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苺とブドウ  作者: 黒雪
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22 花より団子




「……と、いう事だ。当分の間、私は結界修復で王宮を空ける。お前達には、移住する民の受け入れ、微細な空間の亀裂の修復をして貰いたい。恐らく『神の峰』の者共の襲撃は無いと思いたいが、油断は出来ぬ。結界修復が完了するまで、各自警戒を怠らぬように」


緊急に議会を召集した王様は、“影”を飛ばして確認した結界の破損状況と『神の峰』の惨状について、細かく説明をした。

『神の峰』の状況を思えば襲撃を受ける確率は低そうではあるが用心するに越した事は無いので、王都周辺をカバーする程度の臨時結界を張り、森に散らばるレプティリアの民の移住を決定した。


普段のお仕事嫌いな王様からは想像もつかない、キリリとした態度に、セレネは、ほぉぉ〜っと感心したような目をしている。




「殿、少々お訊ねしてもよろしゅうございますか。殿が御覧になったという大猫、女でございましたかな」


控えていたご老体の一人が、浮かない顔で尋ねる。


「いいや。随分若いオス猫であったな」


あれはどう見ても男だった。

猫になる前は。


ご老体は低く唸り、首を傾げた。


「では、茜のカラスは居りませなんだか」


馬ほどもある、真紅のカラスにございます。

そう言い、ご老体が記憶を辿るように目を細めた。


かつて、レプティリアの民を震撼させた『神の峰』の王の近衛を任された大妖。

彼等は双璧と呼ばれていた。

残忍な大猫の女と、狡猾な大烏の男。

今も思い出す度に、恐怖の記憶に体の芯が震える。


猫と対で動いていた、鳥の事か。

そのような輩もかつてはおったな、と王様が呟いた。

ではやはりあの大猫、かつて我々を襲っていたあの大猫の息子なのだろうか。

それにしては、少しも脅威を感じなかった。


「カラスどころか鳥の一羽もおらなんだが……あの様子では、あやつらは自分達に何が起きたか理解もしておらぬだろうよ。シェリのお陰で、かなりの者が亀裂に呑まれたようだったな」


「なんと…………いやはや、喜んで良いものやら。王妃様のなさる事には、毎度このジジィは寿命を削り取られる思いがしますぞ」


若干、青ざめた表情で俯く。

隣のご老体は、更に冷や汗だくだくだった。


「まさか……報復行動に出る、という事は……」


『神の峰』に棲む妖魔が、大挙して押し寄せたら。

結界が寸断されている今、結界がどうと言うどころではなく、レプティリアそのものが崩壊しかねない大災厄となってしまうだろう。


「ああ、それは私も考えたのだがな。まず、あの間抜けどもが、どうやってシェリがしかけた事だと知るのだ。こちらもまた結界をズタズタにされて。第一、見回りに側近の息子が出ねばならぬ程だ、かなりの人手不足に陥っておるのだろう。そのような状態で何が出来るとも思えぬ」


そう言われれば、そうでした。

汗を拭き拭き、ご老体が口を閉ざした。


「ですが、王。安心は出来ませぬ。王の護衛を数名、供させたく思います」


宰相の言葉に、王様は静かに首を振った。


「私を護れる者など……この私以外におらぬだろうに。仮に襲撃を受ければ、護衛など邪魔なだけだ。供は要らぬ」

「ですが」

「くどい。私の事は良い、臨時の結界を守護させよ」


いつになく厳しい王様の言葉に、宰相は深追いせずに静かに頭を下げる。


「では頼むぞ」


一斉に皆が頭を垂れる中、颯爽と会議の間を出て行く王様。


厳かな雰囲気に若干圧倒されていたセレネは、そそくさと王様の後を追って、会議の間から飛び出した。

少し先を歩く王様に追いつこうと、慌てて手を伸ばす。


「…王様、待って」


後もう少しで手が届く、と思った時、ぱっと王様が振り返った。

何故か王様は、とても優しい笑顔を浮かべていた。


「セレネ、先程の話は聞いていたであろう。私は、しばし王宮には戻らぬ。お前を一人にするのは心配だが、今はそうも言っておれぬからな」


そうっと伸ばした手が、王様の袖を掴む。


「お前の事は、ミゲレンに頼んでおく。何時シェリが戻るやも知れぬのだ。大人しく、留守番をしていてくれるか」


俯くセレネの頭を、ぽんぽん、と優しく撫でる。

そうしている間中、ずっと、柔らかい笑みを絶やさない。

自分を言いくるめようとしている、と、セレネは直感した。


「…王様についていってはダメなの?」


眉間の皺をさり気無く増やしつつ、セレネが小首を傾げて尋ねる。


「私についてきても、メシは無い、風呂も無い、3時のおやつなど以っての外。お前、耐えられるか??」


ん?と瞳を覗き込まれて、セレネはうっと言葉に詰まった。


ゴハンも、お風呂も、おやつも無いなんて!

耐えられそうにない!!


即断し、プルプルと首を横に振るセレネに、王様は複雑そうな顔を見せた。


メシやおやつに私は負けるのか。

その程度なのか。


ちょっとだけショックな王様だった。

笑顔は相変わらず優しげだが、若干固まっている感のある王様を無視し、セレネは何か真剣に考えている。


「………王様、耐えられるの??」


少し考えた末に、セレネはとっても不思議そうに首を傾げた。


私は無理だけど。

王様、凄いな。


そんな心の声が、眼差しに全て現れていた。


「……………………」


何たる事だ。

そうであった。

3食昼寝付きが全部パーという事を、すっかり忘れておった!!


心密かに呆然とする王様。


「………??」


更に不思議そうに首を傾げるセレネ。


「ぬっ、そ、そうだな。流石にそれは私も無理だ。では、メシ時には戻るとするか。それならば、セレネと話をする機会も持てる」


はっはっは、と笑う王様の手が、やや乱暴にセレネの頭を撫でた。

頭ぐりぐりはちょっと鬱陶しいかもしれない……と思うものの、王様の言葉はセレネを喜ばせるのには充分だった。

ふわっとセレネの顔に笑みが浮かぶ。


「…王様、頑張ってね!」

「う、うむ。任せろ」


ほんのり微笑み攻撃の不意打ちを喰らった王様は、思わず動揺してしまった。

無意識に顔がにへっと笑い、セレネの微かな笑顔に応えてしまう。


「…じゃあ王様、ご飯、食べようー」


ぎゅーっと握り締めた王様の袖を引っ張り、ぐいぐい食堂へ引っ張って行こうとするセレネ。


やはり、食い物が最優先かー!!


一瞬芽生えた、ほんわか気分を蹴散らされた気分の王様が、何処か悲しげな表情を浮かべてセレネに引っ張られていく。

こっそり見守るミゲレン達は、同情の目でそれを見送った。




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