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苺とブドウ  作者: 黒雪
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4 スイーツ大王




「よし、まずはこうして……こうなると……そうなって…………んん??」


薄暗い森に響く、低音の美声。

真っ白な大蛇の口から漏れている等とは、誰も、夢にも、思うまい。


「そうか、こうだな。……んんん???」


耳馴染みの良い呟き声が、先程から一喜一憂と程遠い一本調子で流れている。

王様は、只今これでも奮闘中であった。


黒焦げの物体を極力触らず持ち帰る、という壮大な野望の為に王様の挑戦は続く。

尻尾の先で転がして移動させようとしたが、名案と思えたその方法は、密に絡む木の根に阻まれあっさり断念した。

仕方なく尻尾で何処かを引っ掛けて持ち上げようとしてみたが、全身まんべんなく焦げた物体に引っ掛かりそうな場所は見つからなかった。

引っ掛けるだけでは駄目だと解り、今度は軽く尻尾を巻きつけてみる事に。


「お。……っお?」


上手く行くかと思われたが、意外にもズルズルと滑り落ちそうで安定しない。

更に、少しだけ尻尾を巻きつけて……

あともう少し、あとほんの少し……


「ぅぅ、っぐぇ……」


王様が努力した結果、物体から微かな声が漏れた。

同時に、若干メキメキ聞こえたような気もする。


「……っむ。締め過ぎたか」


真剣にバランスを取ろうとするあまり、王様は物体に巻き付けた尻尾で丸焦げのお土産を強烈に締め上げていた。




「私とした事が。最初からこうしておれば良かったのだ」


結局、物体ごと宮殿へ転移した王様が、はっはっはと笑う。


「王のお帰りだ!」

「また何か変なモノを持って来たぞ!!」


唐突に帰還した主と黒焦げを前に宮殿内は騒然となった。


「まったく。いつも騒々しいな、お前達は」


誰のせいでちょっとした騒ぎになっているのか。

少しも気にする事の無い王様であった。






「王、例の丸焦げの事ですが、漸く治療を終えましたぞ。驚異的な回復力の持ち主ですので、恐らく一両日中には、意識も戻るかと」


宰相のミゲレンは、執務室に入る事無くドアの前で報告した。

ぴったん、ぴったん、と、何かが床を打つ音が聞こえると、ミゲレンは、「ではこれで」と執務室の前から去ってしまった。


執務室の中では、数人の従者に見張られながら、大蛇のままの王様が大きな机の前にだらりと寝そべって頭だけを机の上に乗せていた。

王様の目の前では机の上の山積みの書類と羽根ペンが忙しなく宙を舞っていた。

次々とサインを施した書類が机の傍らに控える従者の持つトレイに移動し、綺麗に積み上がっていく。

終始無言の王様に何か時折従者が耳打ちすると、言葉も無くぴたぴたと尻尾で床を打って応えている。

お仕事の時の王様が不機嫌のあまりに何も喋らなくなる事は、今や国内の僻地に暮らす子供ですら知らぬ者は居ないと言う程、周知の事実であった。


漸く仕事が片付き、従者が部屋から退室していく。

部屋にはだらりと転がる巨大な白蛇が残された。


「ううむ。最近、皆、私を恐れなくなってきおった。……許せん」


溜まりに溜まった政務を全部魔力でやり遂げた結果、猛烈な脱力感に襲われて、王様は床に寝そべったまま舌打ちをした。

威厳もへったくれもない姿であった。


「王。いつまでそんな事をしているおつもりか。とっとと身なりを整えて晩餐に出席下さい。今日は領主会議を兼ねた大事な会。欠席は許されませぬぞ」


サイン済みの書類の束を従者から受け取ったミゲレンが、執務室を覗く事も無く、ドアの前で声を張った。

未だに王様が床にべろーんと伸びて不貞腐れている事を熟知しているのだった。


「お前が出れば済む事であろう。私はもうやす……」

「なりませぬ」


ミゲレンがぴしりと遮り、ノックせずに執務室のドアを開けた。

数人の側仕えを従えたミゲレンが、口早に何かを指示する。

ささっと動いた側仕えにぐるりと周囲を囲まれた王様は、真っ赤な眼だけでミゲレンを見据えた。

ミゲレンもまた、厳しい表情のまま王様の視線を真っ直ぐに返した。

ピリピリした空気の中、暫し静寂が訪れた。


「今日のデザートは、いちじくのコンポート、白玉のクルミソースがけ、桃とマンゴーのミルフィーユ仕立て、リンゴの蕩けるタルト……でございますぞ」


沈黙を最初に破ったのはミゲレンだった。

厳かに言い放ち、ぐっと王様の眼を睨む。

これ以上無いどや顔であった。


再び沈黙が訪れ、王様とミゲレンの睨み合いが続く。

それを今度は王様が破った。


「……やるなミゲレン。支度せよ。私に触れる事を許す」


王様の言葉にミゲレンは「よし!」と拳を握り、周囲の側仕えはひとしきりパチパチ拍手してから一斉に王様の身支度を始めた。






ミゲレンの「宮仕えの心得」には、王様を上手く乗せるには、「果物をふんだんに使用したあまあま絶品スイーツ」さえあれば良い。

……と、記されているとかいないとか。


宮殿に仕える者達から陰で「スイーツ大王」などと親しみ(?)をこめて呼ばれている事を、王様は知らないのだった。




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