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苺とブドウ  作者: 黒雪
28/31

28 収拾




結界の外では、妖魔の兄妹が王様達を忘れるほど苛烈な喧嘩をしている。

馬鹿は放置だとばかりに、さっさと王宮へ戻るべく4人揃って転移した。




「ぎゃーっっっ!?」


王宮の中庭に突如瓦礫の山が湧いた事で、転移直後、廊下を行く使用人達の悲鳴がそこかしこから沸き起こった。


「ちょ、もう少し範囲加減しろよヨルム」

「やかましい」


まさか結界ごと転移すると思っていなかった大男が、呆れ顔で王様を見下ろした。

未だしゃがんでセレネを大事そうに抱きかかえる王様は、大層不機嫌だった。


「…王様、ありがとう」


王様の腕の中、セレネだけが王様の真意に気付いて、礼を言った。

多分、家をそのまま放っておけなかったのだろう、と思ったのだ。

セレネの声に多少機嫌を良くした王様が、大層柔らかな笑みを浮かべてセレネを見下ろした。


「なんと!ヴァハ王がお戻りになられた!!」

「王妃様もご一緒だ!!」


廊下に集まった人々がわいわいと騒ぎ始めた。

あっと言う間に中庭にも人が集まり出す。


「王、ヴァハ王。ようお戻りになられました……!」


お偉方のご老体が、涙にむせんで駆け寄ってきた。


「お、爺、相変わらず死にそうにも無いな、お前は」


ヴァハと呼ばれた大男が、嬉しそうに声を上げる。

そのぶっとい腕に拘束されて、青尽くしの美女が未だ引き攣った顔でばたばたしていた。


「お、王妃様…………」


そんな美女を見て、ご老体が口篭る。

ここ暫くの非常事態を巻き起こした張本人を目の前にして、素直に『お帰りなさいませ』と言えないのだろう。

そんなご老体の様子に何かを察したヴァハが、ちら、と美女に視線を流した。


「ああああたくしーっ、あのっ、ちょっと疲れてしまいましたの、もう休みたいでっすわぁぁぁぁっ!?」

「お前、本当に何かやったんだな。自分で言うか?それとも聞き出されたいか?」


ヴァハの腕からそっと抜け出そうとして失敗し、がばっと抱き寄せられた美女が泡を食って悲鳴を上げた。

酷く意地の悪そうな陰惨な笑みを浮かべたヴァハが、美女を抱えるようにして王宮内へ消えて行く。


「お、王……なんと凛々しいお姿……っ」


集まってきた人々が口々に、『ヴァハ王が主導権握ってる、すげー!』と、どよめく中、宰相達はその雄姿に感動しまくり感涙に咽んだ。

30年という逃避行が彼等にもたらしたものが果たして何であったのか、それは彼等にしか解らない事だ。


「あれだけ尻に敷かれっぱなしだった坊ちゃんが、成長なさったのですなぁ」


未だ感涙にむせぶご老体連中が、口々に言っては喜ぶのだった。


「…王様、尻に敷かれるって、何?」

「お前は知らなくても良いのだ……」


腕の中、きょとんとしながら尋ねてくるセレネに、返答に詰まった王様が複雑な思いで返した。


何年かかって本当の両想いにこぎつけてるんだ。

しっかりしろ、ヴァハ。


つい、眉間を抑えて唸ってしまう。


「どうなさいました、セレネ様。ご無事ですか?王様も、そんなに汚れて」


使用人達がセレネの周りに集まりだした。

王様の背後には、側仕えが控えている。


「お前達、セレネに湯浴みと着替えを。何処か怪我をしているやもしれぬ。慎重に頼むぞ」


漸く腕の中から解放する気になったらしく、渋々といった様子の王様はセレネを使用人達に引き渡した。


「あらやだっ、セレネ様、胸元が……!」


使用人が、セレネのはだけた胸元に仰天した。

ちらちらと王様とセレネを見て、『んまーっ』と声を上げるも、すぐに『んっ?』と違和感を覚えて口を閉ざす。


「セレネ様、それは一体……?」

「…王様に貰ったの。何かがこれに当たって、それで私、弾き飛ばされたんだわ」


ごそごそと胸元から取り出したのは、いつぞや王様の背中から強引にもぎ取って肌身離さず持ち歩いていた大きなウロコ、セレネの宝物。


「ああ、それでお前、無事だったのだな」


僅かに目を見張り、その輝く半透明なウロコを見つめる。

そんなもん棄てなさい、と以前叱った事もあったが、今となってはセレネの勿体無い魂に感謝せざるをえない。

『そんなもん』のお陰で、こうしてセレネはピンピンしているのだから。


「…王様、ありがとう」


ふと王様を振り返ったセレネが、それはそれは嬉しそうに、笑顔を浮かべた。


一同唖然とその笑顔を食い入るように見つめ。

一瞬後、その日一番のどよめきが起った。




「…王様、どうして不機嫌なの?」

「べ……べつに、不機嫌では無いぞ」


湯浴みを終え、王の間で寛ぐセレネが何とかして目を合わせようと王様の顔の前に回りこんで、その大きな頭を両手で捕まえてつぶらな紅い瞳を覗き込んだ。


びっくりした王様は、鎌首をもたげると、焦った様子で答えた。

まさか、自分だけのものだと思っていたセレネの笑顔を他の者達に見られて超気に入らない、とは言えない王様であった。




それから暫くの後。


「ヴァハ様とシェイシェリエ様が、ぜんっぜん部屋から出てきません……一体何をなさっておいでなのか。早く下々の者に、お顔を見せて頂かないと……」


やきもきと歩き回るミゲレンを、じーっと無言で見つめる王様。


「王、そのようにぼけっとなさらず。何とか仰って下さい!」


「お前な、無粋にも程があろう。30年という溝、そう容易く埋まりはせぬ。いいから、今暫くは放っておいてやれ」


ですが!と反論するミゲレンから目を逸らし、ふ、と疲れた笑みを浮かべる。

まったく、全てを言わせる気なのか、このじじいは。


「…王様、早く王妃様と、お話したいな」


ちょいちょいとセレネに突付かれるも、敢えて静かに首を振って思い留まらせる。


こやつら、本当に何と言うか……!

