第一章 西方への援軍要請 ④
アンリエスト王城・第二迎賓室――源雪乃
――時は少し遡る。
セリネたちの案内で城に入った雪乃たちは、海外からの客を宿泊させるために使っているのだろう客室へと通された。
二人で使うには広すぎると言ってもいいくらいに広く、明らかに一流のものであると分かる上品な調度品が揃えられ、清潔なお手洗いといつでもお湯が出るという風呂場までが備えられている贅沢な一室だった。
アンリエストに滞在中はこの部屋の施設を好きに使ってよいということだったので、さっそく雪乃たちは風呂に入り身を清めるとみそぼらしい旅装をしまい、この後に予定されているアンリエスト王との会談に備えて正装に着替えた。
七七は陰陽師の着用する狩衣、雪乃は平安装束である。
――――コンコン
まるで雪乃たちの準備が整った頃を見計らったかのような絶妙なタイミングで扉がノックされた。
「どうぞお入りくださいませ」
「失礼いたします」
雪乃が入室の許可を出すと、使用人の服装を纏った少女がしずしずと入ってきた。
少女があまりにも小柄なので最初はまだ子供なのかと思ったが、よく見るとセミロングの髪の中からほんのわずかだが尖った耳の先がのぞいている。そのことから彼女が小人族出身なのだろうという推測が立つ。
王城の使用人まで亜人を使っていることからも、この国の王が積極的に亜人を登用しているその姿勢がうかがえた。
「申し訳ございません。お客様、私、何かお気に召さないことをいたしましたでしょうか?」
「いえ、何でもありません。少し考え事をしていただけですので、あなたに対する不満などは一切ありませんよ。こちらこそごめんなさい」
あまりにじっと見つめていたからだろう。使用人の少女を不安にさせてしまったようで、あわてて雪乃はその場の雰囲気を取り繕った。
「奥羽国王妹の雪乃様とそのお付きの七七様ですね? 私、本日お二方のお世話をさせていただきますロジエ・ロロッサと申します。御用がおありでしたら何なりとお申し付けくださいませ」
言うと、メイドの少女は深々と頭を下げた。
「はい。こちらこそよろしくお願いしますね」
雪乃もニコリとほほ笑んでそれに応える。
「では今後のご予定ですが、お客様方のご体調・ご都合等悪くなければ、この後すぐに王との会談が予定されております。予定通り進めさせていただいてよろしいでしょうか?」
「はい。大丈夫ですよ」
「会談が終わりましたら王との会食を予定しております。何か苦手な食材もしくは宗教上口にすることが出来ない食材等はございますでしょうか?」
「いいえ、私も七七も特に好き嫌いはありませんから心配には及びません」
「了解いたしました。それではこれより会談の席へとご案内いたします」
そう言ってメイドの少女に案内された先にあったのは、意外なことに奥羽でも見慣れた畳引きの和室であった。
広々とした和室の中に立派な座布団が三つ。
向かって上座に一つと下座に二つ。おそらくこの二つが雪乃たちの席であろう。
部屋の奥には見事な藤の花を描いた巨大な一枚絵が飾られていて、部屋の一面には大きな窓が備え付けられており、そこからは見事な庭園が伺うことが出来る。
木がふんだんに使われた室内は黄金などでごてごてと飾り立てずとも荘厳な雰囲気を醸し出し、自然光とそれが生み出す影が巧みに計算されて淡いでいる。
それはもう、奥羽国でも滅多に見られないような上品で繊細な和室だった。
これを作らせたアンリエスト王は随分と雅を心得ている人物なのであろう。
「間もなく王がいらっしゃいますのでおかけになってお待ちくださいませ」
下座の座布団に雪乃たちを案内すると、メイドの少女は一礼して部屋から出て行った。
「姫様…………」
周囲から完全に人の気配が消えたのを確認して、七七が耳元で囁いてきた。
「どうしました七七? そんな難しい顔をして」
「さきほどの女中ですが……この部屋へ来るまで足音も隙も全くありませんでした。かなりの実力者です」
「それは……あなたが言うのですから相当なものなのでしょうね」
黒鉄の称号を持つ彼女が認めたとなると、相当な手練れであることは疑いようがない。
「はい。最低でもセリネ様やノワール様と同じレベル。下手したらそれ以上かもしれません」
「それは凄いですね。あなたでも敵わないかしら?」
「正直、戦ってみないと分かりません」
