第ニ章 世界で最も新しき国⑤
「貴族の方々もアンリエスト割譲に反対の方はいらっしゃらないようですね」
巧みな論術で反対意見を封じ込められて、せめてもの抵抗の代わりにと反対派貴族から発せられた悪意の視線もさらりと横に流した湊はそう宣言した。
「納得のいってない方もいらっしゃるようですが、残念ながらあなた達にはそもそも危機感が足りていない。あなた方の国が現在立たされている状況というのはあなた達自身が思っているよりもずっと良くありません。具体的に言うと『もはや滅亡一歩手前の状態まで来ている』ということです。そのことをきちんと認識していただき、そのことを私に指摘されるまで気付けなかった自分達の愚かさをを大いに恥じて頂きたい。その上であなた方には国土の六分の一を失うのか、それとも自分や家族の命を含めた全てを失うのか、それをしっかりと判断し決断していただかなければなりません」
この国に迫っている滅亡の危機に全く気づいていなかった大多数の貴族たちは、湊の言葉を聞くと一斉にアレスへ疑問の視線を向けてくる。
「……湊殿のいうことは事実だ。残念ながらな」
アレスの立場としてはそれだけ言うのが精一杯だった。
「先ほども少し触れましたが、現在のクレッサール軍の大半はヘムガールとの国境線に展開され、トンガール王国が存在する東側には最低限の兵力しか配備されていません。事実上の不可侵であった今までならそれでもいいでしょう。しかし現にトンガールはクレッサール王国に牙を剥いて王女を攫い、アンリエスト公爵であったラムセルと結んでアンリエストの地まで万を超える兵を差し向けていたのです。これが何を意味するのかはよほどの馬鹿でもないかぎり分かるでしょう? もはやトンガール王国はクレッサールにとって安心できる隣国ではなくなったということです」
貴族たちの大半はもはや言葉さえも発することが出来ずに顔を青ざめさせてしまっている。
「ラムセルという男からの証言でも分かる通り、トンガールとヘムガールが裏で手を結んでいるのはもはや明白。なので、現在ヘムガールと向き合っているガレス王子率いる正規軍をトンガール側に差し向けた場合、今度はがら空きになった国土にヘムガールがなだれ込んきてしまう。かといって正規軍を二つに割ろうものならそれぞれで各個撃破されるのは目に見えている。いずれにせよ向かう先はクレッサール王国の滅亡です」
「………………」
あまりにも理路整然とした湊の説明に。この場にいる貴族たちが揃いも揃って一言も言い返すことが出来ない。
謁見の間がまるで誰一人存在しない無人であるかのようにシーンと静まり返る。
そんな中、一人の貴族が意を決したように湊に尋ねた。
「それで……もし貴殿にアンリエスト地方を割譲したとして、その場合我々は亡国の危機から逃れることが出来るのだろうか?」
皆の心が絶望の色に塗りこめられていく中、ほんのわずかに射した希望。それにすがるかのようにみんなの視線が一斉に青年へと突き刺さる。
「ええ、できます」
そんな彼らに、力強く湊は宣言する。
貴族たちのすっかり強張ってしまった表情。それが湊の言葉を聞いて少しずつ安堵のそれへと変化していく。
「現在クレッサール王国が滅亡の危機に瀕している最大のポイントは、それが一国対二国の戦であるということです。しかもヘムガールに関して言うならばその国力がクレッサールのおよそ3倍。東のトンガールは国力そのものはそれほどでもないですが、あの国はその国力に比して異常なほど軍備に力を入れています。おそらくこの先どこか豊かな国を飲み込まないと遠くない未来に国が確実に破綻してしまうであろうほどに……」
そしてその国がこのクレッサールであろうことは彼にいちいち説明されるまでもない。
「ではこの国が一対二という危機的状況を打破するにはどうすればよいのか? 簡単な話です。こちらも別の国と手を結び二対二の状況にすればよいのです」
