第7話
約束してしまった。
城北高校文化祭。
まだ、一か月以上ある。
どうすればいい?
海部さんに誘われて、ついオーケーしてしまった。
行きたくないかと言えば、行きたい。
楽しみでもある。
何を着ていけばよい。
パソコンを起動させる。
いつもより立ち上がるのが遅いような気がする。
ネット通販で『男性用カジュアルウエア』を調べる。
六万着もある。
誰が見るんだ。
モデルが笑顔で着こなしている。
笑えない。
僕のための通販は存在しないと思った。
エルサイズで再検索しても、六万着は変わらない。
そもそも海部さんは、どんな服が好みなんだ。
分からない。
海部さんは一般的な女子高生なのだろうか?
そもそも、一般的ってなんだ。
僕は何も知ろうとせずに、生きてきたことを痛感した。
とりあえず、不快感を与えないようにしよう。
アドバイザー。
フリースクールのみんなには聞けない。
自慢話に聞こえる。
僕よりはましかもしれないけど、女の子慣れしていない。
もちろん、女の子に聞くこともできない。
フリースクールに親しい女の子はいなかった。
女の子。妹がいる。
だが中学生だ。中学生と女子高生は違うのか? 同じなのか?
性別は同じだが、別の生き物なのか。分からない。
僕はパソコンからメールを妹に送った。
前回送ったのが、いつだったか覚えていない。
メールは送るたびに消去していたから。
『一般的な質問。十九歳の男は、何を着ればいい』
返信はすぐ届いた。
【情報不足。TPOが分からない。】
『例えば、文化祭』
【フリースクールに文化祭ってあるの?】
『城北高校』
スマホが鳴った。
相手は妹の重美からだった。
「はい」
スマホをスピーカーにして、パソコンテーブルに乗せる。
「ニイチャン!」
賑やかだ。
ゲーセンにいるのか。
「もう少し、左。行き過ぎ」
何を言っている。
クレーンゲームかな。
落胆の声が聞こえる。
失敗したのか。
「ニイチャン、城北って、共学だよね。50%のうち、どっち?」
「‥‥‥」
「どっち!」
「‥‥‥フィーメイル」
「ちゃんと、女の子って言いなよ」
『イケー、そこだ』という女の子たちの元気な声が聞こえる。
重美の周りに男はいないようだ。操作してるの男じゃないよな。
また、失敗したのか。落胆の声に変わる。
「これ、ママと共有するね。お寿司と焼肉、どっちがいい」
「‥‥‥すし」
「じゃあ、ちらし寿司もオプションで入れておくね。食べたら、作戦会議だ。ミッコたちも連れてくる? 頼りになるよ」
「お前だけでいい」
「分かった」
一際大きな落胆の声。最後だったのにと大きな声、あれはミッコちゃんだったのか。
もう、三年以上会ってないな。
「全滅だ。ニイチャンのせいだからね。責任とって、週末、ゲーセンに集合ね」
「僕のせいなのか?」
「その後、服選んであげるから。縦じまシャツばかりじゃ、女の子に飽きられちゃうよ。じゃあ、週末、ゲーセンで可愛い妹様と待ち合わせね。縫いぐるみ期待してるよ。ニイチャン、得意だったでしょ。空間認識」
『お兄さん、待ってまーす』ミッコちゃんの声が差し込まれる。
「じゃあ、ね」
勝手に掛けてきて、勝手に切った。
さすが妹だ。
僕が持ってこれなかった欠片を拾い集め、生まれてきた。
陽キャラ×2 最強の誕生だ。
クレーンゲームは得意だった。
二回連続の時は歓声が湧き上がった。
でも、三回目になると誰も騒がなくなった。
四回目、わざと負けておどけてみせると、みんな離れていった。
いつもそうだ。
重美は嫌がらせでゲーセンに誘ったわけじゃない。
分かってる。この何もない部屋から連れ出そうとしてくれてるんだ。
僕はスマホを引き出しに入れる。
久しぶりに、全力でやってみるか。クレーンゲームは得意だ。
重美は知っている。手を抜いたら、何を言われるか分からない。
それに、一般的な十九歳男子の服も選んでほしい。
できた妹だ。
僕とは違うな。やはり。
でも、僕も前に進むと決めたんだ。
あの頃の僕に言ってやりたい。
誰かを悪者にする落としどころを選ぶな。
そして、自分がそれを引き受けるなと。