「奥羽最強と呼び声の高いあなたにそこまで言わせるなんて、セリネさんやノワールさんといいこのあんりえすとは実力者が揃っているようですね」
「さすがにあの者以上の手練れはそうそういないとは思うのですが……」
「失礼します。こちら粗茶ですが、こちらのお菓子とともにお召し上がりくださいませ」
話している間に先ほどのメイドが戻ってきて雪乃たちの目の前、そして主のいない上座の席にも茶と茶菓子を用意した。
「ありがとうございます」
お礼を言った雪乃に応えるようにメイドは一度ニコリと笑ってから深々と一礼すると、「お待たせ致しました。王が参られます」と小さく声をかけて、七七から5メートルくらい後ろ位置に控えるように腰を下ろした。
背筋が伸びてぴっしりと決まった、東方出身の雪乃が見ても目を見張るくらいに綺麗な正座だった。
間もなく、雪乃たちが入ってきたのとは別の襖が開いた。
そこからロジエと同じ格好をしたメイド二人が入って来ると、主を待ち構えるように扉の両脇で深々と頭を垂れた。
二人とも一分の隙も無い見事な所作である。
――――と、不意にそのメイドの一人を見て七七がビクリと体を震わせた。
「どうしましたか?」
「い、いいえ……」
小声で尋ねた質問には、おそらく状況をわきまえてのことであろうが言葉を濁された。
だが、明らかに彼女の顔色がよろしくない。
『七七があのようにうろたえるということは、あの使用人のどちらかが相当な手練れ……それも七七の手に負えない程の実力者だということなのでしょうね。そういえばこの国にはあのセリネさんとノワールさんを子供扱い出来るほどの強者がいるとか。使用人が王の護衛であるとしたらその者が任に付いていても何の不思議もありませんが……』
七七との付き合いが長い雪乃には、今の彼女の心中が何となくだが想像出来ていた。
しかし、使用人に続いて入室してきた湊王を目にした時の彼女のうろたえぶりは、雪乃の想像を超えていた。
さすがにその場で雪乃を抱えて飛び退るというような無礼は働かなかったが、額から汗を流し、全身の震えを抑えるように小さく歯を食いしばり、拳を必死で握りしめている彼女の姿を見るに、アンリエスト王の実力は七七が敵わないと認めた使用人を更に凌駕しているのだろう。
『そういえばアンリエストで一番の強者はこの国の王なのだとセリネさんたちは仰っていました……。私たちはそれを単に彼女たちの謙遜だと思い込んでいましたが、どうやらその認識は間違っていたようですね。とはいえ、相手の実力の測れない私にはただ見目が麗しいだけの青年にしか見えないのが情けないところですが……』
使用人に引き続いて部屋に入ってきたアンリエスト王と思われる人物は、想像以上に若かった。
隣国に抗する形で亜人保護を訴え、数倍の数で攻め寄せる敵軍を相手に鎧袖一触とばかりの完勝をおさめただけにとどまらず、はるか東方にまで名が轟く最強の神竜、黄金竜の脅威を取り除き、かつては交易の中心地であったこのアンリエストを復活させたばかりか、今や大陸一と言っても過言でないほどの大都市と言われるまでにわずか数年で発展させた稀代の英雄。
そのような偉業を可能にするとなると最低でも三、四十代くらいの偉丈夫ではないかと思っていたのだが、今雪乃の目の前にいるアンリエスト王はどう高く見積もっても二十代前半。見る人によっては十代の後半と判断してもおかしくはないくらいには若い。
その容姿も女性と見まがうほどに繊細で端麗。体格も決して大きいわけではなくどちらかというと中背よりもやや小柄。手足は長いが恰幅が良いわけではなくどちらかと言ったら華奢と評した方がしっくりとくる。
豪傑というよりは優男。
物腰も豪快というよりは柔和。
その儚げな外見を見ただけでは、彼が西方に名だたる武王と同一人物なのだと初見で看破出来る者の方が少ないのではないだろうか。
しかし、だからといって雪乃は目の前の青年が偽物だとは思わない。
戦闘技術と言えば陰陽術一辺倒の雪乃には七七のように見ただけで相手の強さが推し量れるような審武眼はない。だがそれでもこの青年の物腰の柔らかさの裏から自然と発せられる圧倒的な覇気から察するに、明らかにただものではないことだけは分かる。
雪乃たちには馴染み深いはずのその漆黒の瞳は、深淵が見通せない夜の闇。
全ての嘘や誤魔化しを見通しそうな氷の眼差しは吸い込まれそうなほどただただ深く静かで、信念のためなら情に囚われない王者の冷徹さをも感じさせる。
