3 森と王様と非常事態
その時王様は、珍しく困っていた。
満足するとまではいかないにしてもそれなりにあけびを堪能し、ほくほくしながら帰路につこうかと思った矢先、それは突然目の前に現れた。
……と言うのは嘘で、本当はずっとそこにあったのだが気付かないフリをしていた、というのが実は正しい。
異様な臭気を放つソレが、王様の行く手に転がっていたのだ。
あけびの群生地の傍ら、滾々と湧き出る清水を湛えた小さな泉の一歩手前、といった所で、プスプスと煙を上げて横たわるソレは、どう見ても焦げていた。
「なんと面妖な。焦げた人間が転がっている」
未だ大蛇の姿のまま、遠くからまじまじと観察する。
黒焦げの物体は、臭いから察するに人間のようであった。
が、こんがりと良く焦げているようなので、それ以上詳しくは解らない。
何にせよ、人間という異種族がこの場に存在する事は非常事態である。
レプティリアという国は、深い大森林の奥に存在し、且つ国土全体を結界で閉じてしまっている。
結界はとても強力で、人間如きが簡単に出入り出来るようなものではない。
……ので、恐らく障壁に焼かれて焦げたのだろうが、普通なら結界に弾かれて国内へは一歩たりとも入り込む事は不可能な筈で、仮に結界を抜けたとしても、障壁に焼かれて灰すら残らない筈である。
「ふむ。ここまで焦げて、まだ息をしているとはな」
この強力な結界を越えられる者は、そう多くはない。
では、この人間は一体何なのだ?
というか、ここまで焦げて、何故生きていられる?
王様は、そこまで考えて、だんだん面倒臭くなってきた。
楽しい散歩を満喫したし、美味しいあけびも堪能できた。
そろそろ帰らないと、本気で大臣どもに説教をされる事になってしまう。
それはマズイ。
鬱陶しい。
懐柔作戦として、宮殿の者達にあけびをお土産に持ち帰るか?と考えていたが、出来れば自分ひとりで独占したいしどうしたものかと悩んでいた所に、こんな珍妙な黒焦げ物体があるではないか。
「よし。今日の土産はこれだ」
言いながら、焦げた人間にスルスルと近寄る。
「これほど珍しい土産もなかろう。皆、驚く事間違いなしだな」
驚くには驚くだろうが、それは決して「まあ素敵」とかいうサプライズではない。
できれば遠慮したい驚きになるだろう。
しかし王様はそういった事には無頓着であらせられるので御無体し放題である。
これでおやつ時が惨劇に変わる事は確約された。
「しかし……どうやって持ち帰ったものか……」
一応、危険はないかどうか尻尾でチョイチョイ突付いて確かめてみる。
何やら呻き声が聞こえた気もするが、特に害は無さそうだ。
丸焦げ物体を前に、王様はテイクアウトの方法について若干悩んだ。
できれば触りたくないな……
一人でここまで来ちゃったのは、王様。
丸焦げを持ち帰る事を決めたのは、王様。
持ち帰るのも、当然王様。
「まったく。なんと使えない従者か」
王様は、何処までも我が儘で理不尽だった。




