↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/87

第四章 戦争編 ⑭

パソコンの調子が悪いので、初めてスマホで書いて投稿してみました。

正直上手くいったのか自信ありません。

誤字等もいつもに増して多いかもしれません。

報告いただければ迅速に対応したいと思いますので、もしもおかしなところがあれば教えていただければ幸いです。



 ーー駆ける。


 寝る間も食事する間も惜しんでただひたすらに戦場目掛けて駆け抜ける。

 例えそれがどれだけ距離があろうとも、どれだけ道が険しかろうと、ただひたすらに、愚直なまでに真っ直ぐ最短距離で。


 「頼む、間に合ってくれっ!」


 トンガール騎馬部隊隊長のランカスター・トライドは、そのあまりのオーバーペースに一人、また一人と脱落していく部下たちーー中には馬上で突然意識を失いそのまま地面に倒れ落ちた者さえいたが、それらを一切顧みることなく、ただ心の中で『すまぬ』と声をかけながら残された部下たちを鼓舞しつつひたすらに目的地に向けて駆け抜けていく。


 卑劣なるアンリエスト軍が川中に張った罠は予想以上に広範囲に仕掛けられており、馬で渡れそうな場所《ポイント》は完全に潰し尽くされてしまっていた。

 既に日は落ち、道無き道を手元のわずかな灯りを頼りに暗闇をかき分けながら進んだランカスター一行が、少なくない犠牲を出しつつもようやくのことで向こう岸まで渡れそうだというポイントまで辿り着くことができたのは、日をまたいで翌日になってからのことであった。


 ここまで徹底して罠を張ってあるとなると、アンリエスト軍は相当前から入念に準備を進めてきたとしか思えない。

 しかし、それを認めるということは同時にこちらの軍事行動が完全に敵に対して筒抜けであったことと、機動力のある騎兵を使って敵の張った罠を大きく掻い潜って敵陣の側面から突撃するというアルマーク将軍の起死回生の策すら敵司令部の予想の範疇であったということを意味する。


 別働隊を率いての奇襲というものは敵軍に露見していないから効果があるのであって、敵の監視下で行われるそれは単に無謀な自滅行為でしかない。


 つまり、敵軍の意表を突いて側面から襲い掛かろうという我が軍の決死の策が今の時点でもう事実上瓦解してしまっているということだ。


 その事実に気付いた時、ランカスターは絶望のあまり暫しの間目の前が真っ暗になってしまった。しかし……。


 「いや、まてよ……?」


 ふとした頭に一つの考えが思いつく。

 これは逆にチャンスではないだろうか?


 敵の罠の張りようから考えるに、敵司令部は今のランカスターたち騎馬部隊が取っている動きを事前に予測した上で迂回路を潰しにきている。それは間違いない。


 しかし、ランカスターたちが罠を大きく迂回して戻って来るまでの時間はどうであろうか?


 もちろん敵とて馬鹿ではない。こちらの移動速度を綿密に計算した上で罠を設置しているであろう。

 だが、もしもランカスターたちが敵将が想像しているよりも遥かに早く戦場に登場したらどうなる?


 ランカスターたちがやって来る方法と方角が分かっていても、やって来る時間が大きく予想から外れてさえいればそれは立派に奇襲として通用するのではないだろうか?


 そしてその時刻が予想されていたものよりも6時間、いや、3時間でも狂わせることができれば、敵の予想を大きくずらすことが可能になる。


 そう考えた末に決行したのがこの強行軍である。


 食事も睡眠も一切取らず、最低限の休憩だけを取って夜通しの移動。


 やむなく取った休憩すらヒトのためではなく馬を休め食事を与えるためのものである。


 しかし、それほどまでに強引な思いつきを無理に押し通せばやはり現実に皺寄せがやって来る。

 ほとんど休憩もなしに走り続けさせられたことで、他者のそれよりもはるかに速く持久力が高いはずのランカスターと長年連れそった相棒《名馬》ですらとうに限界を越えて今にも倒れそうにフラフラとよろつき始める始末。


 これでは予定通り戦場に辿り着けても満足に突撃することすら出来ないかもしれない。


 目的地まではもうあと少し。このまま突撃するか、それともこの場で最後の休憩をとるか……。

 究極の二択であったが、ランカスターは後者を選択した。

 部下たちの様子を見るに、今の状態で突撃を強行しても、下手したら敵に届くまでに失速しかねなかったからだ。


 ここまで来ておきながらという気持ちはもちろんある。今この瞬間もおそらく絶望的な戦いを繰り広げているであろう味方のためにも一刻も速く援軍として駆け付けてやりたいという気持ちもある。

