第四章 戦争編 ⑮
当話以降主人公の苗字を肆十無から四十無へ変更致します。
四の代字である肆から四に戻しただけなので読みは「よつなし」で変わりません。
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「敵騎馬部隊、全滅しました!!」
「了解したわ。報告ご苦労様」
部下から入ってきた報告に、カタリナは大仰に頷いてみせる。
ずいぶんあっさりと片付いたものだなとは思うが、さりとて大袈裟に驚いて見せるほどのことでもない。
敵側はどうだか分からないが、アンリエスト軍にとってみれば敵騎馬部隊が川を大きく迂回して襲い掛かってくることはあくまでも想定の範囲内。
結果から見ても分かるとは思うが、トンガール側の策は完全に予想済みである。
トンガール軍騎馬隊長のランカスターは、自分たちから最も近いアンリエスト軍最左翼にトロール兵とサイクロプス兵たち巨人族が展開しているのを目にするや 逡巡や躊躇するそぶりを一切見せず、起死回生のチャンスとばかりにそこへめがけて一直線に突撃をかけてきた。
膂力に優れる代わりに機敏さに欠ける巨人族を騎馬の持つ圧倒的な機動力で翻弄し、分散させてから数の力を生かして各個撃破で殲滅する。
それはかつて行われたヒト種と亜人種との決戦において非常に有効であった戦術だ。
これによって巨人族はその戦いで長所である物理的破壊力を一切行使できないまま一人、また一人と討ち倒されていった。
そしてこれはまた決戦において亜人種がヒト種に完全敗北したことの大きな原因の一つにもなってしまった。
両者の間に横たわる生まれついての圧倒的身体能力差を、戦術一つで覆した。
この大きな成功体験は、今もヒト種の間に誇らしく語り継がれている。
しかし逆に言えば、それは騎馬部隊が巨人族に一方的に相性が良いものなのだというまやかしを心に刷り込まれているということでもあるのだ。
騎馬隊が巨人族部隊に無条件で優っていると思い込んでいる以上、ヒト種の方からその優位性を捨て去るような作戦を打ってくる可能性は低い。
一方でカタリナたちにとってみれば、一つの戦術に固執してくれるヒト種は、敵が何を望みどう戦おうとしているのかを予測するにあたって極めて動きが読みやすい相手であるといえる。
であるならば話は簡単。
敵の戦術を逆手にとって逆に追い詰めてやればよいのだ。
確かに巨人族の機動力は騎馬部隊に大きく劣っている。
それを利用して敵軍は今まで巨人族の長所である物理攻撃力を無力化してきたわけであるが、その手品のタネが分かっていてなお敵軍の思惑通りに動いてやる義理などカタリナたちにありはしない。
要は敵がやっていることをそっくりそのままやり返してやればいい。
言うは易し、行うは難しとはよく言うが、これは本当に簡単なことなのだ。
即ち、巨人族の長所である怪力を利用して騎馬部隊の長所である機動力を発揮できなくさせる。
こうして作られたのが巨人族専用の盾である。
湊発案によるこの盾は、文字通り巨人族の誇る圧倒的な膂力と巨体があってはじめて持ち運びが可能なものであり、その巨大さたるや成人男性がバンザイした高さを優に超えるほどの正に即席の城壁と呼ぶに相応しい抜群の存在感を発揮している。
この盾には湊がドワーフの職人に特注して作らせた通常の盾には存在しないギミックが一つ組み込まれている。
というのもこの盾、形状そのものは平らな長方形というごくシンプルなものであるが、通常と異なるのは敵の攻撃を受けるその盾の表面である。
巨人族の盾の表面には、見るだけでも痛々しい、正に凶器といってもいいような鋭く尖った金属製の棘のようなものがびっしりと敷き詰められている。
ただし、その棘が付いているのは盾の全面ではなく、下側4分の1ほどあたりまで。
残りの上4分の3は他の種族が使う普通の盾と同じ滑らかな表面となっている。
なぜこんな偏った作りになっているかというと、この盾を使って戦う仮想敵が主としてヒト種だからだ。
というのも、仮に巨人族同士が互いにこれを手にして戦うのであれば盾の全面に棘があったとしても意味はあるはずなのだが、この盾で自分よりはるかに小さいヒト種と近接戦で戦うとなると、互いの極端ともいえる身長差により凶器たりえる金属製の突起が意味をなすのは盾の下側だけであり、また、敵の攻撃が届くのもまた巨人族の足元だけである。
