にウィルが現れた。
「驚いた?」
クスクスと笑っている。
さっきのは空耳じゃなかったみたい
「僕を動かせたのもウィル?」
「そうだよ、こんな風に!」
また、僕の体が勝手に動いた。
「見て覚えるのもいいけど感覚で覚えるのもありだと思うよ」
また、僕の体が勝手に動く。
「さっき、習ってた型だよ。真似てみて」
僕は言われたとうり体に残る感覚を頼りに動いてみた。
「そうそう、上手いね」
拍手付きの褒め言葉に頬が緩む。
うん、僕は褒められて伸びるタイプだね。
それからすっかり暗くなって侍女が呼びに来るまで頑張った。
ウィルは現れたのと同じようにいつの間にか姿を消していた。
ウィルと食事が一緒にできると良いのにな。
体が繋がっているせいか、側にいるととっても安心するんだよね。
だから、食事だけじゃなくて勉強も遊びも、ずっと一緒にいたいんだよ。
変かな?
それからしばらくはロムニ先生に教えてもらっていたけど、やっぱり身につきにくいので元の部署に戻ってもらった。
ウィルにお願いしたら北の塔の辺りで教えてくれるって!
あそこは人が滅多に来ないから人目を気にしなくていいし、いっぱい遊んで……あ、教えてもらおう♪
本当は剣の型までは最初の約束には入ってなかったんだけど、我儘言っちゃった。
父上達もウィルが良いなら良いって!
まあ、教える代わりに他の勉強も手を抜かずにやることがウィルの条件だったけど
繋がっていると色々バレちゃうみたい
それから勉強も剣技も頑張った。
毎日疲れてぐっすり眠れる。
6歳になったある日、僕は衝撃を受けた。
訓練場で父上に出来た所まで見てもらった帰り、ロムニ先生と他の騎士との会話が聞こえたんだ。
「ラスティ様は随分上達していたな」
物陰にいるから僕から見えないけど、この声はロムニ先生じゃない。
「本当だな。誰に教わっているんだ? 団長か?」
これはロムニ先生の声。因みに団長は父上だ。
褒め言葉にホッコリしていると
「お前じゃなかったけ?」
「そんなのそうそうにクビになったよ。まあ、なるように仕向けたんだけど」
……え?
「何で?王族を一人前にするって栄誉だと思うけど」
「王太子殿下とか王子殿下に教えるならそうだろうけど、団長の息子だろ?出世できるわけでもないだろうし要求されるレベルも高そうだしさ」
「声が大きいぞ」
「大丈夫さ。ここは誰か来たらすぐに分かるし」
大人の身長ならね…。
「それに、あんな凄い剣を使わせるってさ。確かに俺らより身分が高いかもしれないが、あまりにも恵まれすぎているだろう? 何かそんなやつに俺の時間を使うのが嫌だったんだ。その時間、自分が強くなる為に使いたい」
「分からなくもないけど、こんなとこでサボってる奴が偉そうに言う台詞じゃないぜ」
「サボりじゃなくて休憩だよ」
「そう言えば、今日は珍しくルーク王子がいたな」
ルーク王子は王太子様の長男で22歳だ。
王位継承権は2位だから身を守る為にも剣の腕を磨いておく方が良いんだけど、兄上と同じで得意では無いらしい。
その代わり魔法は得意なんだって王太子様が言ってた。
因みにルーク王子はウィルのことを知らない。
伝承自体は知っているけど、ウィルが生まれて塔に置き去りにされた事も保護? したことも知らないと父上から聞いた。
本来は王様と成人した王太子と子供の父親のみが知らされる情報なんだって。
普通に考えれば非道な行ないだから限られた人間しか関わらないようにしてるんだとか。
確かに父上みたいに、ずっと心を痛めて生きるのは辛いことなんだと思う。
「ラスティ様の剣を見に来たんじゃないか? 確か魔道具に興味があるって聞いたし。魔法を込められる剣ってことは魔道具ってことだろ?」
「あー、なるほどな。だったら、あの剣を使えばルーク王子もやる気を出されるかもな。そのうちラスティ様からルーク王子に所有者が変わるかもな」
それだけは無い。
だって、ウィルが僕だけの為に造ってくれた剣だもん。
「何でラスティ様なんかに与えたんだろうな」
「さあな。まあ、王族様達の考えることを俺達がとやかく言えないんだしさ。別に良いじゃないか。じゃ、そろそろ戻ろう」
「ああ、そうだな」
二人の足音が遠ざかってもしばらく僕は動けなかった。
そんなやつに俺の時間を使うのが嫌だったんだ。
ラスティ様なんかに与えたんだろうな。
ロムニの言葉が心の奥深くに突き刺さった。
僕、あんなふうに思われていたいたんだ。
他にもあんなふうに思っている人がいるのかもしれない。
こみあげてくる涙を我慢して我慢して、ぐっと我慢して、何とか北の塔まで行ったら大きなウィルがいた。
微笑んで僕に近づくと優しく抱きしめてくれた。
僕はその胸に顔を埋めた。
何だか安心する。
不意に微かな浮遊感を感じた。
それが収まってから周りを見ると塔の屋上に来ていた。
転移魔法って言うらしい。
「ここなら誰にも見られないから安心して」
優しい声。
ウィルは何も聞かないけど、多分さっきの事を知っているんだ。
今までもそうじゃないと辻褄が合わないことが色々あったから……。
普通なら全部知られてるって怖くて気味が悪いことなんだけど、ウィルなら不思議とそんなことは無いし態々理由を言わなくても察してくれて受け入れてくれるから遠慮なく甘えられる。
確かに僕は恵まれすぎているんだ。
王族は人前で泣かないように教えられているけどウィルに優しく撫でられ僕は素直に涙を流した。
感情が昂って嗚咽が止まらない。
どれだけ泣き続けたのか分からなかったけど、既に日が傾いていた。
目が腫れて声も掠れちゃったけど、ウィルが魔法で治してくれた。
これなら泣いたことはバレないだろう。
バレたら説明が面倒くさいし、母上に知られたら泣かれてしまうかもしれないし、父上に知られたらロムニ……が怒られて逆恨みされても厄介だし。
まあ、言うつもりも無いけど。
だって、ウィルが言ったんだ。
「どんな身分の人でも自分より恵まれている人を妬むのは不思議なことじゃない。でも、恵まれているからこそ出来ることがあるんだ。王様なんて典型的だろ?」
確かにね。
それに僕もちょっぴり分かるし。
ウィルは何でも僕のことが分かるけど僕はウィルのことが全く分からない。
不公平とか嫉妬まではいかないけど、ちょっぴり羨ましい? っていうのかな?僕もウィルの見てるものが見てみたいって思うんだ。
ううん。その力が無い自分が残念だって思うのが正解かな?
とにかく僕は心も体も強くなって出来ることを増やしていかなくちゃ!
でも、僕は失念してたんだ。
勉強の時間をサボっちゃったことを!
泣いたことはバレなかったけど先生にも父上にも母上にも怒られて涙目になった。




