第9話
「文化祭! 文化祭!」
「変なリズムで歌わないの」
ミキはお弁当を食べ終えていた。
でも、ふたの上にミニトマトがひとつ乗っている。
今日は食べないからね。
ミキはうかがっている。
「思ったより、冷静だね。もっと、舞い上がるかと思ったのに」
「私はいつも、冷静です」
「空田さんが来るんでしょ。あんたの口車にのせられて」
「口車じゃありません。学校の文化祭、見に来ませんか? って、言っただけ」
「それだけで来るんだ。既に、尻に敷き始めたか。やるな」
私は無視して半分残っているお弁当を食べ続ける。
「それで、ツーショットは?」
「まだ‥‥‥」
「よし。メイド喫茶の横にプリクラを設置しよう」
「出来るの? そんな事」
「簡単。段ボールの小部屋を作って、ポラロイドカメラを設置すればいい。スマホにプリンターっていう手もあるけど、高いしひと手間かかるからね。ポラロイドなら、簡単ですぐできる。アタシ持ってるし」
「ミキって、やっぱりすごいね」
「見直した?」
ミキが、ミニトマトの乗ったふたを押し出してくる。
「見直した」
私は、それを押し返す。
「ツーショット、できるんだよ」
またミニトマトを動かす。
「それと、これとは別。今日は食べてもらうからね。ミキのママに申し訳ないし。愛情たっぷりのミニトマト入りお弁当を」
「愛が重い」
「私のママと同じくらいだと思うけど」
「いや、アタシのママの方が重いね」
「自慢になるんだよね。それ」
「多分、そう」
お弁当を食べ終えた。
「あんた、メイドに立候補するんだよ」
「どうして?」
「空田さんと、イチャイチャしたいでしょ」
「どうして、そうなるの?」
「海部潮美は空田さんを文化祭に誘った」
「うん」
「空田さんが、うちのクラスに訪れる」
「うん」
「うちの出し物は、メイド喫茶だ」
「そうだけど」
「メイドになったクラスの女の子が、空田さんに萌え萌えキュンをする」
「‥‥‥」
「あんたがメイドになれば、空田さんと誰かがイチャイチャするのを阻止できる」
「‥‥‥」
「さあ、どうする?」
「‥‥‥」
「頑張るしかないよね」
ミキがミニトマトを押し出す。
「ミキ、一緒にメイドになろう」
「アタシが空田さんとイチャイチャしてもいいの?」
「駄目っ!」
強く押し返してしまった為、ミニトマトがふたから転げ落ちそうになる。
「あっ!」
ミニトマトは机の上に落ちてしまった。
目が合う。
ミキはおもむろに拾い上げ、口の中に放り込む。
「三秒ルール」
ミキが嫌いなミニトマトを食べている。
分かってたんだね。
「ミキ、そういうとこ、好きだよ」
「やっぱり、不味い」
笑ってしまった。




