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苺とブドウ  作者: 黒雪
17/31

17 宰相は見た!ぱーと2




「ねぇ貴方達。何でそんなに睨み合ってらっしゃるの?喧嘩でもなさった?」


いきなり背後から声がして、王様とセレネは驚いて同時に振り返った。

そこには、自室に篭っているとばかり思っていた青尽くしの美女が、腕を組み、顔を顰めて立っていた。


煌くウロコをギュッと握り締めつつ王様の目の前に突き出しているセレネと、憮然とした表情の王様を見比べて、美女は溜息をついた。


「ヨルム?こんな可愛らしい乙女を、そんな険しい目で見つめては駄目じゃない。貴女も。お人形さんみたいに可愛いのだから、そんなお顔をしていては勿体無いですわ。ほらほら、にっこりなさって?」


王様に、め!と言いつつ、セレネに向って、思いっきり柔らかい笑顔を作って「ほらほらニコニコ〜」と、催促している。

彼女には、厳しい目つきの王様と無表情の美少女にしか見えていないようだった。


「別に、睨み合っていたワケでは無いのだが」


王様の言葉に、セレネも真顔でコクコク頷いてみせる。


「あら、そうでしたの?物凄い形相で、睨み合っているように見えましたのよ?本当に、喧嘩などなさってませんの?」

「……普通に会話していただけだ」


あらやだ、見間違い?などと首を傾げて言う美女は、セレネが始めて会った時とたいして変わらぬ明るい様子だった。

てっきり当分は落ち込んで立ち直れないだろうと思っていた王様は、ケロッとしている美女の顔をまじまじと見つめた。


「あらなぁに?見惚れちゃった?悪いけどワタクシ既婚ですのよ〜?」


頬に手をあて、あんまり美しくて目を奪われるのは解るけどぉ~キャ♪とか言っている美女に自然と冷たい視線を浴びせてしまう王様。

しかし美女はまるで気にする事も無く、「ああ、美しいって罪な事なのよね〜♪」などと自惚れまくっている。


「やかましい。誰がお前なんぞに見惚れるか。目が腐るわ」

「んまっ!」


これは一体どうした事か。

この女からは、何処にも凹んだ気配が感じられない。

ションボリしていたというのは、偽情報か?

