ウィル
ラルセル目線です。
次にウィルが目を覚ました時、部屋にいたのは俺だけだった。
幸い、まだ夏休み中だ。
まあ残すところ、あと7日なんだけど。
陛下とセドリック兄さんは王族としての仕事が色々あるし、父上は騎士なので警備とか訓練とかで不在だ。
ラスティは家庭教師に学んでいる時間だ。
俺も本来なら勉強中の時間である。
夏休み中は王城で外交方面の勉強を教えてもらっている。
再来月に我が国に来る来賓の接待はどんなものが良いのかという宿題を出されているので、そのレポート製作期間として授業は休みだ。
まあ、別に採用される訳では無いが半端な物を出すわけにはいかない。
ここでやってるのは静かで集中しやすいのと目覚めるのを待つのに都合が良かったからだ。
明後日が提出期限なのでほぼ出来上がっているから最終確認程度だけどね。
「気分はどうだ?」
言葉使いに迷ったがいつも通りに話すことにした。
「……最悪」
目を固く閉じ、その目を自らの掌で覆う。
初めて聞くその声は子供らしく可愛い。
「今、考える気力が無いから、僕がここにいる理由を聞いても?」
古の魔道士と聞いているが気さくな感じの話し方だ。
「……実は……」
俺は経緯を話した。
「で、寝ているウィルがあまりにも小さくて弱々しい姿を見て、いてもたってもいられなかったみたいで……」
「なるほどね。まあ、あそこでずっと寝ているよりはましだろうね」
「何であそこで寝てたんだ? 月か星でも眺めていたのか?」
まあ、あれだけ苦悶の表情してたのだから、うたた寝ってことはないんだろうけど。
「……今回の体は一日中魔力酔いが酷いんだ。いつもは強い睡眠魔法を自分にかけて誤魔化していたんだけど、そろそろ色々限界で、動くのも辛くて、ずっとあそこで寝てた」
「ずっとっていつから?」
「5年前?」
「はあ?」
父上が塔に連れっててからずっと?
屋上で? 雨や風や寒さ暑さも耐えて?
飲まず食わずで?
「………えっと、何か飲むか食べるか?」
「多分、吐きそうになるから無理だし、別に飲まず食わずでも問題無い」
青い顔を更に青くして体を丸めた。
「魔力酔いが治まらないと何も出来なくて困るんだよね」
ウィルは楽な姿勢を探して寝返りを繰り返している。
「双子で生まれたからとか?」
「うーん。そう言えば初めての双子パターンだったかな?」
「選ぶ基準ってあるのか?」
「その時のタイミング……かな?でも、子供を1人貰う訳だから、その次の子供を身ごもりやすく、かつ安産になる魔法はかけるようにはしてるよ。僕が生まれる時も安産になるようにしているし」
そう言えば一番下の双子がラスティと1歳違いだったな。で、俺とラスティは10歳差。
ラスティの時も双子の時も物凄く安産で、2人産むのに1時間もかからなかったから、皆が吃驚していたのを思い出した。
まあ、その当時の俺は母上の例しか知らなかったから、何でそんなに吃驚するのかわからなかったけど。
俺は納得して頷いた。
「ここまで酷いと、もう一度生まれ変わるか、常に魔力を放出し続けるしかなさそうだけど、色々と歪みが生じそうだしな」
えっと、歪みってウィル自身?
それとも国レベル?
それとも空間的?
それとも世界?
何か怖くて聞けない……。
隠し扉の動く音がする。
魔法で送った俺の報せを見て誰か駆けつけてきたのだろう。
ラスティを抱っこしたセドリック兄さんが入ってきた。
陛下と父上はまだ手が離せないらしい。
ラスティはウィルを見るなり、ニッコリ微笑んでその傍らに座った。
「まだ眠いの?それとも気分悪いの?」
ラスティはウィルの顔を覗き込み心配そうに小首を傾げる。
ウィルは返事をせず、数分してから目を開けた。
体を起こし、じっとラスティを見つめていた。
「ど、どうかしたの?」
ラスティは落ち着きなく瞬きを繰り返しながら聞いた。
「……ラスティが側にいると楽になるみたいだな」
「ほえ?」
何のことか分からず面食らったように声をあげた。
「……ねえ、お願いがあるんだけど」
その眼差しは、さっきまで魔力酔いに苦しんでいたせいで目が潤んでいて、庇護欲をそそる。
その上、金色の瞳のせいか艶かしくも見える。
「な、なに?」
「繋げていい?」
ラスティは意味が分からず返事に困って俺の方を見た。
「繋げるってどういうこと?」
ラスティの代わりに聞き返した。
「僕の体だけで循環している魔力を魔法で繋げてラスティの体にも循環させるの」
ウィルが空中に描くように指を動かせると光の線で絵が現れた。
手には紋章があり、そこから転移して2人の体を魔力が循環している。
「本来、1人のはずが2人で生まれたのが原因なら僕の魔力酔いは改善されるはず」
「それってラスティの方に問題が出ないのか?」
「ちょっと両手貸して」
ウィルはラスティの手を握り目を閉じる。
「気分が悪くなったら言ってね」
「う、うん」
見ている限りは、ただ手を繋いでいるだけだ。
「魔力流して見たんだけど、どう?」
「何だか元気になる感じ?」
「なら、大丈夫そうだね。お願い聞いてくれたら僕が魔法を教えてあげる」
古の魔導士、直々の教えって!