「ほかの国と手を結ぶだと? どこと結ぶというのだ! ダルムス大公国か? ロンジエン帝国か? いずれにせよ力を貸してなどくれまいよ。トンガールだけならともかく相手にはあのヘムガールがおるのだ。あの国を正面切って敵に回したい国などこの周辺の国家にはどこにもおるまい。なにしろ国力が違いすぎるからな」
あきれ顔でそう反論したのは国務卿のストラガだった。
実のところ、アレスたちはこの謁見の前に行った軍義で既に、他の二国を何とかしてこちら側に引き込む方法はないかとさんざん議論を巡らせていた。
しかし、それを為すにはあまりにもヘムガール王国の存在が強大すぎる。
ダルムス、ロンジエン、クレッサールで協力すれば何とかヘムガールにも拮抗することは出来よう。だが、そうなると敵側には丸々トンガール一つ分の兵力が余る計算になってしまう。
もちろん長い歴史を紐解けば、寡兵で大軍を打ち破った戦いなど幾つもある。しかし、そんなものはほんの僅かな例外。なんだかんだ言っても所詮戦争の九割九分は数でその勝敗が決まるのである。
そして、その数で大きく劣っている現状で、あえて分の悪い賭けにあの二国の王が乗ってくるとは到底考えられない。
さんざん議論を重ねた末、結局アレスたちはそのような結論に至った。
唯一の救いは、あの二国に対する牽制としてヘムガールも常に国境や各都市に兵を割かなければならないため、クレッサールが相手するのはヘムガール全軍のおよそ五分の一程度で済むだろうということだけだ。
だが、その数字とてクレッサール全軍とほぼ同規模を誇るのである。
つまり、今の段階で湊の意見を採用したところで、ヘムガールとトンガールの二国の思うがままに蹂躙されて滅亡への道を一直線に突き進む……という今のクレッサール王国の運命線はそのまま一歩たりとも動かない。
異世界から来たという彼の策である。もはや無理なのだと自分を言い聞かせつつも、本心を言えばアレスはそこにわずかばかりの希望を見出していた。
しかし、残念なことに現実はそれほど甘くなかった。
とはいえ、その案が使えなかったからといって目の前の彼を口汚く罵るのも何か違う気がする。
そもそもあと数手先で確実にチェックメイトがかかる状態から何とかしてくれとすがった自分達の方が愚かなのだ。
溺れかけて必死に掴んだのが一本の藁に過ぎなかったとしても、そしてそれを掴んだところで状況が何も好転することはないと分かっていたとしても、何でも良いからこの国が助かるという希望にすがりたかった。ただそれだけなのだ。
なんと卑しく無能な王なのだろうか。
自己嫌悪で思わず目を伏せてしまったアレスであったが、そんな彼をカタリナは相変わらず優しく支えてくれる。
「お父様、大丈夫ですよ」
そう言う娘の瞳には明確な希望の光が宿っていた。
「湊様がおっしゃった同盟相手はダルムスでもロンジエンでもありませんから。そうですよね?」
「はい。姫の仰る通りです」
頷いた湊が返してきた返答は、そんなアレスたちの予想の遥か斜め上をいくものだった。
「そもそも私がいつダルムスやロンジエンと同盟を結べといいました? 違いますよ。あなた方が同盟を結ぶのはその二国ではなく我々、魔法帝国神無です。あなた方がヘムガールの相手をしている間、トンガール軍の相手は私たちが引き受けます」
彼のその言葉には一同びっくりして思わず目を剥いてしまう。
「同盟を結ぶもなにも、貴公らの国はこの世界には存在せず、貴公自身が連れて来た配下も総勢で十名程度という話ではないか。貴公らが恐ろしいほどの実力者揃いなのは私も認めるところだが、さりとてそれだけで一国に匹敵するものではあるまい。仮に一人が万の兵に匹敵しようとも、所詮は人の手。一個人に伸ばせる範囲など限られているのだからな」
ストラガの言う通りである。
これが仮に彼ら十名と十万の兵との単純な正面からの力のぶつかり合いというのならば、もしかしたら彼らにも勝利の芽があるのかもしれない。
しかし、十万の兵の真の恐ろしさは、千人の部隊を百作り出せるところにあるのだ。
幾ら彼らが個人として強かろうと、十人しかいない以上、十箇所の戦場にしか参加できない。
