「天界」
「天界、ねえ」キュウちゃんがうっとりと明るい彼女らしい声でタイトルを読んだ。
同好会の部室。散らかった机に三人並んで座る。私を挟んで二人の先輩が私の持つ原稿用紙を覗き込む。それだけで、あったかくて幸せだった。図書室通いの私にはあまり話せる同級生もいなかったから、同好会の二人は私にはとっても大きな支えだった。
「私から読んでもいいか」夜桜先輩が尋ねてきた。
「いや、ストップ」眼の前に腕が伸びてきた。びしっとキュウちゃんが夜桜先輩の顔の前に手のひらを突きつける。
「先に見せられたのはあたしだ。かおるん」
そう言われた夜桜先輩はキョトンとしている。真顔の先輩かわいい。すると先輩はすぐに我に返って
「ネコはどっちから読んでもらいたい?」
と面白そうに聞いてきた。うわあ難しい。夜桜先輩はそういう質問をするのが好きだ。どっちだろう。どっちも大好きな先輩だ。キュウちゃんの方をみる。すると首をかしげてウインクを返してきた。キッパリとしたショートカットが揺れる。キューンと私の心は撃ち抜かれてしまった。ああ、なんでこの段階で困ってるんだ私?だったら、、、
「音、読、しま、、すっ!」
これが最善だよね?恥ずかしいけど。
言った途端、二人は突然下を向いた。あれ、変かな?
「二人ともどうしました?」
「いやいい、、、続けろネコ」苦しそうに夜桜先輩は言った。キュウちゃんの方をみると机に突っ伏して肩をひくひく震わせている。
「じゃあ読みます。『天界』」
私の作った小説。内容は簡単に言えば、女神様が悪魔を魔法で倒しまくるといったものだ。よくそんなものを音読したものだ。
「よくも私を怒らせたなあ」
「女神様お許しを」
「いや、この天界を汚した罪は重いわよ。」
「そこをなんとか」
「くらえ、ミラクルフラッシュ!」
「うわわわわわ」
そうして世界は救われたのであった。
、、、中二病全開の小説って黒歴史になりますね、、、。
というわけで、なんとか私は読み終えた。
「案外、ストーリーになってたな。よく書けてる。」
それでも夜桜先輩の褒め言葉を聞いた時。今でも覚えている。飛び上がるほど嬉しかった。もう今まで生きてきた中で最高の嬉しさ、歓喜が波になって押し寄せてきた。
「ホントですか!」
「うん」
どんなに拙くても、どんなに恥ずかしくても先輩が褒めてくれたら、今までの努力が報われたような気がした。頭の中が喜びでジンジンする。これが達成感というものだろうか!
「なんだかんだ言って面白かったな」
キュウちゃんまで!ああそうだ。私は先輩たちの為に書いたんだろうな。面白いって言ってもらいたくて、楽しんでもらいたくて、今まで寝る間も惜しんで書いてたんだ。書いてきた時間を、努力を先輩たちが意味のあるものに変えてくれた。それこそ魔法みたいに。
「先輩たちが褒めてくれて嬉しいです。」感情が言葉になって溢れた。
視界がぼやけて目頭が熱くなる。あれ?泣いているのか私。人間って嬉しい時もホントに泣くんだなあ。こんな嬉しい私は幸せものだ。
「頑張ったなあ」優しく夜桜先輩が頭を撫でてくれた。
「あ、おい、かおるんだけずるいぞ。あたしにも撫でさせろ」
ああ、あの時は確かに輝いていた。




