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苺とブドウ  作者: 黒雪
24/31

24 恋は一瞬で




大きな猫が、カラスを従えて飛んでいた。


虎ほどもあるようなサビ色の大猫が、優雅に空を駆けている。

そのすぐ後ろを追う様に、茶と赤が混じったようなマーブル模様のカラスが飛んでいる。

カラスといっても、駝鳥くらいあるのでは無いかという、巨大なカラスだった。


「にいちゃーん。なんでこんな所まで来てるのよー」

「あぁん?そりゃお前、何処に犯人が潜んでるかわかんねぇだろー?」

「ふーん。でもさー、もうさー、何日も経ってるのにさー、いまさら犯人が見つかると思うー?アタシさあー、無理だと思うんだよねー」

「ばっかやろう、諦めんな!」

「はいはあーい。でーもさあー、犯人知らなくて、どうやって見つけるのよー?」

「うっせ、黙れこのデブ。喋ってねぇで、おかしなやつがいねぇか探せよな!」


空をびゅんびゅんと飛びつつ、1匹と1羽の奇妙な会話が続く。


「にいちゃーん。アタシさあー、ずっと前、この辺飛んでたらさあー、見えない壁にぶち当たったからさあー」

「ああ?だから何だ」

「もう帰るわ」

「!!?……オイコラ待てや!!!」


大きなカラスが、ぐいーんと急旋回して方向を変えた。

遠くに見えていた海は消え、聳える様な山々が視界に納まる。


「あー、やっぱこの景色の方が落ち着くぅ♪」

「待てゴルァー!!!」


怒鳴り散らす大猫を無視し、大きく羽ばたこうとした時だった。


「なんだろアレ?」


視界の端に、人影を見つけた気がした。

すい、と少し下降してみる。

背後で、大猫が奇声を発しつつ宙を転がるように通過したが、気にしない。


「にいちゃーん。何か居る!」


やはりそれは『人』の姿をしていた。

昔、『見えない壁』にぶつかった辺りだった。


「な、なんだと。何処だ」


さり気無く妹に攻撃をかわされた事が内心ショックの大猫だったが、それを慌てて押し隠して探すフリをする。


「何処見てるの、あっちだってば……」


まるで反対を向いてキョロキョロする兄に、冷めた声で言う妹。

馬鹿にされては大変だ、と慌てて振り返り、妹の視線の先を探した。


木々に紛れて解りづらいものの、妹が言うとおり、それは『人』だった。


白灰の髪が見えた。

宙に伸ばした腕は、褐色。

俯き加減の顔が見える。

男、だろうか。


だがあれは、『人』だろうか?

いや、確かあの辺りは、忌々しいトカゲどもの結界が。

ということは、あれは『人』ではない?


