第ニ章 世界で最も新しき国⑥
「……よかろう」
厳かに告げると、アレスは玉座から立ち上がった。
「アンリエスト地方を貴殿に譲り、その上で貴殿が立ち上げる国家を承認して同盟を結ぶこととしよう。国務卿、それと外務卿、さっそく調印の準備を!」
「「はっ!」」
国務卿ストラガと外務卿ノウエンラートはアレスの指示に従い、部下をまとめて即座に作業にかかりはじめる。
なんだかんだ言っても彼らはアレスが直々に国家の重鎮に加えた者たちであり、官僚としては極めて優秀な能力を備えている。
急な命令ではあるが、必ずやこの同盟にふさわしい舞台と書面を作り上げてくれることであろう。
慌しく動き始めた二卿を眺めつつそんなことを考えていると、「よろしかったのですか? 陛下」と不意に横から問いかけられる。
「むっ?」
何者かと声の主を視線で追うと、そこにいたのは一人の老人。
さきほどまで湊と質問の応酬を繰り返していた宮廷魔術士のログロア・トランドだった。
「ログノアよ、私の決定に何か不満でもあるというのか?」
ギロリと睨みつけながら詰問すると、「まさか」と慌てた様子もなくログノアは頭を振る。
「陛下がお決めになったあの青年たちとの同盟の締結。これに関してはなんら異論はございません。ですが……アンリエスト割譲の理由が姫様救出の褒美というのはいささかまずいのではないですかな?」
「……で、あるな」
やれやれとため息をつきながらアレスは頭を掻いた。
ログノアの言っていることは正しい。
攫われたクレッサール王族を取り返した者に領地を割譲して独立を認める――。
ひとたびこういう前例を作ってしまうと、次に同様の事例が起こった際にも同様の対処を取らなければならなくなってしまうからだ。
そんなことを何度も繰り返していたら王国の国土など瞬く間になくなってしまう。
「確かに他に明確な理由が必要になる……な」
「しかし、あれだけ広大な領地を割譲するのに誰もが納得できる理由となるとそうそうございませんぞ」
「悩みどころであるな……」
「困りましたな……」
二人して言葉に詰まってしまう。
何とかして対外的に良い言い訳を見つけて理由をそらさないことには、クレッサール王族を一度誘拐しておいて、その上で救出したフリをして身柄を返還し、その代償に国土の割譲を迫る……などという手段をもってヘムガールやトンガールにつけこまれてしまう事態にもなりかねない。
かといって馬鹿正直にヘムガールとトンガールに対抗するために領土を譲り渡したなどと発表するわけにもいかない。
名指しで指名された両国がクレッサールのその主張を完全な宣戦布告として受け止めるであろうことは疑いようもないからだ。
その本質はどうであろうと、本音と建前をきちんと使い分けないとならないのが政治である。
しかし、だからこそアンリエスト地方を割譲するにあたって誰もが納得できるような説得力のある言い訳が必要になってくるのであり、自分やログノアがこうして頭を痛めてまで悩んでいる原因でもある。
「お父様……」
ログノアと二人で顔を突き合わせながらうんうん唸っていると、横合いから娘が呼びかけてくる。
「あっ、ああ、カタリナか。どうしたのだ?」
ハッと我に返り娘に視線をやると、彼女は突然しなやかなその足取りでアレスの目の前に立ち、そしてドレスの裾を両手で摘むと優雅に一礼してみせる。
上質の絹のような白銀の髪がアレスの目の前でサラリと揺れ、その挙措の可憐さに場にいた一同思わずホウとため息を漏らしてしまう。
彼女はそのままゆっくりと顔を上げ、いきなり改まった娘の態度にどうしたのかと呆気にとられているアレスに向かって、ニコリと一つ愛らしく微笑みかける。
しかし、さながら天使のごとき可憐な笑みに包まれたカタリナのその口元から、この後悪魔のごとき心惑わす言葉が飛び出てくることになろうなどとは、この場に集う誰一人として予想していなかった。
「お父様。改めましてこの場にてお別れの挨拶を申し上げます――」
「…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………は?」
唐突に娘から投げかけられたその別れの言葉に、思わずアレスは間の抜けた表情で問い返してしまう。
「ひっ、姫っ! おっ、お別れとは、一体ど、ど、どういうことでございますか?」