つまり彼らだけではトンガール兵全てを防ぎきることなど到底不可能な話なのだ。
「二万です」
「は?」
突然彼が言った数字の意味がアレスたちには理解できなかった。
「ですから、我々の兵力は十名ではなく二万だと、そう申しました」
「に、二万! 貴公たちの世界から渡ってきたのは確か十名ほどという話ではなかったのか? それともこれからそれほどの人数を呼び寄せる算段でもあるというのか?」
「いいえ、こちらに渡ってきた私と私の部下の人数は十人ほどで間違いないです。そしてこの人数がこの先増員される予定は全くありません」
「では、二万もの兵がいったいどこからやってくるというのだ!」
悲鳴にも似たストラガの糾弾。
「私と私の部下の人数は十人で間違いありません。しかし、元々こちらの世界の住人だったのにもかかわらず向こうの世界に迷い込んでしまった――そんな人々をこちらの世界に連れて帰ってきたということであれば、その総数は五万を余裕で超えます」
そんな重要事を彼はさらっと付け加えた。
「五万人だと? 一体どこからそれほどまでの人数が貴公らの世界に?」
ストラガの発した疑問は当然のものだった。
五万人といえば中堅の都市一つ分にも相当する。それほどまでの人数が一斉に消えたとなれば大事件であり、いかにその国家が隠蔽しようとも人の噂で伝わらないはずがないのだ。
しかしストラガやアレスのその疑問はあっさりと裏をかかれてしまう。
「魔の森の中からですよ。その者たちとは、あなた達ヒト種から迫害され、そして魔の森に逃げ込んだ亜人たちのことなのですから」
淡々とした口調で告げられたその答えは、アレスたちにとって予想だにしなかった意外なものであり、そして同時に「確かにあそこならば」と不思議に納得のいくものでもあった。
「そもそも全ての始まりは我々の世界の側にあるのです。我々の世界に存在する数多ある国々、その中の一国が独断でこの世界への扉を開いてしまった」
「開いたその場所が魔の森の中だったと?」
「その通りです。とはいえ、扉を開いたその国が求めた目的地……それは魔の森ではありませんでした。いえ、より正確に言うのであればそれはこの世界のいずれの地でもありませんでした。特定の異界へと通じる扉を開く技術……その術を持っている国から断片的に盗み出した中途半端な知識で事を起こした結果がこれだったという訳です」
「つまり、本来の目的地はこの世界ではなかった? そして事故のようなものでこの世界への扉を開いてしまったということであるか?」
「ええ、その通りです」
湊は小さく頷いてアレスの問いに肯定してみせた。
「私は先ほどあなた達に理解しやすいようあえて扉という表現を使いましたが、実際のところ、開いてしまったその空間は魔の森の四分にの一にも匹敵する広大なものでした。そしてその空間の中で生活を営んでいた者達を望むと望まざるとに関わらず強制的に我々の世界へと呼び寄せてしまった……。言ってみればこれは規模の大きい集団誘拐と何ら変わりありません。たとえそれが集落ごと丸々呼び寄せたものであったとしてもです。そして勝手に連れ去ったあげく、こちらの都合でまたすぐに元の世界へ帰るよう厚かましくもお願いする……。そんな我々は彼らに誠意を持って贖罪をしなくてはならない。そしてそれこそが私がこの世界へとやってきた理由の一つでもあるのです」
「……ちょっと良いかね?」
小さく挙手しながらそう尋ねたのは眼光の鋭い白髪の老人……宮廷魔術士のログロア・トランドだった。
「なんでしょう?」
「今の話でちと気になることがあってな。おぬしの話だとそちらの世界とこちらの世界が事故によって繋がってしまったということになるが、その扉というのは今もなお繋がっているものなのかな?」
「いいえ」
湊は小さく首を振る。
「その扉に関しては、我々が迷い込んだ被害者を連れてこちらの世界へとやってきた際、私自身の手によって閉じさせていただきました。もう二度と開くことはないでしょう」
「ほう……」
興味深そうに呟いたログノアは、なおも質問を続ける。
