第四章 戦争編 ⑧
物語の視点が変わるので今回投稿する予定だった部分を二回に分け、先に書きあがった分を先に更新致します。
分割した残りの分は近日中に更新したいと思っています。
また、これは以前に報告で書いた構成上後ろに回した話とは別ですので、次話を更新した翌日か翌々日には更にもう一話更新出来ると思います。
毎度亀更新で申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。
「予定より少し早いが、フィラドの奴はもう始めているようだな」
戦場を大きく迂回し一人敵陣を目指すジョセフ・アルノッグは静かに独白する。
高台の方から発せられたなじみのある魔力の波動。
遠く距離が離れていてもすぐに魔力の主が断定できてしまうその強力ながらも荒々しい魔力紋。
いちいち視線をやって確認するまでもない。
ジョセフの同僚、フィラド・ランガードが目標と戦闘に入ったのだ。
(相手は只者じゃない。くれぐれも油断するなよ)
彼が向かった場所にいるのは、遠く離れたトンガール軍本陣からですら感知できる強大な魔力の持ち主。
そしてその敵にはあの飛竜部隊を遠距離から全滅させた未知の攻撃がある。
ナトーヤ神から直々に強力な能力を与えられ、数多の神敵を撃破し蹂躙し嬲り尽くしてきた自分たち神の眷族の力を以ってしても、決して勝利が約束されないほどの脅威。
いや、己の心に嘘をつかずありのままの事実を認めるならば、自分たちナトーヤの使徒二人がかりでも勝利することができるか怪しい正真正銘の怪物。
フィラドが向かった敵が発している魔力量はそれほどのものである。
本来ならば彼を一人でやっていいような相手ではないのだ。
今回の戦争においてナトーヤ神殿からこの戦場に派遣されてきたのは自分とフィラド、そしてブラッド・ワードワースの三人。
しかし、ブラッドは敵本隊にいる闇の祝福者を抑えるために既に単身敵陣へと突入してしまっている。
つまり、ここに残されている戦力は自分とフィラドのみ。
当初の目標通り一人が敵の本陣を叩くとなると、必然的にもう一人があの強力な魔力の持ち主をあの場に足止めしなければならなくなる。
初めに二人がかりで難敵を倒してから本来の目標であるアンリエスト軍本陣を叩くという考え方もなくはなかった。
しかし、その案で行った場合、かなりな高確率であのバケモノ相手に自分たち二人が返り討ち、万が一勝てたとしても本来の目標が達成不可能なほどに損耗している可能性が高いことから断念せざるを得なかった。
かといって、あの恐ろしい魔力の持ち主を完全に無視して二人で直接本陣へと向かうという案はもっとあり得ない。
敵にはあの飛竜部隊を全滅させた謎の長距離攻撃があるからだ。
いつどこからどんな攻撃を受けるか分からない以上、距離が離れているからといって安心することなど出来やしない。
つまり、作戦遂行のためには絶対にフリーにさせてはいけない相手なのだ。
結論から言って、無謀な行為だと分かってはいても一人が犠牲になる覚悟でかの強敵を足止めするしかなかった。
では、どちらが怪物に、どちらが敵本陣に向かうのかという話になるのだが、1対1に特化しているフィラドに対し、ジョセフの祝福は乱戦にも対応できる。
その特性を考えれば、フィラドが強敵の相手に向かうことになるのは必然であった。
『へっ、心配しなくとも異教徒ごとき片手間にぬっ殺してきてやんよ』
別れ際にフィラドは強気なセリフを吐いていたが、傍目にも彼が強がっているのは明らか。
『すまない。頼む』
使命を果たすために己の死をも覚悟した同僚に、ジョセフはそう声をかけるのが精一杯であった。
もし自分に彼に出来ることがあるとすれば、一刻も早く敵本陣を壊滅させて敵将の首を取り、決死の戦闘を繰り広げているだろう同僚の下へ駆けつけてやることくらいである。
(俺が駆けつけるまでくれぐれも無理するなよフィラド。いくら絶望的な状況だろうとも、決してあきらめるんじゃないぞ……)
ジョセフはフィラドの無事を心で祈りつつ、自身の戦場であるアンリエスト軍本陣へと向かう。
多少大回りでも余計な戦闘は避け、気配を殺し、兵たちに見つからないよう浸透する。
自分の目標はあくまでも敵の大将首。
もちろんジョセフの実力があれば力に任せて敵を薙ぎ払い、強引に敵本陣に迫ることも可能だ。しかし今の彼には余計な雑魚どもを相手にして無駄な時間を消費している余裕などどこにもない。
余計な時間を消費すればするほど同僚の生き残る確率が減っていってしまうからだ。
(しかし、なんなんだあの異常なバケモノは! あの理不尽なまでの魔力……。あれではまるで神話の時代に現われたという神の器と使徒を全てを道連れにした……。いや、考えすぎだな。どうやら思っている以上に私は弱気になっているらしい。気を引き締めねば!)
自戒している間にようやく目標の天幕を視界に捕らえ始める。
(幸いまだ誰も気づいていない。悪いが時間もないことだしこのまま一気に片をつけさせて貰う!)
ジョセフは走りながら己の祝福武器である大剣に魔力を通し、上段に振りかぶる。
(異教徒の王妃よ、何も知らぬまま死ぬが良……むっ!?)
今にも必殺の一撃を繰り出そうとしたその瞬間、敵本陣の天幕から突然黒い塊が飛び出してきた。
「させないにゃん!」
ジョセフが振り下ろすより先に繰り出されたその剣閃は最短距離でまっすぐジョセフの喉元へと迫り、逆に不意をつかれた彼は攻撃を中断して全力で回避に専念せざるを得なかった。
「――チィッ」
不意打ちするどころか逆にやり返された己の未熟に思わず舌打ちするが、それで敵の行動はまだ終わらない。
無理な体勢のまま強引に回避行動を行ったジョセフの隙、それを逃さず次々と攻撃を繰り出してくる黒猫獣人の少女。
その速さ、鋭さ、隙のなさ。只者ではない。
左右に手にした小剣で刹那の間に流れるように叩き込まれる少女の剣線。
それらの打ち込みを必死で凌ぎ、ようやく己の体勢を整えたジョセフが目にしたのは、本陣の天幕から飛び出して武器を構える増援の二人。
彼女たちに共通しているのはあのエルフをも超える美しい容姿とその特徴的な銀色の髪。
一人がA級派遣者として名高い『魔女』セリネ・アル・ウルカ。
そして、もう一人がアンリエスト王妃、カタリナ・デュ・肆十無・クレッサール。
此度の戦争におけるアンリエスト軍の総司令官にして、ナトーヤ教の殺害標的となる神敵であった。