要するに、ヒト種を相手として考える限り、攻撃の手段として使うのも防御のための威嚇として使うのも、巨人族側の立場からすれば盾の下側だけに棘がついていればそれで十分なのである。
かといって、残りの盾の上側が無駄な部分なのかというと、必ずしもそうとは言いきれない。
盾の上部は上部で敵の放つ矢や魔法などの遠距離攻撃から身を隠すために必要不可欠な存在であるからだ。
ただ単に同じ巨人族や竜種など巨大な体躯の相手と戦うとでもいう場合でもない限りは、面倒くさい手間をかけてまでわざわざ盾の上側に棘を付ける必要がどこにもないというだけのことである。
しかし、ここまで長々と説明をしておいてなんだが、この盾に組み込まれているギミックとはこの棘のことではない。
いや、正確にはこの棘もそのギミックの一部ではあるのだが、そのギミックの意味するところがこの棘部分の攻撃や威嚇の手段としての使い方ではないと言ったほうがより正しいであろうか。
それにこの程度の工夫ではあくまでも盾の仕様の範囲であって、とうてい仕掛けなどと大仰に呼べるほどのものとは言えないだろう。
ではその仕掛けとは一体どういうモノを指しているのかというと、この大楯、実は底にあたる部分が蝶番状になっており、この棘の部分はロックを外すと蝶番のある底部分を軸にして下側を回ってクルッと270度まで回転するように出来ている。
ちなみに蝶番の部分は270度以上は回転しないようになっているので、棘の部分がそれ以上内側に回ってくることはない。
つまりそれは、蝶番を一番開いた状態で盾がI字状からL字状になり、棘の部分が下に向いて地面と平行になるということだ。
では、この状態に何の意味があるのかというと、その答えは単純にして明快。
真下に向かって生えた棘を、大楯を地面に固定するためのストッパーとするためである。
地面に向かって棘が伸びているその蝶番の部分、ちょうどその反対側の上を向いている側に乗ってぐっと体重をかけるようにして棘を一気に地面に押し込む。すると棘の部分が地面に深く嵌まり込み、盾が完全に地面に固定される。
初めてこの盾を見た者は一様にどうしてそんなギミックが必要なのかという疑問を頭に思い浮かべるが、この盾に備えられている機能は全てヒト種、ひいては巨人族の天敵たる騎馬部隊に勝つという目的、それだけのために作られている。
もう既に結果が出ているから今更微細にわたり説明をすることは省くが、アンリエスト王四十無湊が戦場にこの大盾を投入したのは、この巨大な盾を壁のように並べることでトンガール王国の騎馬部隊を圧死させる、もしくはその動きを止めることにある。
騎馬による全力の突撃は、受け止める巨人族側にも相当な負担がかかる。
もちろん巨人族の圧倒的膂力と重量を以てすればその衝撃とて十分に耐えることは可能だ。
しかし、そのように大変な思いをして踏ん張らなくても機械的な工夫でその衝撃を受け止めることが出来るのであればそれに越したことはない。
この蝶番はそのために組み込まれたギミックなのだ。
あらかじめ敵の進路を予測し、受け止める盾の方向を決めて地面に固定しておけば、敵は事実上『巨人族が構える盾』ではなく『地面に生えた壁』に向かって突っ込んでくることになる。
盾と大地が衝撃を受け止めてくれるのだから、後はその激突の衝撃で地面に刺さった棘が抜けてしまわぬよう、刺さっている棘の上に重石として乗りつつ壁に激突して自殺していく敵の間抜けっぷりをのんびりと眺めているだけいい。
もちろんこの用途においては盾と大地を繋ぐ蝶番の部分に相当な圧力がかかることになるため、この部分には貴重な超硬質金属であるアダマンタイトを惜しみなくつぎ込んである。
極めて固くはあるが加工がしにくいアダマンタイトは、本来ならばこのような曲面を多く描く蝶番のような物を作るのには適した金属ではない。
しかし湊の依頼を受けたゴラードたちは、無茶振りともいえるその注文を見事にこなしてみせた。
もしこれが人間国家が抱える鍛冶師たちによるものであったなら、蝶番の部分が滑らかに回る回らない以前に、まともな形にすら成型できていなかったであろう。