「あらやだー。ちょっと、いい男っぽいー?」


考える事の苦手な兄が必死に難しく考えている横で、妹が能天気な声を上げた。


「なんだと!?けしからん!!」


妹はまだ嫁にはやれんぞ!!という、シスコン全開な心の雄たけびをひた隠し、大猫が意味不明に怒鳴った。

大カラスは、『何がけしからん??』と首を捻る。

しかし、カラスがどう言う事?と尋ねる前に、大猫はダダッと宙を蹴り、『人』らしきもの目掛けて駆け出してしまった。


「あっ!にいちゃん!?」


猛烈な勢いで急降下する兄を追って、妹もまた慌てて降下を始めた。






「けしからぁぁぁぁんんんん!!!」


そんな、意味不明な喚き声に、王様は面倒臭そうに顔を上げた。


黒い点がみるみる容積を増して、あっと言う間に視認出来るまでになった。

それは、いつぞやの大猫であった。


普段なら、そのように視認出来る前に結界に焼かれて灰も残らないのだろうが……

残念ながら、今、その結果はズタズタで、どうやら大猫は結界の切れ目から上手い事飛び込んで来たようだった。


真っ直ぐ王様に狙いを定めた、前脚の鋭利な爪が光る。

が、王様は眉ひとつ動かさずにヒョイとそれを避けた。


「くそおぉぉぉぉ!!!」


王様に着地出来なかった大猫が土煙を上げて王様の横をスライディングしていく。


上空に、もうひとつ影を見つけて王様は眼を細めた。


「あれは、まずいな」


ぼそりと呟く後ろで、大猫が跳ねるようにして体制を整える。


「妹の華やかな未来のため、貴様には消えてもらーう!!」


王様には何の事だかさっぱりな意味不明なセリフを叫びつつ、大猫はまたも勢い良く王様に飛び掛かろうとした。

やはり先程と同様ヒョイと避けられて、王様の横をスライディングする大猫。


きっと王様を振り返り、再々度狙いを定めようとした時だった。


ぱっと手を前に出し、人差し指を立てた王様が、チョイチョイと上を指差した。

釣られて上を向いた大猫の、視線の先。

迫る大きなカラスの影が、不意に歪んだ。


「ぎゃああああああ!!???」


壮絶な悲鳴を上げた大カラスが、何も無い空間に呑まれて半分消えかけていた。


「マリアー!!!?????」


全身総毛立った大猫の叫びが、森中に木霊した。






「ほら!!にいちゃんも頭下げて!!」


無表情に突っ立っている王様の前、ひれ伏すように地面に土下座しているのは、小柄でぽちゃっとした少女だった。

その後ろで、耳をペタリと閉じてそっぽを向く大猫が、フン、と鼻を鳴らした。

何も聞く気は無い、という意思の表れである。

早く頭を下げなさいよ!と怒鳴りグイグイ大猫の頭を押さえつけようとする少女。

半分涙目になりガフガフ言いながら抵抗するも、結局大猫は頭を地面にこすり付けさせられる事になった。


「うぐぅ、けしからん……」


大猫が、涙声で呟いた。




ぎゃあああと叫びもがき暴れている大カラスを、腕を伸ばして嘴をむんずと掴み軽々空間の亀裂から引きずり出したのは、他ならぬ王様だった。


「最近の妖魔はこの程度の空間異常も気付けぬのか。まったく情け無いことよな」


ぼやくように呟き、目の前にカラスをぶら下げて眺める。

大カラスは、嘴を掴まれているので声も出せず、かといって暴れるわけでも無く、ぽーっと王様を見ている。


大カラスを掴んだまま冷めた目で眺める王様、王様を見つめ、目からハートを飛ばしている大カラス、顎を外したように大口をポカンと開けたまま、半ば意識を飛ばしかけている大猫。


やがて、熱烈な視線に爪の先程の有り難味も感じる事無く、王様はポイっと乱暴にカラスを放り出した。


途端に、カラスの姿がぐにゃりと歪んで人の姿になると、ずざざーっとスライディングしたまま土下座をした。

へへぇーっと王様に対してひれ伏し、土下座をしつつスライディングで遠ざかる。

なかなかにシュールというか、どうやって?という光景だった。

その後、『貴方様は命の恩人でゴザイマス♪』と、全身からはーとまーくを飛ばしまくる元カラスが王様を平身低頭崇め倒し、今に至る。




「何度も聞くが、空間を滅多切りにしたのは、お前達では無いんだな?」


妹が頭を押さえているのでイマイチ威厳に欠けるが、大猫は気にする事無く、あくまで横柄な態度を貫き偉そうに尋ねた。

王様は、『まあ、シェリは今は王妃でも何でも無いし、異界の民になっているのでいいか』と思ったので、鷹揚に頷いて見せた。


「我らが王や、父者、母者、数多の側近を空間の裂け目に追いやったのも、お前達では無いと言うんだな?」

「そもそも、自分の所の結界を壊してまで、そのような馬鹿な真似をする意味が無かろう。言わば、レプティリアの民も被害者だ。空間はズタズタ、結界もズタズタ。これではおちおち昼寝も出来ぬ」


あくまで『被害者』を強調しておいた。

そうすれば、この頭の弱そうな大猫は疑わないだろう、と。

事実、レプティリアは『被害』を被った。

よりによって、身内のシェイシェリエの暴走によって。

だから、本当の事は言っていないが、嘘も言っていない。


案の定、大猫はそれをまるっと信じたようだった。


「そうか、貴様らも、結構大変なんだな……」


敵ではあるが、同情するぞ。

自分達の居城や、その近辺の惨状を思い浮かべ、しみじみと呟く。


王様は、『まあ、それも全部、身内のした事なのだがな』と心中で呟きつつ、うむうむ、と無言で頷いた。


「仕方ない。妹を助けて貰った事だから、今回は見逃す事にする。だがな、今度見かけたら貴様の命は貰い受けるぞ」


可愛らしい肉球を見せ付けるように、ビシ!と王様を前脚で指し、ピカっと殺意溢れる目を光らせる。

うむうむ、と、特に気にする事も無く、頷く王様。

いや、そこは一応、引くとか焦るとかびびるとかしてくれよ、と大猫は思った。


「それが出来れば、『神の峰』はあと数百年は安泰であろうな」


呟きつつ、ふふん、と鼻で笑う王様にカチンと来ている大猫の横で、未だ正座の少女がはぅ〜んと声を上げた。


「その冷たい微笑み。ステキだわ♪」

「お前、またそんな馬鹿な事を……っ」


くわ、と口を開け、全身の毛を逆立てて怒る大猫。

ぽっちゃり少女は、何よ!とむくれている。


「お前達。用が済んだのなら、帰ったらどうだ」


ここで漫才をされても困るのだ。

呆れたようにぶつぶつ呟く王様に、大猫がファーっと威嚇する。


「言われなくても解っとるわ!」


ぱっと立ち上がるのにつられて、少女も立ち上がる。

二人揃って帰るのかと思いきや、大猫の側からさっと離れた少女が、何故か王様目掛けて思いっきりジャンプした。


「まりあ!!?」


今までで一番凄いんじゃないだろうかという完璧な総毛立ちで、尻尾も3倍くらいにボワボワさせて、大猫が素っ頓狂に叫んだ。


「…………何がしたいのだ」


半目で特に表情らしい表情も浮かべず、ただ眉間に皺を寄せた王様が、静かに首を巡らせた。

王様が見下ろす視線の先には、満面笑顔の少女。


「やぁ〜ん♪その氷のような眼差し〜。たまらなぁ〜い♪」


身悶えウフウフ笑う少女が、王様の首に腕を巻きつけてぶら下がっていた。





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