そもそも、この女に限って落ち込むなどという事があるのだろうか。


王様は、それまでちょびっと気を使っていた自分が馬鹿らしく思えた。


そうかそうか。

ならばもう、サクっとケリをつけて貰おうではないか。


「で、何時までこうしているつもりだ。お前を探して異界を転々としている哀れな男を、早く連れ戻してこい」

「…………えー……」

「えー、じゃ、ない!!!」


まさかそこで、引かれるとは思わなかった。

つい大声を出し、ダン!と机を叩くと、美女とセレネが揃ってびくぅっと跳ねた。

思わぬ反応に、王様が焦る。

美女の事などどうでも良いが、セレネを怖がらせるつもりは毛頭無いのだ。

しかし、フォローせねば、と思った時には既に、美女が先手を打っていた。


「何ですの、このひと。怖いですわ!ねぇ、セレネ?」

「………(コクコク)」

「………うぅ」


言いながら、わざとらしくセレネと手を取り合い、ひしと寄り添い、二人して王様を怪獣か何かを見るような目で見ている。


「その猿芝居をやめんかっ。馬鹿な事をやっていないで、さっさと探しに行け!」


嫌な汗をかきつつ、美女を追い立てる事に躍起になっていると、「あっ」と小さく声が上がった。

美女に手をニギニギされているセレネの声だった。

王様と美女が動きを止めて、ん?とセレネを見る。


「…あの、そういえば」


言いながら、もぞもぞと美女に向き直って座る。

出来れば手を離して貰いたかったのだが、美女にその気が全く無さそうなので、諦めて話を続ける事にした。


「…私、変な能力があって。困ってます」


声で相手を気絶させたり、傷付けたり。


「…かあさまからは、何も聞いてなくて、どうしたらいいか」


自分が純粋な人間では無い事もつい最近知ったばかりで、もう何が何やら。

簡単にいきさつを話すと、美女がふむふむ、と頷いていた。


「ねみみにみみずね!びっくりするわね!」

「違う。寝耳に水だ。馬鹿者」

「…あの、結構真面目に困ってるんですけど」


茶化さないで下さい。

セレネの厳しい声に、美女が「てへ」と舌を出している。


本当にコイツを相談相手に選んでよかったのか、お前……


セレネの人選に激しく疑問を感じつつ、他に適任者も居ない現状に、王様はとんでもなく不安を覚えた。

ふざけた性格の美女を思えばセレネにある事無い事、と言うより、無い事ばかり吹き込みそうで、気が気でない。


「エレンは、貴女に、なんにも打ち明けずに逝ってしまったのねぇ……」


心配する王様の心中を察してか、美女が真剣にセレネの話を聞いている。


「…ちゃんと、教えておいて欲しかったです……」


何処か拗ねたように言うセレネを見て、美女の顔に悲しげな微笑みが浮かんだ。


「ねぇ貴女?誰が、自分の命が終わる時を知っていると思って?多分エレンは、力をいっぱいいっぱい使って、余分に命を削って。貴女を授かってからは、あっと言う間の生涯だったと思うのよ?」


片方の手を、セレネの手の甲に乗せて、ゆっくりとさする。


「いつか言おう、いつか言おう。そう思っているうちに、その終わりの時が来てしまったのですわ、きっと。貴女を混乱させたくない気持ち、貴女に拒絶されるかもしれないという不安。色々な気持ちが、彼女から、一歩を踏み出す勇気を奪ってしまっていたのね」

「…………そう、でしょうか……」


少し考えて、美女は「そうそう」と何かを思い出したように笑みを浮かべた。


「そうよ、きっと。エレンはね、あれで結構気が小さい所があって。貴女のお父様に自分が海妖だと告白するまでに7年もかかったのよ。そりゃもう悩みに悩んで」


うふふ、と笑い、セレネを見る。


「きっと、じゃないわね、絶対そうね。どうでも良かったのではなく、ただ勇気が少し足らなかっただけ。だから貴女?そんな辛そうなお顔をしては駄目よ?貴女の“力”については、ワタクシに任せて頂戴。悪いようには致しませんわ」

「…はぁ、えっと……お願い、します?」

「ちょぉっと、何で疑問形ですのー?そこは元気良く“ハイ!”って言う所ですわよー?ほら、ハイっておっしゃってー?」


アハー!と笑いながら、セレネの肩をペシペシ叩く。

セレネは美女のコロコロ変わるテンションについて行けない。


取り合えず、ハイ!って言っとけばいいのだろうか?