思わず気圧されてしまいそうになるのを必死で抑え込むと、雪乃は優雅な所作で頭を下げる。
「はじめまして。私は東方世界の最も端に位置する国、奥羽国から使者として参りました王妹の源雪乃と申します。この度は西方の覇者との呼び声の高いあんりえすと王にお目にかかることが出来大変光栄に存じます。そして横に控えているこちらの者は私の側仕え、葉山七七でございます」
「よろしくお願いいたします」
雪乃の紹介で七七が頭を下げる。
「はじめまして、私がこの国の王を務めさせていただいている四十無湊と申します。本日は東方からのお客人ということでいつもの迎賓室ではなく特別にこちらの和室を会談の会場として使わせていただくことにしました。とはいえそちらと我々とでは作法に異なる点はあるでしょう、その点は大目に見てくださりますとこちらとしては助かります」
「いいえ、こちらこそ急な訪問にも関わらずこのような親切な歓迎、痛み入ります」
互いに再度軽く頭を下げあう。
「さて、それでは挨拶はここまでにして、本題に移りましょうか」
作法から言えば、本来はこのまま暫く世間話などを行ってからいよいよ本題に突入となるはずなのだが、どうやら湊王は切羽詰まった雪乃たちの様子を察してか、早々と核心に入ってくれるようだった。
「雪乃姫、本日は我が城へどのようなご用件でいらっしゃったのですか?」
「はい、実は…………」
ここで雪乃は故郷である奥羽国の現状、大雅国という新興国のこと、両国における鉄砲の性能差、大雅国の周辺国家への脅威、奥羽国滅亡の危機、そして追い込まれている奥羽国が大雅国に抗するためには大雅国に互する性能の鉄砲が必要であることなどを湊王に対して切々と訴えた。
しかし、その結果が……。
「…………なるほど、あなた方奥羽国の言いたいことは理解できました。そして、おそらく我が国の所有する銃器は貴国の要求している性能に十分届いているとは思います」
「で、では…………!」
「――――しかし、残念ながら我が国としては貴国にそれらの銃器の提供を行うことは出来ません」
というみるも無残なものだった。
「どうして駄目なのか……その理由を伺ってもよろしいでしょうか?」
「構いませんよ」
意気消沈しながら何とかそれだけ聞き返した雪乃に、青年王は小さく頷きながら説明してくれる。
「我が国が貴国に銃を輸出することができない理由、それはこの銃器を世界に拡散させることの危険性ゆえに、です。この銃という武器は、弾を込めて引き金を引けば誰でも撃つことが可能になります。そしてその威力は十分に人一人の命を奪い去ることが出来るほど。極端なことを言えば、この銃さえ扱うことが出来れば何の訓練も受けていない女子供であっても歴戦の兵すら殺すことが出来てしまう――。この銃というものはあまりにも簡単に人を殺すことができる。いや、あまりにも簡単に人を殺せ過ぎてしまうと言った方が良いのかもしれません。もしこれを貴国に提供したとしたら、おそらく数年とは言わずとも数十年後には国中にこの銃が拡散してしまうのではないですか? この銃を複製せずにいられると本当に確約できますか?」
「そ、それは……」
雪乃は思わず言いよどむ。
正直、絶対にないとは言い切れなかったからだ。
「仮にあなたの兄上の代では約束が守られたとして、その次の代ではどうですか? そして更にその次の代では? 目の前にちょうど良い見本があるのにそれを真似することなく次の世代に引き継ぐことが本当にあなた方に出来ますか?」
「………………」
「一つ例に出しましょうか……」
湊王はそう言うと、表面が発光する石板のようなものを取り出して操作し、それを雪乃たちに見えるように向けてくれる。
「このタブレットに映っているのはミハイル・カラシニコフという人物が設計したAK47という自動小銃です」
彼が見せてくれた石板に映っていたのは、大雅兵が使っている銃にとても良く似ているものだった。
「この銃は我々の世界で最も有名な銃の一つです。他の自動小銃と比べて部品数が少ない上に製造における部品の誤差値が幅広く取られているため製造環境が悪くてもきちんと作動するものが製造でき、性能に比して製造単価が安く、耐久性も信頼性も操作性も高かったため設計者のカラシニコフ氏の母国であるソビエト連邦のみならず多くの国でライセンス製造されました。しかしその優れた生産性はそれにとどまらず膨大な非正規品が造られ、それらは世界中に出回って、犯罪者やテロリストの手に渡り多くの罪のない人々の命を奪い去りました。これら正規品、非正規品併せて我々の世界にはこのAK47が一億丁以上出回っていると言われています。雪乃姫、あなたならばこれの意味することが分かりますよね?」
