第8話
「すごーい。久しぶり見たけど、やっぱお兄さん凄いね」
「勝率八十パーセント。ニイチャン、腕落ちたね」
ミッコちゃんの指定した縫いぐるみが、一度では絶対取れない位置にあったからだ。
分かってて言ってるだろ。
僕は、わざと失敗しておどけるようなことは、もうしない。
この子たちは気を遣わなくて大丈夫だ。
僕は全力で、クレーンゲームに臨んだ。
その結果が八十パーセントだっただけだ。
「これで、全員にいきわたったね。じゃあ、次はニイチャンのコーディネートだ」
各自縫いぐるみをだいて、ほくほく顔の女友達を連れて重美が引率していく。
「いいなぁ。私も妹になりたい。重美、結婚して」
「なんだ、それは」
「いいじゃん。あんなイケメンお兄さん、私にも分けろ」
類は友を呼ぶだな。重美とミッコちゃん、どっちが明るいんだ。
他の子たちも負けてないか。
この中で、僕だけが、暗い。
いや、ゲーセン全体の中でも、僕だけが異質なのではないか。
ここは、はしゃいで楽しむ場所だ。僕は、はしゃぐことが出来ない。
重力に逆らって飛び跳ねている女子中学生たちのなか、僕の靴は床に固定されていた。
重美が腕を組んでくる。
「さあ、行くよ」
「じゃあ、私も」
反対側からミッコちゃんが腕を組んでくる。ほんとに陽キャラだ。
「駄目、これは血縁者だけの特権!」
「だから、重美と結婚すれば‥‥‥」
「それも、却下!」
僕は、ふたりに引っ張られて歩き出した。
まるで『捕まった宇宙人』の逆バージョンみたいだ。
それから、僕は女子中学生の着せ替え人形にされた。
みんな楽しそうだ。
まとめ役の重美の制御が効かなくなっている。
主に暴走しているのはミッコちゃんだけど。
頼むから、文化祭に来て行けるラインまでにとどめてくれ。
他の子も服を持って順番待ちしている。
こんなことだけでも、この子たちは楽しいんだな。
いいなぁ、中学生活。僕も、こんな風に過ごしたかった。
みんなと同じように悩み、同じタイミングではしゃぎ合える、そうなれれば幸せだっただろうな。どうしてできなかったんだろう。努力はしたのか? もう、遅い。悔やんでも、仕方ないんだから。
重美が肩パンしてきた。
分かってる。今日は僕もみんなと一緒に楽しむんだ。
人形になった僕はみんなを見渡す。
テンションがさらに上がっている。何だか、コーディネートで勝負しているみたいだ。そんなに握りしめたら、服がしわになるぞ。大丈夫なのか?
誰が一番か。いいかもしれない。
今日は人形に徹しよう。
みんなに引き上げられ、床に張り付いた靴も剥がれかけていた。
楽しい、かもしれない。
こんなシーン。漫画で読んだな。
重美が持っていた少女漫画だったか。
重美の最終判断により、僕の服が決まった。
ちょっとだけ派手目だが、僕の好みを逸脱しない延長線上にある。
いいチョイスだ。
勝者は、初めてあった女の子だった。知り尽くしている妹に勝つ場合もあるんだな。
予定調和にならない選択肢もある事が世の中か。
この先、何が起こるんだろう。
文化祭がさらに楽しみになった。




