提出
原稿用紙20枚分の小説。だけど完成させるには100枚ぐらい書き直したり、使ったかもしれない。今思えば巧さんの1800円分の原稿用紙って、、、あんなに饒舌にかけるなんてある意味才能があるかもしれないけど。
とにかく、私は完成した小説を持って図書室に向かった。夜桜先輩はいた。窓際の席に足を組んで大判の本を開いて読んでいた。「せっかく無料で借りるんだから、それに値するものを借りないとね。」と先輩は文庫本よりも図書室では図鑑とか画集のような普通の人がなかなか手を出せない値段の本をよく読んでいた。まあ図書室にあってもなかなか手を出せないが。
新しく借りる本を選んでいると珍しくキュウちゃんもいた。「理系の本は値段が高いんだよなあ。多分、大体外人が書いてるからだな」キュウちゃんもそんな理由で図書館を活用していた。普段は同好会で何やら変なことをしてるのが多いけど。きっと本を借りたらすぐに部室に行っているのだろう。だとしたら、今会えたのはラッキーかもしれない。
「せせ、先輩。できました。」高いところの本を取り出そうとしているメガネの先輩に声をかける。白い腕が高く上げられたまま空中で止まる。
「できたって、何が?」
声はもう出てしまったのに今更緊張する。大丈夫。時間と努力はかけたつもりだ。ちゃんと様になっているって。自分を落ち着かせる。
「小説がです。」
「おお!」キュウちゃんが驚いた声を上げる。
「成田さん、図書室ではお静かに。」司書の先生に怒られるぐらいの声だった。
「いや、ゴメンゴメン」頭を掻いてキュウちゃんは笑いながら謝る。彼女の魅力はこの笑顔なのだ。先生に「ゴメン」と言ってもなんか許されてしまう。
「かおるんはいるかな」私を引き連れて夜桜先輩のところに行った。
「おい、かおるん」夜桜先輩は本を読んでいる最中だというのに、構わず声をかける。キュウちゃんに声をかけられて夜桜先輩は少し不機嫌そうだった。
「どうした、キュウ」先輩は本から顔を上げてこちらをみる。窓から差し込む日差しが先輩を照らしている。小さな埃がゆっくりと舞っているのが見えた。
キュウちゃんは後ろにいる私を親指で指差して示した。私は「小説できたんで読んでください。」とボソッと言った。すると先輩も驚いたような顔をして突然、本をパタンと閉じた。
「今日は早めに行くか。」
「ああ」
先輩はすらっとした足で立ち上がるとスタスタと歩いて読んでいた本を、本棚に戻した。私たちの方に戻ってくると胸ポケットから鍵を取り出して、私の眼の前でチラチラとかざす。『創作活動同好会』とタグには書かれていた。先輩の方をみる。
「行くぞ」
夜桜先輩の美しく笑みがこぼれた顔がそこにあった。