「い、一億丁…………それだけ膨大な命がその銃によって失われたということですか……」
「もちろん単純に製造数が奪った命の数を示すものではありません。ですがこの銃によって莫大な数の人の命が奪われたことだけは間違いありません。事実、設計者であるカラシニコフ氏も犯罪者や子供の兵士などがこの銃を使って人の命を殺めていることに心を痛めていたという逸話があります。一つだけ確かなことは、一度世界に広まってしまった銃の設計図は、もはや誰にも止めることが出来ないということなのです。たとえ設計した本人であってもです」
「………………」
「もちろん我が国の銃はカラシニコフとは設計も部品数も製造性も素材も異なるため、あなた方が即座にコピー品を作るということはまず不可能な話でしょう。しかし、あなたたち奥羽国が基礎技術を高めていけばいずれは作れる日がやってきます。手元に見本品があればなおさらです。そうなった時、あなた方は銃を持たない他の国々と比べて一段有利な立場に立つことになります。そう、正に今の大雅国のように……。もしそうなった場合、あなた方はその銃を他国への侵略に絶対に使用しないと確約できますか?」
「わ、私どもは性能には大きな差があれど既に銃の製造技術を持っております。その上で他国に侵略を行うことなく銃の存在を秘匿してまいりました」
「それは承知しています。しかし今はそうであっても未来永劫同じであるという保証はありますか? それに、仮に奥羽国が侵略行為を行わなかったとしても、秘密というものはいずれ外に漏れるものです。金や女、あるいは工作員に人質を取られてやむを得ず……様々な理由が考えられますが、いくら銃の製造技術を秘匿していても人がそれを管理している以上、絶対に大丈夫ということはあり得ないのです。事実、大雅の侵攻に合わせて奥羽国からも裏切り者が出たんですよね?」
「は、はい……」
最も痛いところ指摘され、力なく項垂れることしかできない。
しかし、ここで雪乃が折れてしまったら奥羽国は滅亡を待つだけになってしまう。
湊王の言っていることは正しい。
もし自分が彼の立場であったなら全く同じことを言ったに違いない。
しかし、それでは救われない人々も間違いなく出て来てしまう。今この瞬間も失われている命があるのだ。
雪乃は己の持つ勇気全てを奮い立たせると、顔を上げ、背筋を伸ばし、まっすぐに湊王の漆黒の瞳を見つめる。
「湊王の仰ることは最もだと思います。一度技術が外に伝わればその拡散を防ぐことが困難であるということも理解できます。しかし、現に我が奥羽国、そして中央世界の天竺国も大雅国の銃器の脅威にさらされている最中なのです。王の懸念している銃器の拡散、それはもう既に大雅国で起こっています。大雅国がこのまま奥羽国と天竺国を飲み込み、他の中央世界の国々を征服して勢力を西へ西へと伸ばしていけばいずれはこのあんりえすとにまで到達することでしょう。そして銃器保有国である大雅が大きくなるということは、同時に銃器がこの世界に拡散されるということでもあります。そしてその速度は我が国が将来的に銃器の情報をこの世界に漏らす事例と比しても格段に速く進行するに違いありません。湊王の懸念している銃器の拡散を実現させないためには、そもそも大雅国の存在自体を取り除く必要があるのではないでしょうか?」
「ええ、その通りだと思います」
「で、でしたら! どうか私共に…………」
「何度でも言いますが、我が国が他国へ兵器を売り渡すことはありません」
「そ、そんな…………!」
小さな希望が見えたところで返ってきたのは明確な否定。
湊王の冷徹な一言が氷の刃となって雪乃と七七の胸に深く突き刺さった。
しかし、雪乃とてここまで観光をしに来たわけではないのだ。
「ご無礼を承知でお願いいたします。どうか、どうかご再考を! お願いします! お願いします!」
雪乃、そして七七も揃って座布団から降りると、二人揃ってその場で頭が付くほど深々と頭を下げる。
自分たちはここに観光をしに来たわけではない。
自分たちはお客様ではないのだ。
対面など気にしている場合ではない。