 何より、ここまで必死に食らいついて来たランカスターの配下から即時の突撃を要請してくる声が大きかった。


 ランカスターの心の中の天秤が、休憩から突撃へと大きく傾きかけた。


 しかし、同時に『本当にそれでいいのか?』と本能が警鐘をならしている。


 焦りに任せて急ぐあまり肝心の騎馬の突撃速度が弱まっては何にもならないのではないか、と最後の理性が必死で自分を押し留めようとする。


 そこで改めてランカスターは部下たちに視線を向けた。

 皆が自分の命令を待ち望んで目を爛々とさせている。強行軍の疲れは隠しきれないものの戦意も覚悟も十分。彼らは十分に戦える。


 だが、肝心の馬が疲れ果てていた。


 馬に騎乗することで部下たちの体力もかなり消耗している。しかし、当たり前の話だが、一番疲れているのは自分たちを乗せてここまで走り続けてきた馬自身だ。

 中には満足な休憩もないまま限界を越えて酷使したせいで、この場に着くなり力尽きて息絶えてしまう可哀想な奴すらいた。

 仮にこの状態で突撃を敢行したとしても惨憺たる結果になるのは目に見えている。


 一刻も早く仲間たちの援護に駆け付けたい。

 自分たち騎馬部隊こそが、圧倒的不利な自軍の状況を唯一打開しうる最後の希望であるのだから。


 しかし、一時の感情で全てを台無しにする訳にはいかない。


 そしてランカスターはついに決断した。


 「この場で最後の休憩を取る」


 「団長っ!」


 「今は休んでいる状況では……」


 「我々ならまだ行けます!!」


 ランカスターが告げると、部下たちから非難の声が次々と上がりだす。


 しかし、ランカスターはサッと右手を上げて彼らの声を制すると、目に力を込めながら再度告げた。


 「休憩だ! お前らの言いたいことは分かるし焦る気持ちは俺も同じだ。しかし、我らの気持ちがどうであろうと、馬が既に限界を越えている。今の時点で相棒が満足に歩くことすら出来ない状態であることは他ならぬお前たちが一番良く知っているはずだ」


 図星であったのか、ランカスターの言葉に部下たちが一斉に下を向いて黙り込んでしまう。


 「それにだ……」


 ランカスターは言葉を続ける。


 「確かに俺は休憩とは言ったが、休むのは馬だけだ。お前たちは違う」


 その言葉に部下たちの表情がおかしいものを見るように『は?』と歪んだ。


 「お前たちには馬の体力が少しでも早く回復するよう馬に水を与え、更に濡れタオルで疲労部分を冷やしつつ綺麗に体を拭いてやるという仕事があるんだからな。のんびり休んでいる隙などあると思うなよ。ではかかれ!」


 「「「「…………は、はいっ!」」」」


 ようやくランカスターの意図が伝わったのか、部下たちは一糸乱れぬ敬礼を見せると、飛びつくような勢いで自分の相棒の元へと散っていく。


 流石に王国軍きってのエリート部隊である騎士団員。目標が定まれば行動は早い。


 ランカスターはそんな部下たちの姿を頼もしく感じながらも、自身の相棒の世話をすべくゆっくりと踵を返した。



◆◆◆



 相棒たちにとっては決して十分な休憩ではなかったかもしれないが、それでも休憩前とは比べものにならないほどの勢いでランカスターたちの駆る馬たちは目的地へ向けて走ってくれている。


 無理に無理を重ねて相当に辛いだろうに、それでも自分たちを背に乗せて走ってくれているのは、やはり騎乗者たちの決死の覚悟を感じとってくれているからであろうか。


 先程最後の休憩を取ったのはランカスターにとって英断であったが、必死に駆ける自分や部下たちの相棒の様子を見るに、やはりあれで正解であったのだと思う。


 騎士と騎馬は一心同体。

 互いの信頼が鍵となる。

 今回の作戦で多大な無理をかけているのは分かっている。

 だからこそ、無理をさせているなりに相棒のことは大事に思っているのだと、無理をさせて申し訳ないと思っているのだと相手に伝える意味でも先程の休憩は必要なものだった。


 「ラトラニウスよ!」


 ランカスターは走る愛馬の首筋に優しく手を当てながら話しかける。


 「この戦いが終わったら、軍を辞めて暫くはのんびりと体を休め、その後に共に旅をしながら様々な国を見て回るとしようか」


 「ヒヒィィィィィィン!」


 言葉が通じたのか否か、偶然にしては出来過ぎなタイミングでラトラニウスは嘶きを返してくる。


 「そうか、お前もついてきてくれるか。ではまずは目の前のこの戦いに勝利しないとな」


 話している内に視界の向こうに川を挟んでトンガール軍と戦っているアンリエスト軍の姿が入ってくる。しかも…………。


 「おお、まるでナトーヤ神様がお導きになっているかのようだ!」


 ランカスターが思わずそう声を上げてしまったのには理由がある。


 なぜなら、ランカスターたちの突撃予定地点である敵軍最左翼に、最もいて欲しいと思っていたサイクロプスとトロールの巨人部隊が配置されていたからだ。


 機動力の高い騎馬部隊は、パワーこそあれど比較的動きが緩慢な巨人族とは相性がいい。


 その相性の良さたるや、かつてのヒト種と亜人種との大戦において、亜人軍屈指の攻撃力を誇る巨人部隊を、ヒト種の駆る騎馬部隊が散々に翻弄して全く機能させず、騎馬を追って孤立した個体を騎馬部隊総がかりで各個撃破した。