「どうしてその扉を閉じたのかね? こう言ってはなんだが、おぬし達ほどの力があればその扉を通じてこちらの世界を力で支配することも可能だったのではないかね?」
ログノアの疑問はもっともなものだった。
鉄の城を空に平然と浮かべているような彼らの軍隊がもしこの世界に押し寄せようものなら、こちらの世界のいかような国家――それがあの強大なヘムガール帝国であろうとも――ひとたまりもないであろう。
あえてそうせず、黙って扉を閉じた湊の真意がアレスにも理解ができない。
「単純な話ですよ」
ログノアの質問に湊は苦笑いを浮かべる。
「異なる二つの世界を繋げるということは、その世界を維持している空間そのものに大きな負担をかけることになります。それが自然発生する人一人通れるかどうかくらいの規模のものなら空間の復元力によって自動的に閉じるのを待ってもいいですが、人為的に開かれた巨大な空間の歪み――あれを放置したまま維持させつづけるとなると、世界を構成する時空そのものが深刻なダメージを負ってしまい、下手すれば向こうの世界とこちらの世界の双方ともに崩壊してしまうという危険性がありました。そのため、早急にそれを塞いで元通りにする必要があったという訳です」
「なるほどのう。それで、おぬしたちの世界と繋がっていた扉を閉じてしまったとなると、おぬしたちはもはや自分達の世界へ戻ることが出来なくなってしまったと、そう理解してしまってもええんかの?」
「ええ、まあ。元の世界へと戻る手段が全くなくなってしまったかというと決してそう言うわけではありませんが、それを実行に移すには特定の条件を満たさなくてはならないため今日明日で気軽に帰るというわけにはいかなくなったのは事実ですね」
「というからには、かなりその条件というのは厳しいものだということかな?」
「そうですね。仰るとおり。少なくても一年二年でどうこうできるものでないのは確かです」
「そこで疑問なのじゃが、おぬしたちの世界へ容易に帰れないというリスクを冒してまでおぬしたちがこちらの世界へ残ったその理由――それがワシには気になって仕方ないのじゃよ」
「理解できないからよりいっそう不安だということですか?」
「まあ、そうじゃな。そう捉えてもらって結構じゃよ」
「なるほど……。その理由は大きく二つありますが、おそらくそれを聞いてもあなたが驚くようなことは何一つないと思います。それでもよろしいのでしょうか?」
「かまわんよ」
「では……まず一つ目ですが、先ほど言ったように我々の都合で向こうの世界へと連れ去り、そしてこちらの世界へと戻ってもらった被害者たちに対する贖罪をあちらの世界の代表として行わなければならなかったためです」
「なるほど」
「そしてもう一つは単純に『向こうの世界から開いてしまった扉はこちらの世界の側からでないと閉じることができない』という物理的な理由からです。つまり扉を閉じる儀式を行った者――この場合は私のことですが――は、こちらの世界の側から扉を閉じてしまったため、元の世界へと到る道が通れなくなってしまった。それだけのことですよ」
「だが、それがなぜおぬしでなければならなかったのじゃ? 聞くところによるとおぬしは母国でも有数に数えられる大貴族だというではないか」
その問いに湊は「はは……」と乾いた笑みを浮かべる。
「これも単純な理由ですよ。向こうの世界であの扉を閉じる儀式が可能なのが私一人しかいなかったのだから他に選択肢なんかなかったわけです。大貴族であろうが王であろうが世界そのものとは比べるまでもありませんよね? つまりはそういうことです」
「なるほどのう……」
「我々の世界に迷い込んでしまった魔の森の亜人たち。彼らがこちらの世界に大人しく戻るにあたって我々に突きつけてきた条件、それが『自分達が安心して暮らせる場所を確保できること』でした。詳しく話を聞いてみれば、彼ら亜人はあなたたちヒト種から酷く迫害され、このままでは遠からず滅び行く定めにあるとのことだったので、彼らのその要求は至極当然のものであると言わざるを得ません」