これこそが彼らドワーフ族が脈々と受け継いできた技術の集大成である。
こうしてドワーフの技術の粋を注ぎ込んで作られたこの罠の最も悪辣な点は、その相性の差から圧倒的優位に立っていると思い込んでいる騎馬部隊が、死が自らに迫るその直前にイケイケな状態から一気に絶望のどん底に叩き落されることにある。
有頂天な気分のまま、自分が罠にかかったのにも気づかない状態でサクッと死ねるのならばまだいい。
しかし、このトラップは、ほんの刹那の瞬間であろうが騎馬兵たちは必ず自分たちの犯した失策とその先に待っているであろう避けえぬ死を意識し、恐怖する。
なにより、騎馬兵たちは『戦場にあって敵と一合の刃を交えることもなく自ら壁に激突して無様に自殺する』という己の醜態に絶望しながら死んでいくことになるのだ。
ここまで上手くこの罠がハマったのは、敵が騎馬兵という高機動部隊であったことと、この罠の視認の困難さ。この二点に尽きる。
棘が地面に突き刺さったままの状態でも蝶番の部分は270度までなら回転するので、盾の持ち手から手を放して前方に押してやれば壁は前倒しになって地面にへばりつくように真っ平らになる。
あらかじめトンガールの騎馬部隊が突撃してくるであろう方向に向けて並べた状態で地面に倒して、上から軽く砂でもかけて隠蔽しておけば、じっくり観察する余裕のある歩兵ならばともかく、高速で一気に突撃してくる騎馬兵から気づかれることはまずない。
あとは騎馬部隊の突撃をギリギリまで引き付けてもはや回避することが不可能という距離にまで迫るのを確認してから、盾部分をL字に引き上げればいい。
敵の目には何もないところからいきなり自分の目の前に金属製の壁が現れたように見えることであろう。
しかしその段階で今更盾の存在に気付いてももはや後の祭。
全速力で走っている馬は急には止まれない以上、慣性の法則にしたがってそのまま大人しく大楯に向かって衝突するより他に彼らの未来は存在しなかった。
騎馬隊の後方にいたため運良く壁の前で止まれた、もしくはほとんど存在しない僅かな壁と壁の隙間を通り抜けることができた、あるいは衝突ぎりぎりでからくも馬から飛び降りることに成功した者などもほんの数人だけ存在したにはしたのだが、そんな彼らの幸運ももはや品切れ。手ぐすね引いて待ち構えていたエルフの狙撃部隊によってすぐさま射殺されてしまう。
決死のアクロバットも実らず、その死因が圧死から矢による刺死に変わっただけであった。
「ここまでは完全にこちらの思惑通りだにゃー」
「そうね。今のところはほぼ完璧といってもいい出来だと思うわ」
「今日の騎馬隊の惨劇もそうにゃけど、昨日もあのヌルヌル川を超えて夜襲をしかけてくるだにゃんて敵さん考えもしてなかったにゃ」
「昼間の戦いで底に落ちた士気を上げようって意図は分かるけれど、最低限の見張りしかないほとんど無防備な状態で酒盛りしてたものねぇ。こちらが仕掛けた罠なんだから、それを攻略する方法も同時に知っているとは考えなかったのかしら」
「知っているかもとは思ったかもしれにゃいが、まさかその方法が川を丸ごと凍らせて渡るとは思っていにゃかったはずだにゃ」
「川を凍らせれば渡ることが出来るという発想自体はあったとしても、ヒト種の操る新語魔術では何百人集まろうが絶対に実現不可能だから無意識の内に候補から外してしまったのかもしれないわね」
「そんなの妖精族の操る精霊魔法でだって簡単に出来ることじゃないにゃ。少なくとも十数人単位での大魔法が必要になるはずにゃん。なのにそれをたった一人で成し遂げてしまったんだからセリネは凄いにゃ。宵闇の魔女の称号はダテではないということにゃん」
ノワールの言う通り、水に溶けた状態ではあれだけ猛威を振るった悪魔苔も、凍結させてしまえば渡ることは容易になる。それどころか凍った表面が荒く毛羽立つ性質があるため普通に凍った水よりもむしろ歩きやすくなってしまうくらいだ。
川を凍らせる一連の作業は闇夜に紛れておこなった。
もちろんこれは悪魔苔の弱点を秘匿するためである。
しかしこの情報を秘匿するのはあくまでも念には念を入れてということであって、仮にこの情報を敵に知られたところで、実のところこちらの不利な状況になるようなことはほとんどない。