それ、俺も習いたい!
セドリック兄さんを見ると何か言いたそうな顔になっている。
「でも、僕、魔法より剣士になりたいんだ」
どれだけレアケースか分かっていないラスティはピンとこない感じで首を傾げる。
「だったら魔法を帯びさせることのできる剣なんてどう? サイズもラスティの自由自在だよ!魔法剣士って格好良いと思うよ。込めるのはシンプルな魔法でも大丈夫だしさ」
その言葉にラスティの瞳がキラキラ光輝く。
何それ?凄い興味あるんだけど。
セドリック兄さんもお預けされた子供みたいな顔になってるし、いつの間にか来てる陛下と父上まで興味津々な顔してるし。
来たなら声かけるなり肩をたたくなりして存在をアピールしてくださいよ。
『何の話だ?』
父上が目で語るので、2人の側に行って経緯を小声で話す。
「何か羨ましい」
陛下の言葉に父上が頷く。
「でも、権利はラスティだけですからね」
自分にも言い聞かせる様に釘を差す。
「いいの?」
自分一人では決められないのかラスティは俺達の顔を順番に見つめた。
「ラスティの具合が悪くないなら好きにしなさい。ただし、不具合があるならすぐに言うこと。その時は解除してくれるんだろ?」
最後の言葉はウィルに言葉を投げかける。
「もちろん。そうなっても剣を返さなくていいよ。あ、ただ、ちょびっと血をもらうね。使えるのはラスティだけの特別な剣を作るから」
使えるのがラスティだけなら、もしもがあっても安心だ。まあ、正直、自分で試せないのは残念だけど。
保護者である父上の了承を得たのだから、あとはラスティ次第だ。
「使い方も教えてくれる?」
「もちろん」
「じゃあ、いいよ」
「じゃ、ベッドから降りてこっちに立って。皆はできるだけ離れて」
俺達は男3人で隅に固まる。
2人は立ったまま向かい合って手を繋ぎウィルが詠唱する。
何の言葉か分からないから、古代の言語か何か何だろう。
足元に光る魔方陣が現れて勢いよく回転する。
それが段々小さくなって2人の体に吸い込まれれると両手首に一瞬現れて消えた。
「これで終わり。気分はどう?」
「平気だよ」
ラスティはにっこり笑った。
「ふむ、じゃ、こうしたらどう?」
ウィルが仄かに輝き伸びて、10代後半ぐらいの姿に変わる。
「だ、大丈夫みたい」
ラスティは驚きながらもそう答えた。
「じゃ、ちょこっと血を貰うね」
少し屈んでラスティの眉間辺りに指を当てると赤い水滴が現れて生きてるかのようにウィルの指を伝い掌に収まる。
「ラスティも皆の所まで下がって」
こちらに来たラスティを父上が抱き上げる。
ウィルが両手を掲げると右手からはラスティの血が浮かび上がり、左手から何か素材のような物が現れて中央で交わり光輝く。
何の器具も使わない武器生成なんて初めて見た!
次第に剣のような形に変わっていく。
光が収まると子供サイズの剣がそこにあった。
鞘にはラスティの瞳の色と同じ碧の石が嵌め込まれただけのシンプルなデザインだ。
「今度は気分どう?」
「大丈夫!」
ラスティが興奮して足をばたつかせて父上の腹を蹴る。父上の顔に苦笑が浮かぶ。
ウィルが大きな魔法を使っても、ラスティ自身は問題無さそうだ。
ウィルがラスティを手招きすると喜んで父上の腕から飛び降りて駆け寄った。
「あとで好きにカスタマイズできるからね」
受け取ると慎重に鞘を抜く。
細身の薄い片刃の剣だ。
「剣の大きさや形も好きにできるからね」
ウィルがラスティの傍らにしゃがんで、その手に添えるように握りしめると両刃の剣になり、大剣になり、斧になり、最初の形に戻った。
「魔法を込めたい時は使える魔法を剣に注ぐようにイメージする」
刃の色が赤になり、茶味を帯びた黄色になり、青になる。
ラスティは炎と土と水の魔力と相性がいい。
「イメージすることが大事だから、まずはイメージトレーニングからだね」
ウィルは剣を鞘に収めてラスティに渡した。
「うん!」
嬉しそうに答えてから父上に駆け寄ると意図せず見せびらかしていた。
「さて、僕の姿はどうしよう」
ウィルはラスティを見下ろし、ラスティはウィルを見上げた。
「同じぐらいでいいか」
また仄かに光ってラスティと同じぐらいの大きさになった。
「次に生まれ変わる目処がたつまでよろしくね」
ウィルはニッコリと笑った。
うん、中身が古の魔道士様でも、子どもの姿だと笑顔も可愛いな。
さっきから父上が抱き上げて撫で回したい衝動に駆られているらしく手が、うずうずと動いている。
寝ている時は散々撫で回していたけど、起きている時に撫でさせてもらえるといいですね、父上