先代の王と王妃がどうしているかなど、詮索してどうするのだ!


あまりにも鈍感な周囲に、王様はげっそりと溜息をついた。




その後、さっぱりすっきりした面持ちの先代の王ヴァハが、笑顔を振り撒きちらかしながら颯爽と王の間に現れた。


「いや、まったくシェリエは、慌てんぼうさんだからな〜。結界と空間亀裂、それと『神の峰』の連中の事については、俺達に任せて貰おう。というか、いやあ、本当にすまなかったな!わははっ」


悪びれもせず物凄い爽やか笑顔だったので、何かが勢い良くブチギレた王様が、長い尻尾を振るってヴァハに叩き付けた。


「まー、そう怒るなよ♪ああ、お嬢ちゃん、シェリエが今度ゆっくりお話しましょうね、って言ってたよ!仲良くしてやってくれよな!」


が、撓る尻尾を軽々と片手で受け止め、ヴァハがセレネへ目を向けた。

とんでもなく上機嫌で、後光が差しそうなくらいの笑顔だった。

セレネは、何故今度?と不思議でならない。


「…??今から、お話出来ませんか?」

「あー、無理無理、絶対無理。だって気絶し」

「せれねー!せれね!?シェリは長い旅路で疲れているそうだ!今日は休ませてやろう!なっ?なっ!?」

「…へ?あ、う、うん?」


大慌てでヴァハの言葉を遮り、尻尾でヴァハをベシベシぶん殴っている隙に、セレネを何とかして納得させようとした。

あからさまに不審な行動にイマイチ腑に落ちない様子だが、それでもセレネは了承したようで、王様は深々溜息をついた。


「少し、こいつと話がある」


そう言って急いで人の姿になった王様が、ヴァハの首根っこを掴んで王の間から逃げるように飛び出ていった。


「貴様、節操という言葉を知らぬのか!どんだけやれば気が済むんだ!」

「えー、だってよー。俺もう我慢しないって決めたんだ」


と、遠くから聞こえてくる。

一人取り残されたセレネは、相変わらず腑に落ちない様子で、首を傾げていた。


まさか先代の王と王妃が、婚姻後からついこの間、異界でシェリがヴァハを見つけ出すまでの数百年間、清い間柄であったなどと誰が知る由も無く。

ヴァハと言い争っている王様だけが、薄々感づいている事であった。




「まったく、あの迷惑夫婦。とんでもない馬鹿揃いだ」


王様は今日も今日とてぼやいている。

だらりとのびて、頭を窓枠に乗せ、尻尾を大きな机に引っ掛けて、尻尾の先で書類の処理をしている。

その後、シェイシェリエが引き起こした問題を夫婦で揃って解決すべく、現在も奔走中、という事になっているのだが……


確かに、シェリが異界へ飛ぶ際、わざと異界へ蹴り飛ばした『神の峰』の上級妖魔達を『もとの世界に戻してやるから、もう二度とレプティリアに手出しはするな』と言い含めて吹っ飛ばした先の異界から拾い上げてやり、数百年に及ぶ『神の峰』の妖魔との抗争は一旦終結を見た。

妖魔達の内、特に上位の数名においてはこれほどの屈辱をけれども同族に知られるわけにもいかず条件を丸呑みせざるをえなかったが、やはり『神の峰』に残されていた者達は疑いの目で見る者もいた。

しかし、結局有耶無耶のまま、真相は闇に葬られた。


という事で事態は収束し、もう結界を修繕する必要も無くなり。

一応、断裂している空間を修復すれば、迷惑夫婦の責務は果たした事になる。


が、それで大人しく戻ってくるような二人でも無く。

彼等が異界へ吹っ飛ばした『神の峰』の連中を拾い上げに出て行って、もう十数日が経過しようとしている。

どうせそうなるだろうと予測していた王様は、ぼやく程度で済んでいるが、周囲の者達の慌てようがかなり鬱陶しい。


やっと本当の意味で想いが通じ合ったのだから、今は放っといてやろう……

物凄く迷惑ではあるが……


そう。

物凄く迷惑ではあっても、王宮内で部屋に閉じ篭られて、一体どうなっていると質問攻めにあうよりは、遥かにマシなのだった。


「…王様ー、お茶がはいりましたよ〜」


お盆にお茶を乗せたセレネが、てけてけとやってくる。


なによりも。

物凄く迷惑ではあっても、王様もまた、こうしてたいした邪魔も無くセレネと一緒にいられる、非常に貴重で大事な時間を持てるのだ。


ま、もう暫く、戻って来なくてもいいぞ、お前ら。

王様は、こそっと胸のうちで呟いた。




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