悩むセレネの手を握り、ひとしきりにこにこしていた美女だったが、唐突に項垂れ、はぁぁぁっと大きな溜息をついた。

先程までの笑顔が一変し、今にも泣きそうな顔をしている。


「やぁね、もう。そうよね、言いたいことがあるならその時に言わなきゃ駄目よね。ワタクシ、偉そうな事、言えた義理じゃありませんわね」


がっくり肩を落として、酷くションボリしている。


「貴女のお母様に教えられた気がしますわ……。ワタクシ、逃げてばかりいては駄目だったのね……」


言いながら、ガバーっとセレネに抱きつく。

いきなりの事にセレネが目を大きく見開き、硬直している。


「貴女に会えて良かったですわ。ワタクシ、夫を捜しに行く決心がつきました」


ぎゅうううううっとセレネを抱き締め、スリスリと頬擦りをし、その小さな頭を何度も何度も優しく撫でた。

最初は硬直しつつも、こっそり抵抗しようとしていたセレネだったが、美女の決意に溢れた言葉を聞いて動きが止まった。

そ、と背中に手を添え、ウンウンと頷く。


「最速で見つけて、すぐ戻ってきますからね。セレネはここで待っていて頂戴な。戻ったら、能力のコントロールレッスンいたしましょ♪」


ぎゅうっと抱き締めて満足したのか、セレネを離し、念を押す。


「…気をつけて、いってらっしゃい」


小首を傾げて言うセレネの可愛らしさといったら。

再びセレネにガバーっと抱きつく美女。

わぁぁっと声を上げて驚くセレネに、可愛いんだから〜っと頬擦りしている。


「何をしとるのだ貴様。そんな暇があるなら、さっさと行って来い」


それまで蚊帳の外だった王様が、痺れを切らして言った。


「なによ、もう。ヤキモチ焼いて、心の狭い男ねっ」


ぎゅうぎゅうとセレネを抱き締めたまま、ニヤニヤしている。


「誰がヤキモチなんぞ焼くか!」


女相手に、しかもシェリを相手に、ありえない。

ふざけるな!と言ってやりたかったが、その時には既に、美女はその場から掻き消えていた。


『うふふ。焦っちゃって、クソヘビらしくありませんわね~』


何処からとも無く声が聞こえた。

どうやら、王様が反撃を開始する前に異界へ逃げて行ったらしい。


『急いで戻りますわ、セレネ。またお話し、沢山しましょうね〜♪』


そんな言葉を最後に、美女の声も気配も完全に消えてしまった。


「やっと行ったか……全く、嵐のようなヤツだ……疲れた」


言いようの無い疲労感に襲われて、王様は、は〜っと溜息をついた。

それを見たセレネが立ち上がり、てててっと王様の背後に駆け寄る。

なんだ?と思っていると、小さい手が王様の肩をムニムニしはじめた。


しばしムニムニされていた王様は、始め、何をしているのか解らず首を傾げた。

すると、セレネのムニムニが若干強くなる。

もしや、これは……


「肩もみを、してくれているのか?」

「…他に、何をしていると思ったの?」

「……え、ああ。そう、だな。肩もみだな、うむ」


いや、まさか、本当に肩もみとは。

王様にとっては、“ムニムニ”程度なので、思い至るのに随分時間がかかった。


「…疲れたって、言ってたから」


何だと思ってたのかしら。

ちょっとムッとしつつ、それで止めてしまうのもどうかと思ったセレネは、王様の肩をムニムニし続ける。


「うむうむ。丁度、肩が凝ったなぁと思っておったのだ。感謝するぞ、セレネ」


流石セレネだ、気が利くなセレネは、素晴らしいぞセレネは。


意味不明に褒めそやす王様に、普段なら嫌味のひとつも言ってやろうか、と思うところだが、何故かそんな気にはならなかった。


「…大袈裟よ」


その青白い頬に赤味が差し、やんわり微笑が浮かぶ。

その声は、何処か嬉しそうだった。


「早く、シェリが戻って来ると良いな」


セレネの暖かな手の平を肩に感じながら、王様は静かに言った。

王様の顔にも、柔らかな笑顔が浮かんでいた。











王の間にて、ほんわかまったり和やかムードを醸し、王様とセレネが二人だけの世界を作り上げている傍ら。


『ぬぅぉおぉぉぉおぉぉっ!?』


未だひっそりと王の間に控えていたミゲレンが、心の中で大声を上げていた。


王様の穏やかな笑顔も充分驚きだったが、あのセレネが笑っている!

笑っている、と言っても、ほんの微かにだったが。

ちょーっぴり頬を染めつつ口元を緩ませて、王様の肩に手を添える姿は、まるで絵画のように美しく儚げだ。

ちなみに、王様は背を向けているので、セレネの笑顔は見えていない。


『何と言う奇跡!超レアショット!!げっとですぞ!!!』


美しい二人の貴重な光景を心のアルバムに刻み付ける緊張感の無い宰相の姿が、そこにはあった。




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