過去の戦において、百の敵に囲まれた時にも平然とした態度を崩さずに危機を乗り越えたと謂われるほどの剛の男であるログノアが、今や狼狽しまくりの噛みまくりでカタリナを問い詰めている。
かく言うアレスも頭の中がパニックをおこしていて、未だ娘の言うところの「別れ」が意味するところの真意に辿りつけていない。
「どうといわれましても……。その言葉の意味する通り、今日を以って私カタリナ・デュ・クレッサールがこのクレッサール王国から立ち去る……としか申し上げることができませんが……」
「なっ!」
「なんだと?」
衝撃の宣言である。
「どっ、どどどどどど、どうして?」
自分やログノアの慌てっぷりとは対称的に、カタリナの態度は落ち着き払っていた。
「なぜなのだ? どうしてこの国を去ると。いや、そもそもこの国を出てどこへ何をしに行こうというのだ?」
次から次へと脳裏に湧き起こってくる疑問を矢継ぎ早に言葉にしていく。
「この国になにか不満があるのか?」とは問わない。
同じ王家の一族の何某かから隣国へその身柄を売り飛ばされる寸前まで行ったのだ。不満を抱えていないという方が嘘であろう。
王家の中に潜む真犯人があがってないのだからこれからも身の安全が確保されるともいえない。である以上、この国を去りたいとなどと言い出したカタリナの気持ちがアレスにも理解できないわけではない。
しかし、それならばどこへ行くというのか。
仮にこの城、この国を抜け出たとてこのクレッサール王家の血を引いている限りは生命の安全など担保されるはずがない。
確かにこの城にはカタリナが古人種の血を引いていることを理由にして敵視している者も多い。
しかし、少なくともそれと同数かそれ以上には彼女を支持し、その身を守らんとする味方も存在しているのである。
今カタリナがこの国を出るということは、言ってみればそばにいる味方を遠ざけ、そして彼女を付け狙う敵の刺客に対して無防備な姿を晒すということに他ならない。
それではどうぞ自分を殺して下さいと言っているようなものだ。
その場の感情にすぐに流されてしまう長男ならばともかく、自分の子供たちの中でも最も聡いであろうカタリナが進んでそのような危険な状況に身を置くとはアレスにはどうしても考えられないのだ。
しかるに、娘がこのようなことを言い出すのには何か確たる理由があるのに違いない……とは思う。
だが、肝心要のその理由がさっぱり分からない。
「お父様、そしてログノア様。どうか落ち着いてください」
動揺を隠せず狼狽する自分たちの姿がおかしかったのか、カタリナは少し顔を伏せながらクスリと可憐な仕草で忍び笑う。
だがそれもつかの間のこと。すぐに顔を上げると一転真剣な表情に戻る。そして……
「……どこへ行くのかと問われますなら、アンリエストへと。そして何をしにと問われますなら、湊様への輿入れにと……」
……予想外の角度から飛んできた衝撃的な言葉。
「みっ、ミナト殿へ輿入れだとっ!」
愛娘から投下された爆弾発言に思わず大声を上げてしまう。
ログノアに至ってはあまりの衝撃に思考が停止したのか、陸に打ち上げられた魚のようにパクパクと口を開閉させている。
「こ、こ、輿入れというと……あれか? あれなのか? この世の父親が最も恐れるという……」
口走りながらも、体のわななきを止めることができない。
「そそそそ、そんな、まさか……」
何かの間違いであってくれればいいと願いながら、恐る恐る娘へと視線を向ける。
目が合うと、ニコリと満面の笑みで返された。
「……はい。アンリエストで国を興す湊様の下へと嫁がせていただくことにしましたので、お父様にこうしてお別れの言葉を申し上げております」
カタリナの言葉にサ――――ッとアレスの視界が真っ白に染まっていく。
残念ながら娘の言い間違いでも自分の聞き間違いでもなかったようである。
「み、み、湊殿っ、これは一体どういうことなのだ? 納得のいく説明を――」
もう一方の当事者である湊へ向けて半ば反射的に詰問の言葉を投げかけるのだが……。
「………………」
彼自身も寝耳に水の話だったようで、自分やログノアほど無様に狼狽はしていなかったものの、眼帯に包まれていない隻眼が驚きによって大きく見開かれていた。