 この騎馬部隊の活躍はかの戦争でのヒト種の勝利における大きな勝因の一つであったと記録が残っているほどである。


 「我ら騎馬部隊の目の前に巨人部隊を配置するとは、敵将ながら何と迂闊な配置であることか!」


 「今までの采配を見るに、まさか敵将が巨人部隊と騎馬部隊との相性の問題を知らぬとも思えぬのでおそらくは我々の到着前に移動させるつもりであったのだとは思いますが……」


 「然り。しかし、これも全て行軍速度を上げて敵方の予想していた到着時刻よりはるか前に到着時刻をずらすという団長の作戦がピタリとハマったおかげです」


 部下たちの言う通り、天啓とも言える一瞬の閃きによる作戦がここまで見事にハマるとはランカスター自身思ってもみなかった。


 そして、この千載一遇の隙を逃すほどランカスターは甘くも無能でもない。


 「これぞナトーヤ神の天意である。皆の者我に続けーーーー!」


 「「「「おおーーーー!!!!」」」」


 それまでに蓄積されてきた疲労や体調不良がまるで嘘のように、ランカスター率いる騎馬部隊は一塊になって巨人たちが待ち構える敵陣左側面へと突撃を敢行する。


 ここが勝負所と、分かっているのか、愛馬ラトラニウスの足取りも先ほどまでとはうって変わって軽く、そして鋭い。


 両者の距離はどんどんと近づき、あと少しで射程圏内に入るというところで、ランカスターは馬上槍《ランス》を構える腕に力を込めた。


 「むっ、なんだ?」


 ランカスターは訝しげに声を上げる。

 あと数秒で両者が激突するというところで、突然巨人たちが一斉に地面にしゃがみ込む仕草を見せたからだ。


 「巨人どもめ、何をするつもりだ? いや、迷うな。奴らが何を企もうが我らが為すべきことはただ一つ。偉大なる神よ、我に力を!!」


 ランカスターは突撃の威力を上げるため愛馬の速度を更に上げる。

 人馬が一体となってまるで一つの巨大な槍となって巨人たちにせまっていくトンガール王国の騎馬部隊。


 まもなく激突しようかというその瞬間、突然ランカスターたちの目の前一面に陽の光を浴びて金属特有の光沢を放つ高さ3メートルほどの鉄の壁が立ちはだかった。


 「なっ、なにぃぃぃぃ?」


 慌てて回避しようとするも、突如現れたその壁は避ける隙間もなくぴっちりとそびえ立っており、かといって今から止まろうにも、全速力で最高にスピードが乗った今の状態ではどれほど強く踏ん張ろうが慣性が働いて勢いを殺すことなどもはや不可能。


 もはや自身の死が避けられない、正に死神が目の前でゆっくりと手招きをしているとでもいうべきその刹那の瞬間、ランカスターは不思議とゆっくり時を刻み出した視界の中で、目の前に突然現れ、自身を死の世界に送り込む元凶となる壁のその正体に気がついた。


 自分たちのいく手を阻むようにそびえるそれは壁ではなくただの大盾。

 巨人たちが自身の身を守るのに丁度良いサイズに作られたそれを隙間なく並べたものが突然目の前に現れた壁の正体であった。


 つまり、敵軍は騎馬部隊と巨人部隊の相性の問題などとっくの昔に解決済であったということだ。

 騎馬部隊と相性が悪いとされる巨人部隊をわざわざ左側面に配置したのも、全てはランカスターたちを盾の前に誘い込むための敵将の罠に過ぎない。


 「はは、約束は果たせなかったが、死ぬ時は一緒だったな」


 ランカスターは長年共に戦場を駆け抜けた愛馬に向かって自嘲の笑みを浮かべる。

 こうして、慣性に引かれるままランカスター率いる騎馬部隊はそれぞれの愛馬と共に黄泉路へと旅立っていった。

 

 

◆◆◆



いやいやランカスターはん、それ死亡フラ………げふんげふん……。


あと、前回の話で蜘蛛人族以外がなんで川を渡ることができたのかの答えは、次回の投稿で明かされます。

エピソード的に今回のにはちょっと入らなかったので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。