夏休みの前の日
「ちくしょおお、負けたあ」キュウちゃんの悲鳴が部室に響く。
「今度は勝ったな」夜桜先輩は笑っている。
「全部90点ギリギリを狙ってやったのが馬鹿だった。英語が急に応用出してきやがったからあたしのぱーふぇくとぷらんが崩れたああ」
「そもそも90点を狙うという発想が間違ってる」
二人が競っているのは期末テストの成績。夜桜先輩は10段階中9.7という常人には手が届かない成績を取っていた。キュウちゃんは9.5だったらしい…もはやそんなハイレベルな戦いを見せつけられてはわたしの成績が恥ずかしくなってきた。あれでも中間テストよりもよくなったんだけど。
それでも次の日からは学校はほとんどなくて、夏休みだ。小説に専念できる。なにせ夜桜先輩に挑むのだから、全力のそれ以上を出さなくてはいけない。
「でもさあ、ホントに全部90点がはまって成績表に10.0って書かれたときは笑ったわあ、だって3桁だぜ、有効数字が、福崎の眼が飛び出そうだったもん。」キュウちゃんがうひゃうひゃと笑う。夜桜先輩もつられて笑っている。
「中一の一発目のテストだったからカンニングかと疑われるレベルだった。」
ホントにその作戦成功させたんですか、と呆れそうになる。
「すす、すごいですねえ」ぐらいしか言えない。
「ネコはどうだったんだ?」キュウちゃんが訊いてきた。
「一応8.4ですけど…」
「まあまあ、アタマが全てじゃない。女は性格も大事だぜ。」
「キュウちゃん先輩、」ホントに先輩達は優しいなあ。
「おいキュウ、それは嫌味か?」聞きかねた夜桜先輩が突っ込んでくる。
「嫌味だ」キュウちゃんは、いつものいたずらっぽい笑いで返す。
はあ〜と夜桜先輩は額に手を当ててため息をつく。「その開き直りっぷりには敬服するよ」
「まあまあ、褒めてもなんもでないぞ、かおるんるん」
「かおるんるんはやめろ」夜桜先輩はギロっとキュウちゃんをにらむ。
当の彼女はうひひと笑っている。
「まあまあ、とにかく明日から夏休みですし」私は場も収めようとあわてて言った。
「いいこと言った、ネコちゃん!」
キュウちゃんが話題に飛びつく。
「夏休み、いつも通りやるぞ」ピンクのメガネをずり上げて夜桜先輩の方をみる。私もつられてそちらをみる。
「ああ、そういえばネコは知らないのか」まるで私が昔からの知り合いだったみたいに言う。
「夏休みは学校が開いてないから同好会のメンバーは中央図書館で集まるんだよ」
「おお!」感嘆の声が出る。
「夏休みにアタシに会えて嬉しいってかおしてるなぁ」キュウちゃんは面白そうに私のかおを覗きこんでくる。メガネがよく似合う顔である。
「どうして、そんなに自意識過剰なんだか」夜桜先輩はもうホントに疲れそうになっている。
でもあながち間違いじゃない。はしゃいでいるクラスのグループよりも、この才能あふれる先輩達と過ごす方がきっと充実した夏休みになるだろう。本当にこの二人には会えて良かった。