一瞬それも青年の演技なのではないかと疑ったのだが、彼のその様子をみてカタリナが悪戯な笑みを浮かべたのを見て、それは間違いであったと確信する。
「姫、どうして急に私に輿入れなどと…………あ、いや、なるほど。そういうことか……」
疑問を投げかけようとした湊だったが、その途中で娘の意図に気がついたのか、途中でその言葉を飲み込んでしまう。
「おそらくご想像になられている通りだと思いますわ、湊様」
カタリナは湊を正面からみつめると、小さく頷いてみせる。
「だが、あなたはそれでよろしいのですか? 何もあなたが犠牲にならなくとも他の方法で……」
「いいえ、違いますわ」
言いかけた湊をカタリナが遮る。
「この役目は他のお姉さまたちではなく私でなければならないのです。それは湊様もお分かりになっていらっしゃるでしょう? それに……私は国のために犠牲になるつもりなどさらさらありませんから」
言うと、カタリナはわずかに頬を紅く染めながらはにかんだように微笑む。
「私は私自身の意志であなたの元へ参りたいと思ったからこの役目を申し出ました。それが結果としてこの国を救うことにはなりますが、あくまでもそれは私にとってみればもののついででしかありません。あと、湊様の部下の方から湊様が恋人を故郷に置いてこられている旨は伺っております。ですが、お傍にさえ置いていただけるのでさえあれば特段第一夫人や第二夫人を主張するものでもありませんのでどうかご心配なきよう」
「…………そ、それは……」
「それとも、私はあなたの政略上の側室としてすら不足な存在でしょうか?」
「あ、いえ、そんなことは決して……」
不安そうな表情を見せるカタリナに、湊がわずかばかりながらもたじろいだ様子を見せる。
「ど、どういうことであるか? カタリナ、そしてミナト殿。きちんと我らにも分かるよう説明していただきたい」
自分たちが圧倒されっぱなしだった青年を娘が圧していることに対して、意趣返しとしては多少胸が晴れる気分も確かにある。
しかし、全体としてはすっかり話に取り残されてしまっていることや、王であり父親でもある自分を置き去りにしていつの間にか大事な娘の嫁入りが決定しかかっていることに気がついて、アレスは慌てて二人の会話に割り込んだ。
「……理由付けですよ」
ポツリと湊が答えた。
「理由付け? 何の理由であるか?」
「お父様とログノア様がさきほど悩んでおられたではないですか。アンリエスト地方を湊様たちに割譲するにあたって他国に対して納得させることができるだけの理由です」
「――――――なにっ?」
カタリナの補足に、思わず声を上げてしまう。
「納得するといっても、もちろん他国の王たちを心の底から納得させるものではありませんよ。ただ、どんな白々しい理由であろうとも表面上文句を言えなければそれでいいのです」
「というと、具体的にはどういうことをいうのかね?」
ログノアが長く伸びた己の真っ白い髭をなでながら湊に尋ねる。
「カタリナ姫救出の功を以ってアンリエスト地方の割譲と独立を認めるとなると後世に悪しき前例を作ってしまうことになりかねない。と、ここまではいいですよね? ですが、それがことさら問題になるのは私がこの国、もっと言えばあなたがたクレッサール王家となんの関係もない門外漢だからであって、たとえば王であるあなたが娘に土地を与えて国から独立させるということであれば、それは言ってしまえばクレッサール王家の中の相続問題に過ぎないわけです」
「確かにな。兄弟で分けると領地が大きく目減りしてしまうから長男だけに家督を継がせるというのが貴族の間では一般的ではあるが、親が領地を二つに割って兄弟二人に平等に継がせた……という前例も過去に全くないわけではない」
「ならば、王から領土を与えられ独立を許されたその娘がクレッサール王国とは縁もゆかりもない男と結婚して、その夫に王の座を譲ったとしても何の問題もないわけですよね」
「そっ、それは……確かに……」
呟きながらも、その強引な論法にログノアは思わず言葉を詰まらせてしまう。
「ううむ……」
アレスは腕を組んで一つ唸った。
湊の言っていることは確かに乱暴な論理だ。しかし理にはかなっている。
もちろん「国土を割ってまでして子供のために新たな国を作った」などという前例など過去には一切存在しない。