「それで、貴殿たちはそれを了承したということであるな?」
「仰るとおりです陛下」
アレスの問いに湊は首肯する。
「ここまで話せば既に予想がついていた方もいらっしゃると思いますが、我々はアンリエスト地方を手に入れ、そこに彼らのための王国を作るつもりでいます」
「アンリエスト地方の割譲が譲れぬ最低限の条件と言ったのはこのためであるな?」
「その通りです。彼ら亜人は自分達の国を守るために戦う意思はあれど、クレッサール王国を守るために命を懸けて戦う義理などどこにもありません。ですから、こちらが二万の兵を出すということは、すなわちアンリエストが我々のものになったということと同義なのだとあなた方にきちんと認識していただく必要があります」
彼のその遠まわしなその口調には「割譲を断るなら兵は出さない。滅亡したければどうぞご自由に」と挑戦的なニュアンスが込められていた。
「なるほど……な」
ここに到ってようやくアレスにも目の前の青年の意図することの全貌が見えてきた。
「要するに、貴殿は自分が王となって亜人たちの国を作り、その上でこのクレッサールとトンガールの間の緩衝地帯になろうとしてくれているわけであるな?」
「さすが聡明なことで知られるアレス王、ご慧眼、恐れ入ります」
「……で、私が貴殿の要求を断った場合、その二万の兵で我がクレッサール王国を攻め滅ぼすつもりでいるのか?」
アレスの投げつけた一言に一瞬だけ青年の表情から笑みが消えた。だが、彼はすぐにニコリと人好きのする微笑を貼り付ける。
そして……
「さて、私達が欲しいのはあくまでもアンリエスト地方ですからね。もっとも、どうしても頑なに断られるということであれば、亜人たちとの約束を果たすためのそういう選択肢も我々にとってはないわけではない……とだけ言っておきましょうか」
さらっと毒混じりの返答を投げ返してくる。
「で、あるか……」
アレスは大きく頷いてみせながら頭の中で状況を整理する。
今クレッサール王国が現在国家存亡の危機に立たされているのは、ヘムガール帝国とトンガール王国両国に狙われているからだ。
なぜならば、クレッサール王国の力ではヘムガール王国軍を凌ぐことまでは出来ても、残ったトンガール王国の攻撃を防げるだけの力までは残されていないからである。
持てる大部分の兵力をヘムガールとの国境へと回している今、残されたわずかな守備隊を抜いてこの王都を落とすことができる戦力を有しているのはなにも隣国トンガールだけではない。
その気になりさえすれば、目の前の青年が率いる亜人たちがいつこの国へと攻め入って来てもおかしくはないのである。
そして彼の言う二万の軍団という数字が本当であれば、ろくな兵力が残されていないこの王都は瞬く間に蹂躙し尽くされてしまうであろう。
良いも悪いも、納得するもしないもないのだ。
最初っからアレスたちには選べる選択肢など何一つなかったのである。
「最後にもう一つだけ尋ねたい」
アレスは真正面から湊の瞳を見つめて問うた。
「貴殿は二万の兵を有していると言ったが、トンガールの動員できる兵力はおそらく十万にせまるだろう。アンリエストを渡すとなった場合、わが国への進入を阻む鉄壁の楯となりてトンガール軍をきっちりと退けてくれると考えて良いのであろうな?」
「トンガールごとき相手するのに何の問題ありませんね。なんなら同盟国としてそちらの国境で睨み合っているヘムガール戦にも手を貸してさしあげましょうか?」
不遜な物言いだった。
しかしその言葉には一切の偽りや虚勢が感じられない。
少なくとも目の前のこの青年が心のそこからそうなると信じているのは間違いなさそうだった。
本当はこのクレッサールからのアンリエスト割譲はさらっと流してさっさと内政編に突入したかったのですが、一国の国土の六分の一を手に入れる交渉がさらっと終わるのも不自然かなと思いなおした結果、このような長丁場になってしまいました。
演出上とはいえ貴族達の抵抗がいちいちしつこいので、この辺は後々訂正させていただくかもしれません。