「お願いします。この国の鉄砲には我が国の未来がかかっているのです。代金であれば必ずお支払いいたします。足りないようであれば私のこの身を売り払っていただいても結構です。ですから、どうか! どうか!」
「雪乃姫、どうか頭を上げてください」
「で、ではっ…………」
最後の希望にすがるように雪乃は顔を上げる。しかし…………。
「残念ですが…………」
湊王は申し訳なさそうな表情で首を振る。
「どっ、どうしてですか? このままでは我が奥羽国は…………」
泣くまい泣くまいとは思ってはいても、どうしても視界が滲んでしまう。
『ごめんなさい兄上、ごめんなさい奥羽国の人々、ごめんなさい侍の皆さん…………』
奥羽で今も奮闘しているだろう兄、良い知らせを今か今かと待っているだろう奥羽国の国民たち、そして自分たちをこのアンリエストの地に導くために命を散らせていった侍たち。みんなの顔が次々と頭の中を駆け巡っていく。
『絶対に良い結果を持ち帰ると誓ったのに、私には出来ませんでした』
己を責めながらぎゅっと瞳を閉じる。
『ごめんなさい、ごめんなさい…………ごめんなさい』
目の前の青年一人説得することが出来ない。
自分の力が足りないことが、こんなに恨めしいことはなかった。
つ――――っと、頬に熱い涙が浮かび上がり、ポタポタと伝い落ちる。
そんな雪乃の頬に優しく白い布が押し当てられる。
湊王が持っていた自身のハンカチで雪乃の涙をぬぐってくれたのだ。
目を見開いた雪乃と青年王の視線がゆっくりと交わる――。
えも言われぬ緊張の中、不意に彼の瞳に温かい色が灯った。
「…………ですが、ご心配なく。大雅国は私たちが叩き潰します。きっちりと根元まで徹底的にね」
「………………えっ?」
不意に投げかけられた言葉に、雪乃の頭は真っ白に染まる。
「ですから、大雅国は我々アンリエストが叩き潰しますと言いました」
「…………我が国には援助をしてもらえないのではないのですか?」
「失礼ですが、雪乃姫は少し勘違いをされているようですね」
「それは、どういうことでしょうか?」
意味が分からず雪乃が湊王の表情を伺うと、彼はその整った顔にニコリと笑顔を浮かべる。
「あなたがた奥羽国からの要請はあくまでも我が国の銃器を輸出して欲しいということでしたので、我が国の立場としてそれは出来ないとは言いました。しかし、我が国が貴国に援軍を送らないとはこの会談の中で私は一言も言った覚えはありませんよ」
彼の言葉を聞いて、雪乃ははっと顔を上げる。
「奥羽国の敵である大雅国は、我々の世界から逃げ出した逃亡者たちが興した国です。その大雅国が我々の世界の技術を使ってこの世界で侵略行為を行っている以上、あなた方からの援軍要請があるなしに関わらず私たちにとって奴らは打倒しなければならない明確な敵なのです。だから我々アンリエストには……いや、私たち地球人にはこの世界からそれらを徹底的に排除しなければならない義務が課せられているのです。本来であれば我々がこちらの世界に来てすぐに対処したかったのですが、それにも増して優先されたのが迫害されている亜人族を開放することでした。しかしそれも先の戦争に勝利することである程度達成することが出来ました。西方世界に確かな地盤を確保することができた今、我々もようやく大雅国に対して目を向けることが出来るようになったところなのです」
湊王の言った言葉の意味を少しずつ頭の中で消化して、理解が進むにつれて段々と雪乃の表情に笑顔が戻っていく。
『利信、成正、家慶、秀則、豊丸、重徳、そして景光――みんな、ありがとうございました。みなさんのおかげで何とか希望は繋ぐことが出来ました』
自分たちに希望を託して次々に倒れていった侍たちの犠牲は決して無駄ではなかった。
彼らの死にはきちんと意味があった。意味を持たせることができた。
そのことが何よりも嬉しかった。
「そ、それでは!」
「ええ、我が国は貴国へ全力で支援をさせていただくことをお約束いたします。効果的な支援を送るためにも、今東方世界で起こっていることを私に詳しく教えてください」
「はっ、はいっ! 是非!」
奥羽を発ってから続いた長い長い闘いと疲労に身を削られる苦難の日々、部下との死別、そして絶体絶命のピンチと新たな出会いを経て、ようやく雪乃と七七は奥羽国を救えるかもしれない希望の光をその手に掴むことに成功した。
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