まず第一に、先ほどセリネが言った通り、しょせんは劣化模造品に過ぎないヒト種の新語魔法では宮廷魔術師レベルの人間を何人集めようが川ごと凍結させることなど到底不可能だということ。
第二に、仮に何らかの手段で敵が川を凍結させることに成功した。あるいは川を完全に凍結させるような猛烈な寒波に合わせて敵が侵攻してくるような事態になったとしても対応策が十分にあるということ。
こちらには単体で川一つ凍結させることができる魔力を持つセリネやウルミラがいて、彼女たちがいない状況であってもアンリエスト軍にはまだエルフを始めとする妖精族や鬼人族や蜘蛛人族など高魔力保有種族たちが揃っていて、ある程度の人数集めることで同様の現象を再現することが可能だ。
より難易度の高い凍結魔法を使って川を凍らせることが出来るのだから、比較的難度の低い魔法である炎熱魔法で凍結した川を溶かすことなど造作もないことであり、侵攻してくる敵は氷の上を渡っている間に溶けたぬるぬる川に流されていくか、氷を溶かすための火炎魔法に巻き込まれて焼死するのが関の山である。
逆に考えれば、敵魔法使いが炎熱魔法を用いてこちらの張った氷を溶かそうとする試みはあるかもしれない。
しかし、ヒト種の操る新語魔法と、亜人たちが操る精霊魔法では元々の魔法強度が天地ほども異なる。そのため生半可な魔法ではびくともしない。
セリネやカタリナの操る最上位魔法である古代語魔法に至っては新語魔法と比較することすら馬鹿馬鹿しいレベルだ。
唯一警戒しなければならないのは敵側に所属する祝福者もしくはナトーヤ教の使徒の存在であるが、彼らが出てきた場合にはこちら側もそれに対抗できる祝福者もしくはウルミラやルシルなどの神人が出て対応すればいいわけである。
こうして計画通り順調に戦闘を続けているアンリエスト軍に対し、トンガール側は数を頼みにした侵攻は川を挟んで完全に食い止められ、虎の子である飛龍部隊は全て墜とされ、夜襲を許して糧食を焼かれ、頼みの騎馬部隊もあっさりと叩き潰され、そしてこころの拠り所ともなる神の遣いである使徒たちですらろくな戦果を上げられないまま無様に敗北した。
「これは結局のところ、ヒト種の戦術がかつての決戦時から1ミリたりとも進歩していないという証なのでしょうね。かつてのヒト種の祖先は、個々の戦闘力に勝る亜人に勝つために必死で知恵を絞り出したのでしょうが、現在のヒト種はその結果に驕って何の工夫もなくただ過去の栄光にあぐらをかいているだけですものね」
彼らの策らしい策といえば過去の栄光を頼りにこちらの出す種族に対応して相性の良い部隊を送り込んでくるワンパターンな戦術だけ。
その戦術とて自分で考えたものではなく、ただ単に過去の成功例を模倣しているに過ぎない。
それ以外は? というと、地形もこちらの動きも関係なくただただ圧倒的な数の力か使徒の力に物を言わせてごり押ししてくることのみである。
それこそ、そのあまりの愚直さに、逆に何か裏があるのではないだろうかと相手をしているこちらの方が不安になってくるほどであった。
そしてその思考停止が招いた結果こそが現在のトンガール軍の惨状である。
川を挟んで互いに向かい合うという昨日と全く変わらない状況。
だが、トンガール軍のこちらへ向かって突撃してくるその勢いは明らかに昨日とは異なるレベルで激しい。
何が何でも川を渡りきってこちらから食料を奪わないと自分たちが飢え死にしてしまうのだから当然といえば当然かもしれない。
昨晩セリネとノワールが率いた夜襲部隊が敵方の糧食をほとんどを焼き尽くしてしまったことで、敵軍の取れる行動は大きく二つに限定された。
即ち、撤退するか、もしくはアンリエスト軍を撃破して食料を奪い取るか……だ。
ただし、この場合でもトンガール軍が撤退するためには二つの問題点をクリアしなければならない。
一つは何の戦果も上げられないままスゴスゴと撤退することをトンガール王に認めさせること。
こちらは今更考えるまでもなく無理筋であろう。
そもそも敵国から食料を奪わないと自分の国そのものが干上がること前提での出兵などカタリナから見れば気が狂っているようにしか思えないが、トンガール王の頭は本当に大丈夫なのだろうか?