だが、少なくともこれはなにがしかの手柄に対する個人への褒美ではなく、あくまでも王家内の遺産相続の範疇であるから、今後誘拐された王族を奪還したなどの手柄を立てた者が現れても前例を理由に領土を与えたり独立を認めたりする必要がなく、またそれを理由に他国から干渉を受けたりするような事態に陥ることもありえない。
そして一度領土を与え独立させた以上、その娘がどんな政治を行おうが、どんな男と結婚しようが、その内政に口を挟むことは一切許されない。
逆に言えば、独立したその国家が行うことに関してヘムガールやトンガールなどからどんなに苦情が来ようが、クレッサールとしては知らぬ存ぜぬで済ますことができるのである。
娘を独立させ、勝手に新しい国家を立ち上げさせたことに対しては他国から文句が来ることはあるかもしれない。
しかし、それを言い出したらこのクレッサール王国を含めた周辺五国はそもそもが過去に栄華を極めたアンリエスト帝国が分裂して分かれた国家群であり、当時の帝室の血を最も濃く受け継いでいるのがクレッサール王家である以上、「国が分裂するのがいけないのならば、クレッサール王家を中心として元の一つの帝国に戻すべき」という話にならないとおかしいわけであり、当然ながら他の四王家がそんなことを認めることなどあるはずもない。
つまり、新国家を設立するに際して他国から出てくるであろう反対意見を論破し黙らせることなど、さほど難しくはないのである。
だが、もちろんそれは理屈の上では……という話である。
ヘムガールやトンガールなどの他国がどうこう以前として、そもそも他ならぬアレス自身がこの問題に納得がいっていないのである。
主に感情的な面で。
「そもそもどうしてお前なのであるか? 王家の血を引いてさえいれば別に他の王女でもよかろう」
「いいえ、お言葉ですがこの役目は私以外では駄目なのです」
問い詰めるアレスに、カタリナは小さく頭を振った。
「そもそも今回の誘拐事件においてお父様の子供の中でどうして私がその対象に選ばれたのでしょうか? それは、私が古人種であるお母様の血を引いているからです。ではどうして古人種の血を引いていると攫われるのでしょうか? それは事件の黒幕であるヘムガール及びトンガール両国で深く信仰されているナトーヤ教の教義で古人種を含む全ての亜人の存在が認められていないからです。ヘムガールとトンガールが私のことをいわば名指しで狙っている訳ですから、私がこの国に留まる以上は国家間の争いの火種が尽きないということです。これではこの国に対する両国の害意は変わることがないですし、そもそも誰とはいいませんが黒幕である両国と繋がっている者がこの国の王家に紛れ込んでいる以上、私の命は常に危険に晒されることになります。味方の皮を被った敵というのがある意味一番手に負えないというのはお父様も良くご理解されているはずです」
「しかし、ヘムガールとトンガールからの敵意ということであれば、ここにいようがミナト殿のところにいようが大差ないではないか」
「残念ながら、それも違います」
アレスの意見に対し、申し訳なさそうな表情を浮かべながらカタリナは否定する。
「確かに両国から目の敵にされるということに関しては変わらないでしょう。しかし、ここに残るのとアンリエストへ嫁ぐのとではその濃度が大幅に異なります。例えるならば私はクレッサール王家という白い花が咲く樹に咲いた一房の黒い花なのです。傍から見ればその存在は目立って仕方がないことでしょう。しかし、湊様は自分の作る国家では亜人も平等に扱うと宣言しておられています。つまり、湊様のお作りになる国家は王家どころか国家全体が黒い花を咲かせる樹の集まりなのです」
「木を隠すなら森の中……というわけか」
「そうですね。それによってヘムガールやトンガールから注がれる全体的な敵意の量は同じでも、私個人にかかってくる敵意や悪意は大幅に薄まることになります」
「それにクレッサール王家から出ることになるので身内の手から伸びる悪意にも脅える必要がなくなりますしね」
カタリナは小声で付け加える。
「なるほどのう。それに加えクレッサールとアンリエスト双方の王家同士が血縁で結ばれれば、両国の同盟関係が一層強固になるという利点もあるわけですな。そういうことであればこの婚儀は有りかもしれませんのう……」
