創作活動同好会
「そ、ん、な、き、み、に、は」
私の方を向いて夜桜先輩は区切りながら声を出した。ひとつひとつが麗しい響きを持って私の心を揺らす。そして私はゆっくりと動く先輩の唇を眺めていた。
「いい場所がある」そういった先輩の顔は優しく微笑んでいた。その笑顔は今でもはっきりと思い出せるぐらい美しいものだった。
「ついてきてごらん」
「は、はいっ」
これから何が起こるんだろう。
いい場所ってなんだろうか?もしかしたら図書館のことかなあ。いやそれは答えとして平凡すぎる。図書館なら毎日行っているし、今だって向かっている途中じゃないか。先輩だってそうだっただろう。
いろいろと考えている内に先輩は先立って歩いていく。
置いて行かれない様に歩く。なかなか歩くのが速い。やっぱりそこも大人っぽい。
好奇心で溢れた私を引き連れて先輩は歩いていく。
まだ見慣れていない校舎を夢中で歩く。
颯爽と先輩は髪をなびかせながら私の前を歩いている。
少し歩いたら先輩はなんだかよくわからない地下の廊下に入っていった。まだ入学したばかりだったから、なんのための場所かわからなかった。ドアがいくつか並んでたから部室棟だったんだろう。でもいつもとは違うことが始まる高揚感が足取りを軽くさせた。
ついに先輩はそのうちのひとつの前で足を止めると振り返って私の方を見た。薄暗い照明が先輩の顔を照らす。
「着いたよ」
そのドアには『創作活動同好会』とかなり派手な画用紙が貼ってあった。しとやかな先輩とかけ離れたそれに唖然としてみていたら、
「ああ、、、そのポスターはあんまり気にしないでくれ」夜桜先輩はちょっと気にくわなさそうにいった。
「さあ入るぞ。」先輩はおもむろにドアを開けた。
ごちゃごちゃだった。
その部屋の第一印象はそれに限る。とにかくいろんなものが辺りを埋め尽くしていた。
突如といて私の視界に入ってきたその景色は冷静に判断をする余裕を与えてくれなかった。
「んん〜、今日は早いなあ。忘れ物か?」
ドアの向こうの部屋から声がしたと思ったらひょっこりと女の人がいろんなものの山から顔を出した。
いろんなものと言っても大きな机の上に乗っていて、いろんなものの山の向こうの椅子に座ってた彼女が立ち上がったのだと私やっと理解した。
その女の人はショートヘアーにピンクのメガネをかけていて、いかにもオタクっぽい感じだった。
先輩に習って部屋に入りドアを閉める。するとその顔が途端に驚きの表情に変わった。
「か、かか、かおるが、後輩連れてきた、、、」
今私は驚いています、というのが十分わかった。その驚き様が面白くてちょっとわらってしまった。
「しかも、かわいい、、、」ピンクのメガネの人は私を見て言った。いやあ、かわいいって照れます。ほめられて嬉しくない訳はない。嬉し恥ずかしい思いで隣に立つ夜桜先輩の顔を見上げる。
「そんなに驚くか?」先輩は全く分からないといった風にその人に聞き返した。
「だって、今まで他人に全く興味なさそうだったじゃん!2年間で初だよ、オイ」
砕けた言葉遣いから、この人はいい人だと本能的に感じられた。
「人をロボットみたいに言わないでくれ」
ふう、と息を吐きながら先輩は髪をかきあげる。
「毎日、図書館で会うから誘ってみた。なかなかかわいいだろう。」
先輩にまでかわいいと言われてドキッとしてしまう。何なんだこの展開は。
「そんな理由で?!また、美貌でごり押ししたんじゃないだろうなあ?いいなあ美人は」羨ましい羨ましいとメガネの人はからかう様に先輩に突っかかる。
その言葉を夜桜先輩はさらっと受け流して夜桜先輩はいう。
「取り敢えず自己紹介から始めないか。きみ、名前は?」
急激な環境の変化で質問したいことばかりの時に尋ねられたので余計に動揺してしまった。
「え!?えーと、猫実未来です。一年生です!」
大きめの声で言ったからか少し上ずってしまった。
「へえ〜、ねこざねっていうんだあ。」メガネの先輩はいろんなものの山から顔だけ出したままだ。
「漢字はどう書くの?」
「猫って書いて、果実の実です。」
「ほお、珍しい。」口を小さくすぼめてメガネの先輩は感心する。
「私は、成田キュウ。キュウっいう字は研究の究もしくは、究極の究な。」
ぴしっーと二本指をおでこに付けてメガネの先輩はこちらにウインクをする。
こっちの先輩も夜桜先輩とは違った魅力があると思った。