そしてもう一つは、撤退する兵に対しての食糧の調達……である。
敗北して兵を引くからといって、それだけで兵たちの食欲がなくなるというものではない。
そもそもトンガール軍の用意した糧食からして国民から餓死寸前まで搾り取ったものであったため、撤退したところで兵の飢えを満たす食料など国中どこを探しても存在していないのだ。
この状況で無理矢理軍を撤退させると何が起こるか?
手元にないのであればほんの僅かでもあるところから奪うしかない。
すなわち敗残兵たちによる村々への略奪である。
そしてこれは自国内に餓えた狼の群れを解き放つに等しい行為だ。
敵将であるアルマークは応用力には欠けるものの決して無能な男ではない。
当然今の状態で自軍を撤退させることのリスクに気が付いていることだろう。
彼にとっては非常に気の毒な話であるが、今のトンガール軍は兵を撤退させるための条件が両方とも達成が不可能な状態にある。
ならば今のトンガール軍に出来ることはたった一つ。
是が非でも川を渡り切ってアンリエスト軍を食い破ることである。
今まさに行われているトンガール軍の決死の突撃は……つまりはそういうことなのだろう。
アンリエスト陣へと向かってくる敵兵の迫力が昨日とは明らかに違っている。
しかし、その勢いもおそらくはもうピークを過ぎている。
そしてその勢いは時間がたつにつれて落ちていく一方。これから盛り返す可能性はほぼゼロと言っていい。
トンガール軍最後の希望であった騎馬部隊が全滅したことで彼らの心を支えていた最後の柱が完全に折れたということもあるだろうが、彼らの勢いを落としている最も大きい要因はおそらくは兵たち自身のコンディション。
昼間は無茶な突撃を繰り返した上に何の戦果も上げられない大敗北で精神的にも肉体的にもボロボロ。
夜はアンリエスト側からの夜襲に不意を打たれて陣中は大混乱。
次の夜襲はいつなのかとびくびくおびえながら過ごしているところに夜襲の隙をついて影の祝福者であるロジエ・ロロッサが陣内の至るところに仕込んでいた時限式爆裂符が不規則に爆発を繰り返して夜は一睡もすることができず。
おまけとばかりに糧食が燃えたことでまともな朝食にもありつけなかった。
このように心身ともに弱り果てている状態で最後の力を振り絞って戦っているのが今の彼らの現状だ。
しかしそんな肉体の限界を気力だけで持たせる状態がいつまでも続くはずがない。
そして彼ら自身もそれがよく分かっているからこその先ほどまでの猛攻だったはずだが、その勢いが弱まってきている今、いよいよ限界が見えてきたということなのだろう。
「トンガール軍の勢いも目に見えて落ちてきているし、もはや万策尽きたといったところかしら。終わりは近いわね」
「だにゃー」
どうやらセリネたちもカタリナと同じ見解のようだった。
ここまでくればもはや夜襲を行う必要さえない。変な冒険心など抱かずとも川を挟んで適当に相手をしていれば勝手に相手が弱っていってくれるのだからあとは相手が自滅するのをじっくりと待てばそれでいい。
「さて、彼らはあとどれくらい頑張ってくれるかしらね?」
「せいぜい二日持てばいいとこじゃにゃいかにゃ?」
セリネの呟きにノワールが冷笑を浮かべながら答える。
そんな彼女の予想はずばりと的中し、二日後の夕方、トンガール軍総司令官アルマーク将軍はようやく降伏の使者をカタリナの元へと送り出すこととなる。