ログノアまでもが言い含められて、なにやら得心がいったかのようにうんうんと頷いている。
「ううむ……」
いつの間にかアレスは孤立無援の状況に立たされていた。
国のことを考えれば娘の案に乗ったほうが良いということは理屈では理解できている。
王として判断するのならば間違いなく是である。
しかし、ここにいるのはそんな理屈など糞食らえとばかりに否と喚き立てている一人の父親だった。
ここまで育て上げてきた大切な娘。
それも今は亡き最愛の后の残した愛娘である。
もちろんいずれは嫁に送り出すものと理解はしている。
それに娘の結婚の相手として考えるなら、目の前の隻眼の青年は非の打ち所のない相手といえる。
端正な容姿はもちろん、アレスをして恐ろしいと感じる頭脳の冴え、そしてなによりも彼の保有する底知れないその軍事力。
カタリナの身の安全ということであれば、自分の手元に置いておくよりもよほど彼の隣の方が安全であろう。
そんなことは誰よりもアレスが分かっている。
しかし、今回の件はあまりにも唐突すぎた。
娘を送り出す父親としての心構えを持つ時間すらも与えられないまま、いきなり、それも一方的に娘の方から「今日でお別れです」などと告げられてしまったのだ。
この状況に立たされて何の動揺することもなく「達者でな!」などと笑顔で娘を送り出せる父親がいるだろうか? いや、いない。
誰が何と言おうと絶対にいない。
「こ、ここはひとまず婚約ということで様子を見ては……」
「お・と・う・さ・ま!」
弱々しく呟いたアレスの眼前に娘が迫ってくる。
王国一とも称されるその美しき美貌には可憐な笑顔が張り付いている。だがしかし、その目だけは笑っていない。
「今はこの先確実に襲ってくるであろうトンガールの脅威に備えるためにも、湊様たちによる一刻も早いアンリエスト地方の掌握が求められている――と、その程度のことがお分かりにならないお父様ではありませんよね? そしてそれを円滑に進めるためには私との婚儀が不可欠であるということも……。事は国家の存亡に関わっているのです。なのに個人的な感情でぐずりながらいつまでも決断を先延ばしにしているのは王としても、そして娘の目から見た一人の父親としてもみっともないです。あと、一つ言っておきますが、お父様が賛成しようが反対しようがどの道私はこの国を出て行きます。そして後者であるならば私がお父様と言葉を交わす機会はこれが最後となるでしょう。それを踏まえた上でご決断ください。それで、いかがなさいますか?」
その場に居合わせた者の視線が一斉にアレスに注がれる。
この国で一番偉いはずの自分が、なぜか針のむしろであった。
「う……うむ……わ、分かったのである。湊殿との婚儀を―――――――み、認めるのである」
体中から搾り出すように、アレスはその言葉を口にした。
既に心のHPはミリの状態まで消耗していた。
その上で愛娘に愛想を尽かされるリスクを犯してまで結婚に反対し続けるほどの気骨は、もはやアレスには残されていなかった。
これによってクレッサール第四王女カタリナ・デュ・クレッサールのアンリエスト領主就任、そして即日クレッサール王国からの独立並びに新王国の設立。更に魔法帝国神無という聞いたこともない国家の公爵であるミナト・ヨツナシとの婚儀。そしてそれに伴う彼へのアンリエスト王位の譲渡――という前代未聞の報が立て続けに周辺の王国を駆け巡ることとなる。
「ありがとうございます、お父様。必ず幸せになりますので、どうかご心配なきよう」
父親から結婚の許しを得て満面の笑顔を見せる美しき王女。
そしてその傍らには、12R戦い尽くして精も根も尽き果てた某拳闘士の如く、真っ白になった一人の父親が玉座にうなだれたままガックリと鎮座していたとかいないとか。
お待たせして申し訳ありません。
今回の投稿分に関してはかなりの難産で、かなり手直しを繰り返しましたが、未だうまくまとまりきってないところもあるかと思います。
これについては追々修正していきたいと思っております。
そして合いも変わらず理屈っぽい内容となっております。正直書いているほうも疲れました(苦笑)
次回からやっと本編である新国家の内政編に移れると思います。




